2017年1月にリリースされたゲームソフト「バイオハザード7 レジデント イービル」は,世界中のゲームファンのみならず業界にも衝撃を与えた。新しいエンジン「RE ENGINE(アールイー エンジン)」で,全編がVR(バーチャルリアリティ)に対応するという世界で初めての試みを採用。大ヒットを生み,ゲームの歴史に新たな1ページを刻んだ。2017年「Golden Joystick Awards」ではベストVRゲーム賞に輝き,「The Game Awards」の2017年ベストVR/ARを受賞。「PlayStation Awards 2017」ではユーザーズチョイス賞,PlayStation VR賞,Gold Prizeなど賞を総なめにした。このタイトルを開発,リリースしたのは大阪に本社を置くゲーム大手の株式会社カプコン。同社の技術研究開発部技術開発室所属で,「RE ENGINE」開発の中心的な役割を果たしたのが,京都コンピュータ学院(KCG)卒業生の高原和啓さん(2007年3月卒業)だ。その実績から,技術交流会やイベントでの講演依頼が相次ぎ,いまや「時の人」となっている。同じくKCG卒業生の米山哲平さん(2013年3月卒業)もゲームエンジンの開発に携わり,リー・チェスター・チン・チェンさん(同)は側面から多数のタイトル開発を支えた。2018年1月には同社が誇るハンティングアクションゲームの最新作「MONSTER HUNTER:WORLD(モンスターハンター:ワールド)」を発売。ゲーム業界をけん引しているともいえる,このKCG卒業生3名に同社研究開発ビルに集まっていただき,ゲームの仕事のやりがい,今後の目標,KCGの学生へのメッセージなどを語ってもらった。聞き手はKCGデジタルゲーム学系主任の高橋功先生。(文中敬称略,座談会は2017年11月に実施しました)
PlayStation 4(PS4),Xbox OneおよびPC向けのゲームでシリーズ最新作。"新大陸"と呼ばれる,多種多様な地形や生態系が息づく未知の大陸に足を踏み入れる調査団の一員であるハンターとなり,数々の強大なモンスターに立ち向かう。従来作の約2~2.5倍となる広大なフィールドや,迫力あるモンスターなどの世界観は,細部までリアルに表現され,プレイヤーの没入感を高める。加えて,プレイヤーをモンスターまで導く「導蟲(しるべむし)」や環境を利用した狩猟など,初心者から上級者まで楽しめるゲームシステムが至る所に散りばめられ,「モンスターハンター」シリーズのノウハウと最新のゲーム開発技術を最大限に活かした作品。
「モンスターハンター」シリーズは,雄大な自然の中で巨大なモンスターに立ち向かうハンティングアクションゲーム。「友人と協力して強大なモンスターに挑む」という通信協力プレイが新たなコミュニケーションスタイルを確立し,「モンハン現象」と呼ばれる社会現象を巻き起こした。2004年に家庭用ゲームでの第1作を発売して以降,13年を経た今なお確実にファンを増やし,シリーズ累計販売本数4,000万本(2017年6月30日時点)を誇る大ヒットシリーズに成長している。
http://www.capcom.co.jp/ir/news/html/170920.html
―まず,いまカプコンでどのような仕事をされているのか紹介してください。
高原 3人とも技術研究開発部技術開発室に所属し,ゲームエンジン開発を担当しています。同じ室に所属はしていますが,注力しているタイトルはそれぞれ違います。カプコンには2つのゲームエンジンがあり,私はそのうちの「RE ENGINE」の開発をしています。
米山 今は「モンスターハンター:ワールド」のエフェクトのコアシステム全般を担当しています。
チェスター カプコンがこれまで使ってきた「MT FRAMEWORK(カプコンが自社のゲーム開発用に作成し使用しているクロスプラットフォーム環境およびゲームエンジン)」など,カプコンが今までずっと使ってきたエンジンの全体的な保守を担当しています。いくつかのタイトルの開発サポートにまわることもあります。
―KCGの学生たちは「モンスターハンター:ワールド」の発売を楽しみにしています。「何の武器を使おうか」など盛り上がっていますね。「バイオハザード7」なども合わせ,KCGの卒業生が,そのような大ヒット作の開発に携わっているのは誇りです。
米山 今回「モンスターハンター:ワールド」のエフェクトを象徴するものの一つに導蟲(しるべむし)の存在があります。導蟲は一粒一粒を実際に計算していて,まとまりながらも,ふわっとした生物的,有機的な動きをGPU Particleによって表現しています。GPU Particleを始めとしたエフェクトのシステム開発は「大変なのでは?」と聞かれることがありますが,新しい表現や機能を思いついたときに「これは行けそう」と思うことが多く,楽しみながら開発することができているためそこまで大変とは感じていません。
―ゲームの技術はどんどん進化していますが,開発する際には,チーム担当者から要望を受けてやるのか,逆に「こんなことができますよ」と持ち掛けるのか,どちらですか。
米山 タイトルによって違いますが,「モンスターハンター:ワールド」に関しては,このタイトルに特化したシステムを作ることができました。アーティストの方には,こちらから「こういうことができますよ」と伝える一方,彼らが何をしたいかをくみ取って相談しながら実装します。開発途中に「パラメーターが多過ぎないか」と思ったときにはその都度相談し,実装後も実際に使ってもらってフィードバックをいただき機能追加や改善を行っています。
高原 エンジン開発は下請けのようなものではありません。タイトルとエンジン開発に上下関係はなく,それぞれの担当者同士が提案し合いながら,良いものを作り上げていきます。そのスタンスはずっと変わっていません。また,部署内全体でひとつのタイトルを作るというのではなく,それぞれが別のタイトルを担当したり,サポートしたりするなど適材適所で仕事をする形をとっています。
―「バイオハザード7」をVRモードで遊んだときの迫力は凄かったですね。他のゲームを圧倒していました。最近はインディなどでもVRに力を入れているところが多いです。そのような中,ナンバリングのタイトルにVRを使うにあたって,どのような点に力を入れて開発されましたか。
高原 視点はいろいろありました。技術面,それにユーザーから見た面ですね。まず技術的な面から言いますと,これまではOculus RiftやHTC VIVEなどのPC向けVRプラットフォームに多くのタイトルが供給されてきましたが,それらは動作させるPCのスペックがバラバラですので,ユーザーの環境によって体験できる中身が違ってきてしまいます。まずそのようなフィルターを無くしたかったという思いがありました。PS4で遊べるのなら,全世界のユーザーが同じ体験をできます。そのうえで,今までなかったようなものを作りたいと感じていました。それが「RE ENGINE」開発のきっかけの1つでした。グラフィックなどクオリティーをいかに維持するのかも課題でした。PlayStation VR専用ソフト「KITCHEN(キッチン)」を東京ゲームショウに出展したときには,まだ「バイオハザード7」につながっていくとは思っていませんでした。「KITCHEN」でどういった評価を受けるのか,当時のカプコンの体制でVRタイトルを作ることができるのかどうか未知数でしたので,まず小さい規模で作ってみて,われわれとしてはどうなのか,ユーザーからしたらどうなのかを見てみたかった訳です。結果的に手応えがあり,「バイオハザード7」のVR化にゴーサインが出た形です。「バイオハザード7」発売後はCEDEC(セデック=コンピュータエンターテインメント協会が主催して毎年秋ごろに開催される日本最大級のゲーム開発者カンファレンス)で登壇する機会をいただきましたが,次は米山やチェスターの番だと私は思っています。
米山 「モンスターハンター:ワールド」のエフェクトに関しては今後,何らかの機会で発表する予定がありますので楽しみにしていただけたら嬉しいです。
シリーズのルーツである「恐怖」をメインコンセプトとし,ホラー性の深化を追求した最新作で,PlayStation VRにも完全対応したタイトル。加えて,Xbox Play Anywhereにも対応しており,Xbox OneとWindows10でプレイ状況(セーブ内容,追加コンテンツ,実績)を共有し遊ぶことも可能となっている。また,圧倒的な没入感溢れる恐怖体験を提供するため,従来の三人称視点から一人称視点へゲームシステムを革新したほか,カプコン独自に開発した最新のゲームエンジン「RE ENGINE」により,ハードスペックを最大限に引き出している。ホラーに焦点をあてた大幅なモデルチェンジを行ったことで,国内外のメディアから多数の高得点を獲得し,さらにはユーザーからの高い評価も話題を呼び,全世界で410万本(2017年9月30日時点)の販売に到達した。
「バイオハザード」シリーズは,武器やアイテムを駆使し脱出を試みるサバイバルホラーゲーム。1996年の第1作発売以降,シリーズ累計販売本数8,000万本(2017年9月30日時点)を超えるカプコンの代表的なコンテンツであり,登場から20年以上経過した今なお,世界中から熱狂的な支持を得ている。
http://www.capcom.co.jp/ir/news/html/171106b.html
―チェスターさんが担当している「MT FRAMEWORK」の保守の仕事とは。
チェスター MT FRAMEWORKで様々なタイトルのリメイク作品が多く発売されています。それにあたって必要な機能を追加していくのが主な仕事です。これはより強力なエンジンに仕上げるのが目的です。タイトルの一例を言うと,「バイオハザード」の4,5,6のリメイクも担当しました。エンジンについて全般的な実装や機能を見ていかなければならないので,かなりの知識が必要とされます。
―それではKCG時代を振り返っていただきます。将来,ゲーム会社で働くために,どのような準備や心構えをしていましたか。
米山 私はもともとゲームが作りたくて,実は今も仕事が終わった後などの時間に個人で作り続けているのですが,学生時代はまずそのゲームを動かすためのエンジン作りに取り組んでいました。そもそも自分の知識と技術が果たしてゲーム業界で通用するのかどうかが全く分かりませんでしたので,とにかくがむしゃらにやっていましたね。その経験を積み重ねながら,ゲームエンジンの根幹から,ユーザーが使えるツールに至るまでの知識を尖らせていきました。
高原 今もそうですし,学生のころから変わっていないのですが,それほど高尚なことを考えずに好きなことをやっていた結果,今ここにいるというだけなんです。ただ,例えばエンジニア志望でしたら自分の好きなことをプログラミングのコードに起こすことが重要だと思います。ゲームを学ぶ人ならだれでも,頭の中にいわゆる「俺の考えたすごいゲーム」を思い描いているのではないでしょうか。それを頭の中からアウトプットできるかどうかで全く変わってきます。私は社員採用の面接を担当することもありますが,その差が壁として歴然とあるように感じます。その壁を乗り越えられれば,後のスキルアップのペースが必ず早くなってきます。われわれ3人は乗り越えてきたのだろうと思います。
チェスター 私は日本語を勉強した直後にKCGに入学しました。ゲームに興味はありましたが,具体的に何を学ぶのか,何がやりたいのかが決まっておらず,漠然としたイメージを抱いていたと思います。そのような折,京都精華大学と合同授業で,「PlayStation Vita」(株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント=当時=が2011年12月に発売)向けのゲームソフト開発を題材にした授業に参加し,私がその中の一チームのリーダー役,つまりディレクターを務めました。その時は全般的なサポートをやらねばならなかったのですが,やっているうちに自分の知識が増え,フィードバックがあるとすぐメンバーに伝えるなどを心掛けていました。今の仕事もそれに近いですね。
――みなさんは学生時代でも将来をちゃんと見据えて勉強していたことが分かります。KCGは授業で基礎力を重要視していますが,いかがですか。
米山 先ほどチェスターが話した京都精華大学との合同授業では私も多くのことを学びました。自分が作ったツールについてアーティストにどのようなところが使いにくいかを聞いたり,そもそもゲームを作るにあたって何が不便なのか,時間がかかっているのかを考えたりしながら,いかに簡単にツールが使えて,いかに簡単に表現できるかということの大切さを学ぶことができました。そういった経験が生きているのか,新しい表現やツールを作ったときにアーティストから良い評価をいただくことが多いです。学生のころ,まだ「Unity(ユニティ・テクノロジーズ社が開発・提供しているマルチプラットフォーム対応のゲームエンジン)」の名前すら一般的ではなくまだまだ実用的でオープンなゲームエンジンが無かったので,自分のゲームを作るには自分でエンジンを作るしかないという思いでした。そもそもゲームを作りたいと思ったのは,ウェブ上で,たった2人でアクションゲームを作っている人を見て,こんなすごいものが2人で作れる,それなら1人でも時間を掛ければできるのではないかと感じたことがきっかけです。京都精華大学との授業の話に戻りますが,他の学校の方との共同作業でしたので,コミュニケーションをとるのがとても難しかったのです。一般的にはプログラマとアーティストは仲が悪いとよく言われていましたので戦々恐々としていましたが,そのときはチェスターが上手に取りまとめてくれたおかげでそのプロジェクトは非常に円滑にすすめることができました。
チェスター 仕事をするうえで,プログラマは基本的に自己完結してしまう傾向がみられます。着地点が見えれば,過程や結論を端折ってしまいがちです。一方,アーティストは結論に対してふんわりとしたイメージを持ち,過程で肉付けして結論に至るため,細かい説明が欲しいことが多いです。両者はゴールへたどり着くまでの道のりや結論の捉え方が違うような気がします。その結果,関係がぎくしゃくしてしまうことが多いようです。
米山 合同授業ではわれわれのチームにチェスターがいてくれたので,最も安定して作業が進められましたね。「モンスターハンター:ワールド」を作っているときにも,当時の経験が思い出され,活きています。アーティストと仲良くするのは,仕事をするうえで重要なことのひとつだと思います。その経験があり私は円滑に交流できています。
―以前,ゲーム会社は情報を全く外に出さないというイメージでしたが,今は技術面でもオープンにするなど変わってきていますね。KCGの学生も,業界の方々と交流する機会が多いです。
高原 「バイオハザード7」のVRモード開発中は社内だけでなく,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)さんと情報交換をしながら進めていて,そのときの経験は大きいですね。学生時代あるいはそれよりもっと以前から,VR技術は存在していましたが,一般大衆向けのものは商業的な成功事例がほとんどありませんでした。その後に「VIRTUALBOY」や「Oculus Rift」が世に出てきましたが,VRが将来的にどうなっていくのか,想像はできませんでしたね。自分自身,新しいガジェットが好きではありました。ガジェットだけでなくツールやミドルウェア,エンジンなど,新しいものが出ると興味がひかれ,見て,触れるとテンションが上がります。そして新しい技術を吸収したいと感じます。その感覚はいつまでも大事にしたいと思っています。今はプロが使っているものを手に入れるのにそれほどの大金を必要としません。学生さんにとっては恵まれた環境だといえます。新しいもの,プロが使っているものに手を出さないと損です。どんどん触って自分のスキルにしていってほしいですね。
米山 個人的にですが,新しいものに対し,むやみやたらに飛びついてばかりいるのもよくないと思います。あくまで自分の目標をしっかり持ち,その寄り道としていろんなものに興味を示すのなら良いことでしょうが,学生の時代は時間があまりない。新しいものに目を奪われてしまい,自分のやりたいことを見失わないように気をつけてください。
―やりたいことを見つけるのは大事なことだと思います。これだけ情報が多い時代,学生はどうやってそれを見つけていったらいいのでしょうか。みなさんは何がきっかけになりましたか。
チェスター 再び京都精華大学との合同授業の話になりますが,この経験が自分を大きく成長させてくれたと実感しています。授業が始まった時は「PlayStation Vita」が発売前で,情報が一般には公開されておらず,私にとっては真新しいおもちゃを与えられたような感じでした。様々な機能を研究しながらプロジェクトを進行させていった訳です。確かにいろいろな機能や遊びに手を出してみたいという気は必ず起きるので,モチベーションは高まります。しかし,先ほど米山が言っていたように,定めた目標から逸れないようにしないといけません。三日坊主にならず突進していくという心構えと気概が必要でしょう。そうすればきっと未来は見えてきます。継続は必ず力になります。
米山 今でいうと「中二病」というのでしょうか。中学生のころ,こんな世界観のあるゲームを作りたいと思ったのが始まりで,将来やりたいことというのはその時点で決まっていました。将来,ゲーム制作のプロになることを見据えてプログラミングの勉強を始めました。当時は書籍もそれほどありませんでしたが,高校の時に出会った「14歳からはじめるC言語わくわくゲームプログラミング教室」は良い本でした。その本を読んで更新と描画を繰り返すことでゲームは動いていることを知り2Dのゲームプログラムが作れるようになりました。ただ独学でしたので,KCGに入ってからは,ゲームのプログラムとは実際どのようなものなのか,もっと深く知りたいと思っていました。私はずいぶん前から目標が決まっていましたが,一番大事なのは,「中二病」だから恥ずかしいなどの理由で,夢をあきらめ捨ててしまうのはもったいないということです。私も以前は正直,恥ずかしいかもと感じてはいたのですが,実際に形にすることでそれは妄言だの中二病だのと笑うことはできないのです。そうしてコツコツやってきたことは力となり自信へと繋がっています。
高原 私の場合,やりたいことがその時々違うし,変わってきています。学生のころは「エンジンもどき」のようなものを作っていました。それも米山と同じで,あるゲームを作りたかったのですが理想とするゲームエンジンが見当たらなかったため,結果的にそれに取り組んだということです。入社後は「ロスト プラネット 2」の開発を担当していたのですが,開発が終盤に差し掛かったころ,PC版のアクティブシャッター式3Dメガネを使ったNVIDIA社の「3D Vision」の対応をする機会があり,そのようなジャンルのことを手掛けるのは初めてだったので,関連する技術を調べました。これをきっかけとして,グラフィックスを本格的に勉強しました。「ロスト プラネット 2」の仕事が終わると,エンジン開発の仕事を任せられたのですが,そのときはまた,この仕事を面白いと感じ,C++言語の研究を本格的に始めました。単なるツールとしてのプログラミング言語ではなく,それ自体を1つの専門スキルとして扱えるようになるべく研究し,そのおかげで「RE ENGINE」のカーネルの開発・保守担当になれたのです。そこから「バイオハザード7」開発に携わりVRに興味を持つようになりました。その時々に応じて,周囲から影響されている部分はもちろんありますが,影響されるだけじゃなくて,自分からそれらの技術に向かっていき,どんどん吸収していこうとする姿勢は大事だと感じています。この10年間は,このようなことの繰り返しでした。今は開発から少しだけ離れて,採用など会社の渉外的な面を担当しています。開発者を支える,育てる仕事に注力しています。これも楽しいです。
―VR開発は自分から手を上げたのですか。
高原 そうです。当時,社内にはVR専任のエンジニアはほとんどいませんでした。必要に駆られてというのが半分,自分の好奇心が半分といったところでしょうか。PS4の担当がたまたま私でしたので,運も少しありましたね。いろいろな仕事をやってきて何にでも言えることなのですが,基礎を疎かにしていると応用が利かなくなってしまいます。基礎がしっかりしていないと,降ってきたチャンスを取り逃がしてしまうことにもなってしまいます。基礎の勉強はつまらないときもあるでしょうが,きちんとするのと,しないのとでは,その後の伸びが絶対変わってきます。基礎の勉強は大切にするべきです。「Unity」や「Unreal Engine(Epic Games社が開発・提供しているマルチプラットフォーム対応のゲームエンジン)」を使ってゲームを作り,リリースをしている会社もたくさんあります。カプコンでも使っています。3DCGの知識が十分になくてもゲームが作れてしまう状態が当たり前にあります。そうなると,基礎ばかり勉強している途中,焦りが出てきます。こんなことしなくてもゲームが作れる,と感じてしまうのです。ただ,知識を持たずに行うゲーム作りには限界があります。例えば,ゲームエンジンのバグに出くわしたり,エンジンでサポートされている機能以上のことをしたいと考えたりしても,そこから先,進歩をさせるのは難しいです。ただ,基礎の勉強がつまらないと感じてゲーム作りをあきらめてしまうと,それはそれで残念ですけどね。
チェスター 継続するためにはモチベーションが重要で,好奇心こそが一番のモチベーションだと思います。やはり自分で本当にやりたいことを見つけるのがスタートラインでしょうね。
―ゲームの技術は進化が止まりません。そのような中,みなさんの今後の目標,夢を語っていただけますか。
米山 ハードの性能はどんどん良くなっていくでしょう。グラフィックの点でいうと,今でもスペックはギリギリで,その中に収めるために「ごまかし」や「近似値」などを利用しているのは事実です。ただ今後スペックが上がっていくと,そのようなことだけでは通用しない時が来ると,仕事をしているうえで感じています。スペックが上がるとメモリもどんどん増えてきます。2Dのデータがどんどん3Dに変わっていく。そうなると,またいろいろ面白いことができるようになります。たとえば複雑な粒子の動きなどエフェクトの部分だけでも,いろいろできるようになるので楽しみです。ユーザーは勿論,アーティストも喜んでくれるようなエフェクトを作っていきたいです。エフェクトは広範囲な知識が必要とされますが成果が目にはっきり見えますので,モチベーションが維持しやすいです。エフェクトプログラマは正直まだまだ足りないので,KCGの学生の皆さんはぜひ狙っていただけるとうれしいです。
高原 米山は業務日報に,普段研究,実験していることなどを記してくれます。それが社員たちの刺激となっています。私の担当はPS4などマルチプラットフォームのエンジンを管理,チェックする立場ですので,いわば自分との闘いといえます。テンションを上げること,モチベーションを維持するのは正直,難しいポジションです。一番基礎の部分を作っているからこそ,私がヘマをしたら全体に行き渡ってしまいます。それは食い止めないといけません。でも食い止めるという役割だけでなく,私がちゃんとしたカーネルのコード,つまり土台を組むことにより,その上にサウンドやAIなどの機能を追加して人気ゲームが出来上がっていくのだという自信は感じています。それがモチベーションですね。直接「すごいコードだね」と言われることはあまりありませんが,自分のコードを礎に,みんなの仕事が進んでいるというのは,エンジニア冥利に尽きます。また,今後「RE ENGINE」で作られたすべてのタイトルのエンドロールに必ず名前が載ります。
チェスター 自分の仕事を無くすことが一番の目標ですね。仕事をしなくても仕事ができているのが究極のプログラマと言えます。「MT FRAMEWORK」は現在,社内で一番多く使われているエンジンですので,私たちの仕事を通さないと発売できないタイトルがたくさんあります。仕事の量は意外と多く,追い付かないようなときもあるほどです。ですので,仕事の省略化を進めています。いずれは,ダブルクリックをすれば仕事が終わるぐらいの効率化を図ることができればと思います。そうなったら私は別の,将来に役立つ技術を身につけます。
―発売を控える「モンスターハンター:ワールド」はどんなゲームですか。
米山 モンスターハンターシリーズの大切な部分はちゃんと残しつつ,随所で新しいことへの挑戦を行っています。「モンスターハンター:ワールド」は過去作をプレイしていただいたユーザーは勿論,新規で始めるユーザーもきっと満足していただけるはずです。既にPVなどの動画や情報も大量に公開されていますので今後も情報を追っていただけると嬉しいです。エフェクトに関してもカプコンのエフェクトアーティストはとても優秀で今回は連携も密に取れたのでクオリティーはかなり高いです。「世界観」にマッチした違和感なく主張しすぎずそれでいて迫力のあるリッチなエフェクトに仕上がっています。
―「バイオハザード7」は全編VR対応という,すごいことを実現しましたね。
高原 私がプライベートでPlayStation VRを手にしたのは「バイオハザード7」の発売1カ月後でしたね。スタッフの中で,開発初期のころは車酔い対策用の錠剤を服用している者もいましたし,それでも10分ほどプレイしたら,その日一日もう業務ができないという者も出てきました。私もそれに近かったのですが,開発も後半になると勤務時間中ずっとVRヘッドセットをつけていても平気になりました。ふつうの人より「酔う」という感覚がなくなってしまった訳です。また,ゲームショウなどで他のVRタイトルをプレイする機会があると,まず面白いかどうかではなくて,ちゃんと動いているかどうかの視点で,わざと首を大きく振ったり,RGBがすべて描画されているか,滲みが出ていないかなどのチェックをしたりするようになってしまいました。それはそれで楽しいのですが。
―チェスターさんは多くの言語を話せますよね。プログラマには大事なスキルです。
チェスター はい。5カ国語できます。特に英語ができるのは仕事で有効です。プラットフォームの仕事をしていて,AndroidスマートフォンやiOS,Xbox Oneなど米国主流のものは文献が英語で,問い合わせも英語オンリーということが多いです。バグは海外のフォーラムでしたらすぐチェックできますしね。やはり自分でこなせるのでスピードが違います。今,社内で定時後に英語の授業を開いていて,講師役を務めています。
高原 チェスターの勉強会のほかにも,技術面で社内から発表者を選んで隔週,技術共有会を開催しています。私が運営を担当しています。発表者はプレゼンテーションのスキルを磨けますし,聴講者はもちろん知識を得ることができます。お互い切磋琢磨する場ともなります。知識欲がないと,今の時代の流れには,ついていけません。
―最後に,KCGでの思い出をお願いできますか。
米山 先生といろいろなことを話していたことが多かったですね。自分の知らなかった技術のことなどを丁寧に教えてくださったので感謝しています。
高原 授業を受けるだけではもったいない。先生に質問するなどアプローチして,コミュニケーションをとって,授業で教えてもらう内容以上のことを知って持ち帰るようにしてほしいですね。
米山 個人的に授業はあくまでもきっかけだと思っています。なにかを始めるきっかけであって,そこから先,つまり何かを作り上げるためにはやはり自分から学んでいく必要があります。
高原 今はPCが1台あれば何でもできます。絵であれ音であれ,ゲームであれ。1分1秒惜しむことなく勉強に打ち込んでモノを作り,アウトプットし,人に見せて意見をフィードバックしていく。これが繰り返し自分でできるようになれば,間違いなく伸びます。
チェスター 繰り返しになりますが,自分のやりたいことを見つけ,迷わず,あきらめず,立ち止まらず,自分の扉を開いていってもらいたいです。これは学生時代しかできない学生の特権です。ただし,学生生活はとても短いので,この貴重な学生時代をフル活用してもらいたいです。
米山 やりたいことをひとつだけでもいいので見つけてください。それは生涯をかけて取り組むような長大な夢でも構いません。その夢を常に追い求めていくことが大事だと思います。
―CAPCOM GameJam(カプコンが主催する学生と同社開発者との交流の場)にKCGのたくさんの学生が参加を希望しています。KCGの実力を試してみたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。
大阪に本社を置く東京証券取引所1部上場のゲームソフトメーカー。オリジナリティあふれるゲームソフト開発力を強みに,人気コンテンツを多面展開(ワンコンテンツ・マルチユース)することにより,安定成長を遂げている。2013年6月に創業30周年を迎え,「大阪から世界へ」を合言葉にグローバルな事業展開を加速している。
●本 社 | 大阪市中央区 |
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●代 表 | 代表取締役社長 最高執行責任者 辻本春弘 |
●資本金 | 332億39百万円(2017年3月31日現在) |
●主な事業内容 | 家庭用テレビゲームソフト,オンラインゲーム,モバイルコンテンツおよびアミューズメント機器等の企画・開発・製造・販売・配信ならびにアミューズメント施設の運営 |
●売上高(連結) | 871億7000万円余(2017年3月期実績) |
●社員数 | 連結 2811名,単体 2194名(2017年3月31日現在) |