武器は若い感性と行動力
KCGI第一期生が会社設立
学んだ知識,社会で実践
絶対的な武器は若い感性と行動力だ。毎週月曜夜の定例ミーティング。学生たちも含めたスタッフが,京都コンピュータ学院京都駅前校東館内に構えた本社事務所に集まってくる。ふだんの学生生活のような「友達感覚」。でも時には,激論を交わす場へと変わる。「At Izumi」(アット イズミ)は,京都情報大学院大学(KCGI)の第一期生が中心となって学生時代に立ち上げた,ウェブアプリケーションを企画提案する株式会社だ。「専門知識を学んだり研究したりするだけにとどまらず,社会で実践する力を養う」というKCGIの建学精神を具現化したスタッフたちは,力を寄せ合い,果敢に「アタック」していく。
開学したばかりの真新しい「専門職大学院」の門をくぐった。私立大学の商学部を卒業して1年後。「将来は会社を設立したい。これまで学んできた会計と,ITをつなげられれば…」。そんな志を胸に秘めていた。「でも,現実的にはまだ漠然としていたにすぎなかったんですよ」。代表取締役を務める田中崇さんは当時を振り返る。
KCGIのひとりの助教授との出会いが,「漠然」を「現実」へと急速に近付けた。森田正康助教授の授業。プロジェクトマネジメントやeラーニング設計などが主な講義の内容だったが,森田助教授は学生たちに教科書を閉じさせ,唐突につぶやいた。「これまでに作ったプロダクト,君たちが会社つくって売ってみろよ」。1回生の冬だった。
田中さんは,すでに就職活動を始めていた。しかし,夢が突然現実になる絶好のチャンスでもある。「理論だけ学んで,使わずに終わるのか。社会は何を求めているのかをしっかり分析し,知識を活用していけば,学生であろうが何であろうが関係ない」「いやむしろ,学生時代なら失敗してもいいじゃないか」。森田助教授の言葉には説得力があった。さらに国が起業促進を目的にした新会社法の制定に乗り出し,会社設立のリスクが軽減される流れにあることも,夢の実現を後押しする格好になった。
「資本金1円でも株式会社設立可能」(2006年5月1日施行)という時代がすぐ先に見えていた。当時はその移行期間で,「5年以内に資本金1000万円を集める」という条件付きの一部改正会社法の中だ。一緒に机を並べる何人かの仲間やKCGの教職員が集った。KCGIという大学院の性格上,技術,経営など,学生が持つ得意分野はさまざまだ。大学側に熱い思いをぶつけたところ,支援を快諾してくれた。森田助教授も顧問として後押ししてくれることになった。何の迷いも不安もなくなった。2005年6月。学生によるベンチャー企業が誕生した。
「やっぱり甘くはないな」。利益を上げることの厳しさを痛感もした。さらに,従業員はもちろん,役員さえも学生が就いていることが多いため,入れ替わりが頻繁にある。だが,社名のとおり「多くの学生らが携わることによって,アイデアが泉のように湧き出てくる」(設立スタッフ・KCGI一期生であり,現在KCG教職員の奥泉洋子さん)ことを武器に,さまざまなジャンルにチャレンジ。現在,大手教育出版系企業などのウェブアプリケーション制作などに忙しい毎日だ。現在はKCGの学生もスタッフに加わる。
「KCGIは,いろんな分野のトップが教授陣にそろっていることもあって,多くのチャンスがころがっているし,しかもチャレンジをバックアップしてくれる土壌がある。今後は学んだ知識を実践する多くの仲間を増やし,ネットワークを形成しながら前進していきたい」と田中さん。森田助教授は「社会は,『社長』と書かれた名刺を持って歩くだけで,学生とは全く違う接し方をしてくれる」と表現。「京都はベンチャー企業が活躍する環境が整っている。(At Izumiは)組織運営の面では軌道に乗ってきたようなので,これからは企業としての『柱』を見つけ,ビジネスモデルを確立してほしい」とエールを送る。
会社に関する法律は従来,商法や有限会社法などばらばらだったが,それを一元化して制定された。これまでの制度からの変更点は,株式会社制度と有限会社制度の統合(有限会社の廃止),機関設計の柔軟化,事業承継に活用できる株式制度の拡充,会計参与制度の導入,最低資本金の撤廃,合同会社の新設など非常に多岐にわたる。このうち最低資本金については,これまで株式会社は1000万円(有限会社なら300万円)を設立時に用意しなければならなかったが,「1円」でも設立が可能になった。さらに従来,株式会社は最低3人の取締役が必要(有限会社は1人)だったが,1人でも可能に。3ヵ月に1回の開催が義務付けられていた取締役全員による集会「取締役会」も強制設置ではなくなった(公開会社を除く)。