2000年10月14日から同月29日まで,本学院は,京都駅前校舎のエントランスホールを会場として,「中島修彫刻展」(後援‥日本オーストリア大使館・上オーストリア州文化省)を開催した。「知性・感性ともにすぐれた人格の育成」という教育理念に基づき,学院では毎年,文化講演会や音楽会を開催してきたが,本格的な美術展は初めての試みであった。
中島修氏は1937年生まれで,武蔵野美術大学彫刻科卒業後,渡欧し,オーストリアを舞台に活躍中の作家である。チロル地方の石切り場で自ら切り出した地元特産の蛇紋岩などを使って,幾何学的で繊細な作品を数多く発表。オーストリア美術家協会ゴールドメダルやウィーン市芸術賞などを受賞された。国際的に評価の高い彫刻家である。氏の作品展が,関西で開かれるのも今回が初めてである。
会場のエントランスホールは,毎日,学生・教職員が必ず通る場所である。当初,日常空間に突如として現れた彫刻群に驚きと戸惑いも見られた。だが,そのうちに彫刻群は,学院の日常に自然と溶け込んでいった。それは中島作品の魅力のなせるわざであろう。ウィーン市の広場に設置された噴水作品に代表されるように,氏の作品は,人々の生活に深く溶け込み,愛されている。今回の展覧会には,各地から多数の美術愛好家が駆けつけたほか,新聞で取り上げられたこともあって,多くの京都市民が訪れ,大盛況であった。
中島氏は「この学校で学んでおられる将来性のある若者達が,私の作品を観てどんな感想を持たれるのか」に強い関心があるとのメッセージを寄せておられる。今回の展覧会は,作品と見る者の間に,柵やロープといった隔たりは一切なく,作品に触れることもできるよう配慮されていた。石であることを忘れさせるような,「しなやかさ」と「やわらかさ」が中島氏の作品にはあり,思わず手で触れてみたくなる。普段,コンピュータの生み出すヴァーチャル・リアリティに魅惑されることの多い学院生たちにとって,こうした石像の発する「もの」としてのリアリティに接したことは貴重な経験となったに違いない。