「京都国際マンガ・アニメフェア2012」は,2012年9月21日から23日にかけて,京都市勧業館(みやこめっせ),平安神宮,京都国際マンガミュージアム等で開催された,西日本最大級のマンガ・アニメ総合見本市(イベント)です。略称はKYOTO international Manga Anime Fair の頭文字を取って「京まふ(KYOMAF)」と名づけました。
今年,初開催のイベントでしたが,著名なアニメ制作会社や出版社に参画いただき,またステージイベントに,有名な声優の方々に出演いただけたことで,主会場の「みやこめっせ」の来場者数は,3日間で23,800人となりました。そしてこれに,平安神宮奉納公演(ライブ)と京都国際マンガミュージアムイベントを加えて,合計で35,000人を超える方々にご来場いただきました。
京まふの開催主旨は,首都圏に一極集中しているコンテンツ市場を,京都を含む関西圏で創出,促進していくため,次の3点について取り組むこととしています。
キャラクター版権を持つライセンサー企業(首都圏企業)とそれを活用したいライセンシー企業(関西圏企業)とを繋ぐビジネス機会の創出を図り,新産業の創出を促進する。
【例】マンガ・アニメ×京都の土産物(酒,菓子など)
関西で優秀な若手クリエイターが育つための市場づくり。
【例】クリエイター作品発表の場の創出,人材マッチング
関西圏におけるマンガ・アニメファン層の掘り起こしと,外国人も含めた観光客の誘客を図る。
実施体制については,門川大作京都市長が発起人となり,実行委員会は,委員長にNPO法人映像産業振興機構理事長,株式会社手塚プロダクション代表取締役社長である松谷孝征氏を迎え,実行委員には,京都国際マンガミュージアム事務局長の上田修三氏,東映アニメーション株式会社顧問の大山秀徳氏,株式会社角川グループホールディングス取締役会長の角川歴彦氏に加え,KYOTO CMEX 実行委員会委員長で株式会社トーセ代表取締役社長である齋藤茂氏,さらには京都情報大学院大学・京都コンピュータ学院統括理事長の長谷川亘氏と首都圏,関西圏のコンテンツ業界を代表するメンバーが名を連ねました。
ビジネス取引及び人材育成・支援の取り組みについては,後ほど詳しく記載いたしますので,ここでは,京まふをイベントとして成功させるために取り組んだ,主な内容についてご説明します。
初めてのイベントということで,できるだけ多くのファンの方に,まずは知ってもらう必要があるため,各界の著名な皆様にご支援,ご協力をいただきました。
著名なアニメ制作会社や大手出版社をはじめ,33もの企業や団体に参画いただきました。
また,特別作品ブースとして「劇場版魔法少女まどか☆マギカ」ブースを設けるなど,マンガ・アニメファンが注目する展示となるよう工夫をしました。
さらに,故芦田豊雄氏と故荒木伸吾氏,両氏を追悼するための特別展も開催しました。
「黒子のバスケ」や「ゆるゆり♪♪」等人気作品を一堂に集め,さらには,それぞれの作品の主演声優やプロデューサー,監督にも登壇いただき,これまで関西では行ったことがない規模のステージイベントを開催しました。
京都らしい,京都ならではの会場ということで,平安神宮を会場にして初めて,声優によるライブを行いました。(京都平安祭実行委員会と共催)
9月22日はミルキィホームズの4人が登場しました。この日の衣装は,今回の平安神宮公演のために特別に制作されたもので,竜宮城のような幻想的な雰囲気を醸し出し,14曲を披露しました。
翌23日は,声優界の第一人者である水樹奈々氏が登場しました。こちらも,平安神宮の会場の雰囲気に合わせた演出で,12曲を熱唱しました。能楽師の山井綱雄氏の舞を披露するなど,伝統文化とポップカルチャーの邂逅を感じる公演となりました。
マンガやアニメを活用した商品開発などの新たなビジネス機会の創出を行うため,版権を持つ首都圏のマンガ・アニメ企業等に出展いただき,初日のビジネスデーには,京都の地場産業など1,000人の来場者が訪れ,ビジネスマッチングの機会が展開されました。
また,京まふ開催に先駆け,八ッ橋,染物,扇子など,京都の物産とマンガ・アニメキャラクターとをコラボした「京まふオリジナルグッズ」を30商品開発し,これを展示,販売しました。
さらに,マンガ家等クリエイターの発掘・育成の場としてマンガ出張編集部を実施しました。概要を以下に記します。
登壇者:
内 容:
伝統ある国際観光都市「京都」が,なぜマンガ・アニメとコラボして新産業を創出するのか,また国際的にどのような効果があるのかなど,京都でのシティセールスの可能性について対談しました。
京都の今後の取り組みについて,アニメやマンガで同じく「まちおこし」を行っている札幌や徳島を例に出し,もっと貪欲に自治体が展開していくべきでは,またアニメ産業は芸術ではなく商売であるので地元とのつながりや,自治体などのバックアップが必要である,などの話題で対談を行いました。
登壇者:
内 容:
①株式会社プロダクション・アイジーが仕掛け,仙台市が協力した「戦国BASARA」タイアップ商品開発の事例を紹介。アニメファンを細分化された個々のクラスターの集合であると考え,それぞれのニーズにあった商品を展開する必要があり,成功の秘訣としてタイアップ商品の売れ行きよりも商品によって生まれる「ネット上の話題」の効果が非常に大きい,など「戦国BASARA」の事例を基に講演を行いました。
②中国のアニメ市場の状況と市場進出,中国産アニメの発展,また日本のアニメの商材・観光誘致の可能性についてがテーマ。注目されている中国のアニメ市場について海賊版は海外の文化を受容・消費するにはいいが,自国の文化産業を立ち上げるときには大きな障壁であるなど海賊版の問題を指摘し,日本のアニメで育った世代は中国製アニメに満足できずネットを通じて日本のアニメを視聴しているため,日本製アニメの人気が高くてもマネタイズが難しい状況などの内容で講演を行いました。
登壇者:
内 容:
京都の製造・サービス・観光等,その他の事業者が,マンガ・アニメのライセンサーと新産業を創出する際のライセンスビジネスの方法について解説及び対談。ガンダムの商品化事例を基にキャラクター育成のプロセスやライセンス契約についての解説,お台場1/1ガンダムなどの観光戦略を絡めたプロモーション事例,ジャパンEXPO,アニメEXPOなど海外展開への可能性など,ライセンスビジネスについて対談を行いました。
ビジネスデーに,地下一階会場で,京都版トキワ荘事業による「マンガ出張編集部」を開催しました。首都圏を中心に11出版社27編集部に出展いただきました。
京都近圏を中心に120名ものマンガ家志望者が参加し,出張編集部としては,国内最大規模のものとなりました。参加者の構成比は,学生が4割,卒業後に作家を目指しているマンガ家志望者が6割でした。
通常の出張編集部には出展されない,現役プロ漫画家による相談所も併設し,参加者,出展各編集部ともに,満足度の高いものとなりました。
京まふが,他のマンガ・アニメフェアと違う点として特徴的なのは,京まふにおいて『商品化』を推奨したことにあります。
京都が,古来から伝統工芸や食・文化の宝庫であることは,誰しもが認めるところです。しかしながら,ともすると京都の『伝統文化』は,有名な,ごく一部の商品のみ注目を集め,地元で連綿と,ただし小規模に展開されている商品にはスポットがあたりづらい状況がありました。
これらの『伝統文化』と新しいカルチャーであるマンガ・アニメをコラボレーションさせ,新たな商品を創り出すこと。このことが,『伝統文化』というキーワードで長年培われてきた京都の産業に新たなビジネスチャンスを創出し,また,いままで京都の『伝統文化』に触れる機会をもつことができなかった若年層や,表面的な京都しか知り得なかった外国のかたがたにも京都の魅力に気づき,もしくは再発見してもらう機会になると考えました。
しかしながら,マンガ・アニメの商品化には沢山の決まりごとやプロセスがあるため,希望するマンガ・アニメを,希望する商品にすることはなかなかできるものではありません。何故,マンガ・アニメの商品化は難しいのでしょうか。アニメ作品の製作過程を例にご説明します。
一般的に,現在テレビで放送されているアニメ作品には,製作委員会方式というパートナーシップがとられており,多数の権利者が存在します。製作委員会方式とは,アニメ作品の原作権利者やアニメ制作会社,テレビ局,おもちゃ会社などが,アニメ作品を製作するために金銭を出資し,アニメ作品を活用することによって生じる収益を,各出資者で分配する,という方式です。製作委員会方式を図にすると以下の図1のようになります。
では,図の中で,アニメ作品を商品化したい,と考えたとき,製作委員会のメンバーのうち,誰に企画を持ち込むか。アニメ作品が放送されているテレビ局や,アニメ作品を制作している制作会社がその権利をもっている,と認識されているようですが,そうではありません。
製作委員会は,個々のメンバーがそれぞれ役割分担をしてアニメ作品から生じる収益の最大化を目指します。図1からもわかるように,一般的な製作委員会にはテレビ局やおもちゃ会社など,アニメ作品を作る(純粋に映像を制作する)だけでなく,アニメ作品を放送したり,アニメ作品に関連するおもちゃを制作したりする会社がメンバーとして参画しています。そこで,製作委員会では,各メンバーが,各自の得意分野でのビジネスを役割分担して行います。各メンバーは,得意分野である担当業務において,最大限の収益を上げるよう努力し,各ビジネスから生じた収益を製作委員会へと集約させます。そしてこの集約された収益を,製作委員会の各メンバーで分配する,というのが,製作委員会の収益モデルです。これらの動きを図1に追加すると図2のようになります。
つまり,アニメ作品の商品化を行いたいと考えた場合,まず,製作委員会のうちのどの会社が商品化を担当しているのか(窓口会社となっているのか)を把握しなければいけません。この窓口会社の構造は,一般的な商品を製造している会社の方々には,理解することが難しく,また,特定のアニメ作品に関して,どの会社が窓口会社になっているのかを把握することも,慣れない会社にとっては困難です。京まふにおける商品化を実現させるためには,京都において商品化を希望する産業の方々に,このマンガ・アニメ業界独特の仕組みを理解していただき,業界慣習に従って商品化を進めていただくことが必要でした。
そこで,京まふ事務局は,マンガ・アニメ作品の商品化を希望する京都の産業と窓口会社との間に入り,サポートすることにより,京まふでの商品化の実現に取り組みました。
マンガ・アニメの商品化を行う場合,窓口会社(=権利者)と商品の企画・製造をする会社との間で図3のようなステップが踏まれます。
これらのステップ全ては,マンガ・アニメの商品化に不慣れな企業には商品開発の負担となりえます。また,図3のうち,①及び④のステップをさらに細分化すると図4のようになります。
図4のように,マンガ・アニメの商品化を行うためには,監修と呼ばれる,窓口会社による複数回のチェックを受けなければいけません。この監修は,商品に使用されるキャラクターの特性(男性向けなのか,女性向けなのか,大人向けなのか,子供向けなのか等々)に応じてデザイン・色・商品形態等々,あらゆる面からのチェックが行われます。この複数に及ぶチェックを経てマンガ・アニメの商品が製造されていくのですが,やはり,一般的な商品を製造している会社にとっては煩雑なプロセスであるといえます。
京まふ事務局は,窓口会社(=権利者)と京都の企業の間に入り,
を行うことにより,マンガ・アニメの商品化の経験がない企業でも,京まふに向けた商品開発ができるような体制づくりをしました。
その結果,多数の京都の企業の方々が,マンガ・アニメの商品開発に取り組み,30アイテムを超える京まふ先行発売商品をお客様にお届けすることができました。
京まふ事務局では,マンガ・アニメの商品化に精通した企業を通して,京まふブランドを構築していくことを開始いたしました。初年度である2012年は,トライアルの年として,前述のとおり,京まふ事務局がサポートすることにより,いくつかの商品開発先行事例を作りました。
また,京まふ事務局では,本年9月の京まふ以降,京まふブランド商品の企画・開発に注力してきました。その結果,2012年11月23日より,京都のアニメイト2店舗限定で『劇場版魔法少女まどか☆マギカ×聖護院八ッ橋』を発売しました。この商品は,人気アニメと地元の著名なお菓子のコラボレーションがご好評をいただいており,発売初日には店頭で欠品がでるほどの反響がありました。
今後も,京まふ事務局として,商品化というキーワードを通じて,マンガ・アニメと京都の産業が相互に作用し,発展していくことができるような場を提供する取り組みを行ってまいります。商品化を通じて,全国,全世界に向け,京都の,今までとは一味違う可能性や魅力を発信していくこと。マンガ・アニメのコンテンツ力と京都の産業の底力をもってすれば実現可能であると信じています。
「マンガ・アニメでどのように地域活性化ができるか」,という命題をもって立ち上げた京都国際マンガ・アニメフェアですが,いろいろな困難もありながら沢山の方のご協力のお蔭で無事に第1回を終えることができました。京都で大型イベントは難しいのではないかとのご意見もある中,大きなチャレンジの機会をいただけたこと感謝しております。イベント当日の盛り上がりは勿論のことですが,イベント後に継続した商品化や人材育成の取り組みを行うことが京まふのもっとも重要なファクターだと考えており,「コラボ商品化」,「若手クリエイターの発掘・育成・成長の場の提供」,「全世界から京都にファンが集まる場をつくり,そして世界中に京まふ商品を販売する海外展開」等を実施し,この京都を更に盛り上げていけるよう,今後も挑戦を続けてまいります。
最後になりましたが,ご協力,ご助言いただいたすべての方々に御礼申し上げます。ありがとうございました。
京都国際マンガ・アニメフェアのURL
http://kyomaf.kyoto/
当日の会場のURL
http://kyomaf.kyoto/access/