ハイテクにおける急激な日本産業界の発展と,その結果産み出された膨大な貿易黒字を背景に,今,日本の国際化は,諸外国に対して日本が果たすべき責任の問題として浮上している。ここ数年来,日本が直面して来た対米半導体摩擦,企業摩擦,貿易摩擦等を考察するとき,その底流に文化摩擦の問題が共通して存在しているのを見逃すわけにはいかない。すなわち,異文化圏の生活文化・生活感情等に対する甚だしい双方の無理解が,事態を紛糾化,深刻化させているのは否定出来ない事実であろう。欧米の文化を輸入し,自国の文化に吸収するという,明治以来の言わば自国中心的な国際化でなく,今日的な日本の国際化の課題は,まず第一に,他の国の人々の生活や文化に対する深い理解と広い容認,そしてその尊重から出発すべきではないだろうか。
本学院は,国際社会から日本に課せられている社会的時代的責任を,情報処理技術教育という立場において捉え,”国際性豊かな情報処理技術者の育成”を新しい学院の教育方針として打ち出した。その実践は,海外研修所の設立とそれを利用する国際情報処理科の新設である。
海外研修の目的は,世界のコンピュータ界の展望と動向を,広くダイナミックに捉える国際的視野の育成,及び,異文化に対する深い洞察と広やかな理解に基づく豊かな国際感覚の育成である。この目的に沿って,海外研修所の場所をボストン(アメリカ マサチューセッツ州)に選んだ。ボストンは,ハーバード大学,マサチューセッツエ科大学(MIT)を擁する世界最高の学術都市であり,またシリコンバレーと並ぶ世界最大のハイテク都市であり,さらにアメリカ独立戦争ゆかりの歴史都市である。
来年度発足の国際情報処理科(新設届出中)には,カリキュラムの中に京都コンピュータ学院ボストン校での3ヵ月の研修(全寮制)が取り入れられている。
世界最高の学術都市ボストンには,世界各国からの留学生が溢れている。日本から遠く離れた留学体験は予想以上の実りをもたらすことだろう。全寮制という絶好の状況の中で,学習効果が上がるのみならず,そこで築かれる仲間達との友情は一生の思い出になることだろう。
世界最大のハイテク都市で,ハイテク企業・大学研究機関との交流を通して,コンピュータに関する広い国際的視野が得られれば,それは国際化時代に生きるコンピュータ技術者として最高のパスポートとなるだろう。
アメリカの歴史を学び,アメリカ独立戦争の由緒ある史跡を訪ねて,アメリカの民主主義・自由主義はアメリカ人が血を流して勝ち取ったものであることを実証的に理解し,さらにアメリカ人との生活の交流の中で,その思想は彼等の生活文化,生活感情の中で普遍的に生き続けていることを,理解することも重要であろう。
京都コンピュータ学院ボストン校での異文化体験,学習体験を通して,真の国際感覚を身に付け,創造性,国際性共に豊かな情報処理技術者として大成していくことを望む次第である。
(1988/11/15)
上記の肩書・経歴等はアキューム22-23号発刊当時のものです。