「博士を取るなら,はよ論文を持ってきなさい」とお声掛け頂いたのは1988年だったと思う。「僕ももうすぐ退官やで」とおっしゃった。1978年に十分な研究もせず修士を修了し就職したが,そんな学生にもよくお気遣いをいただいた。分かりました,すぐ持っていきます,とお答えし,何とか研究をまとめて教授室に伺った。ページをめくり終わった後で,一言,「結論が短いな」と呟かれた。はい,ちゃんと書きます,とお答えした。思えば,先生のコメントはいつも短かった。卒論で一万行のアセンブラプログラムを書いた時もそうだった。動きました,と意気込んで報告すると,「これで自分がどのくらいプログラムが書けるか分かっただろう」と言われた。その時は,研究の中味にコメントを頂きたかったのだが,後で考えるとプログラムを書いたことの方が大切だったのかもしれない。先生が亡くなられて,博士論文の結論が短かったことが,自分の研究を表しているようで妙に落ち着かない。これからは,もっと長い結論を書かなければと思う。
上記の肩書・経歴等はアキューム22・23号発刊当時のものです。