本学KCGグループでは,医療IT関連のコース,学科を開設するにあたり,次のような内容で計画を進めた。
医療分野では,医療事務システム,オーダリングシステム,電子カルテシステム,画像診断,地域医療情報システム,遠隔医療システムなど,ICT化が急速に進んでいる。また,ICTを活用して,複雑化,細分化,膨大化する医療情報を集約・ビッグデータ化して分析,あるいはインターネット上の医療に関する語句を分析し,感染症の予測・予防や最適な治療計画を策定するなどの応用領域(二次利用)も拡大している。一方で,医療情報(システム)を扱う人材は,人の命に関わる情報を扱うという基本的な医療倫理感も備える必要がある。
このように医療機関,医療関連分野では,医療分野の基礎知識と医療倫理,ICTの知識・技術の両方を兼ね備えた人材が必要とされている。KCGグループでは,長年培ってきたICTの教育ノウハウと医療分野の知識を融合させて,従来の医療事務部門だけでなく医療機関や医療関連分野で医療のICT化をリードする人材を育成する。
医療事務業務に必要な受付業務,診療報酬請求業務,医学一般等の知識と技能および医療現場での医療情報の処理,管理,活用の方法を習得し,高度にICT化される医療現場で活躍できる医療事務スタッフを育成する。
高度にICT化される医療機関において,医療分野全般の知識と情報システム分野の知識や技術を習得した医療情報システムのエンジニアまたは医療機関の医療情報技師を育成する。
高度にICT化される医療機関において,医療分野全般の知識と情報システム分野の知識を習得し,高度なICT能力を医療分野(医療,福祉,介護,医療情報分析等)のビジネスに応用できる人材を育成する。
本学KCGグループは50年以上にわたって常に最先端のIT教育を展開し,多くの実績をつくってきたが,医療分野の学科,コースはなかった。そのため,現役の医師の方々を講師として招聘し,専門分野の講義・授業を担当していただくことにした。遠藤文司先生(成仁会病院),田中聖人先生(京都第二赤十字病院),仲野俊成先生(関西医科大学附属病院),北岡有喜先生(京都医療センター)らから快諾していただき,早速授業に臨んでいただいている。さらに,学生の資格取得を支援するため,専門の講師の方々にも授業を担当していただいている。KCGグループから医療ICTの分野を担いリードする人材が続々と誕生する日を心待ちにしている。
医療情報システム概論,医療情報システム設計,医療先端情報学,プロジェクト演習2,プロジェクト演習3,インターンシップ(病院実習)
医療秘書概論,コミュニケーションと接遇,医療事務概論,医療事務管理実習,医師事務作業補助演習,プロジェクト演習2,インターンシップ(病院実習)
プログラミング,データベース,ネットワーク,情報セキュリティ,オブジェクト指向システム設計,アプリケーション設計,データマイニング,計算機システム概論,HTML/CSS実習,IT活用技法(Word,Excel,Access)など
ビジネス文書演習,プレゼンテーション入門,企業研究,ビジネス関連法規,コミュニケーション技法,経済学,経営情報システム,情報倫理,プロジェクト管理技法 など
CTやMRIをはじめとする技術面,電子カルテに象徴される情報面を中心に医療現場ではIT化が急速に進んでいます。2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり,全人口の4分の1を占める時代が来ます。病院・医師の不足,医療費の増大などから皆保険制度が存続できない可能性が大きく,在宅医療へシフトしていかざるを得ません。そのため医師・看護師・薬剤師などのチーム医療の必要性がより増します。チーム医療を進めるためにはデータの共有化が重要となり,同時に病歴や薬歴など患者のデータの取り扱いについて,セキュリティを万全にしなければなりません。これらはまさしくITが支えるといってよいでしょう。医療現場ではIT人材が必要不可欠である理由です。
医療情報というのは人の命を預かる大切なものです。データをいかに活用するかが医療現場には求められ,ばく大な情報を分析しコストとベネフィットを十分考慮したうえでデータマイニングし,最高の治療,処方に結び付けなければなりません。
数種類の薬をいろいろと飲み合わせた時や,食べ物と薬の取り合わせが悪い時に起こる薬の副作用の増加や薬の効果の減少などの現象を薬物相互作用といいます。1993年にはソリブジン事件というのがありました。これは,抗がん剤を服用中のがん患者に帯状疱疹ができたためにその治療薬であるソリブジンという新薬をがん患者が服用したところ,抗がん薬の副作用(骨髄抑制など)が増強され死亡に至ったという事件です。この事件をきっかけに医薬分業の流れが本格化したのですが,このような悲劇は医療情報がITできちんと管理されていれば,避けられたはずです。
先日,アメリカを訪れた際に薬局に立ち寄ったところ,すべてに電子処方箋が導入されていることに驚きました。日本でも在宅医療が進むとともに重要な存在になる,かかりつけ薬局などでもIT化が進むことが予想されます。このような場にもIT人材が必要となってくるでしょう。
量から質的サービスの必要性が高まる中,医療現場におけるITへの期待は高まるばかりですが,医療の基本はやはり「人対人」「心と心」です。さまざまな機器も技術も,コントロールするのは人。命の尊さを,重さを心に秘め,医療現場で活躍する優秀なIT人材が多く誕生することを願っています。