農業ITコース・海洋ITコースの専門科目として古野電気株式会社およびヤンマー株式会社の現役社員が講師となる産学連携による講義が2016年後期から始まった。農業機械や船舶の分野においてITが活用されている商品やサービスのトレンドを知り,それぞれの分野で最先端の動向をつかむことができると学生たちに好評を博している。
この講義では企業から顧客への価値の提供について重要性を認識し,その価値の中でも特にITを活用した課題解決の手法や着眼点を学ぶことができる。さらに,それぞれの企業訪問も行われる。企業訪問では農業機械や船舶の歴史を学び,実物に触れながら,これからどんな技術や展望があるかを学ぶ。また,逆に企業側からは発想豊かで柔軟な受講学生からのアイデアの提供が期待されている。
一般に行われている産学連携講義とは違い,複数の企業が関連しながら一つの授業を行うことで,学生も様々な視点から,応用ITについて考察することができるようになっている。さらに企業訪問は講義で学んだ内容を実際に目にし,手に触れることによって実体験できるなど,今までに例のない新しい講義内容となっている。
応用情報学科農業ITコースの開設にともない,2015年秋,KCG大原野農場がスタートした。この農業ITコースのための専用農場は京都市西京区大原野に位置し,洛西ニュータウンを抜けた西山の麓ののどかな田園の中にある。一帯は竹の子や柿が名産の地域でもある。
2016年の本格的な農場での作物の栽培と様々なIT化の実験・実習を行うのに先立って,2015年秋から一部作物の栽培を開始した。
まず,作物の栽培開始の最初の目的はモニタリングシステムの設置であった。農業ITコースでの学習の柱の一つは,作物の育成状況やその環境,また農作業についての様々なデータを収集して,それらのデータを基に作物の栽培や農作業の判断を行うことにある。
2015年秋に,最初の作物として,ハクサイ,ダイコン,ニンニク,タマネギ,ソラマメを選んだ。そして農場の気温,気圧,地中温度を15分毎に測定するセンサを設置し,農場の全景と,接写で作物の画像を撮影する2台のカメラを設置した。各種データはモニタリングシステムからサーバに送信され,PCやタブレット端末,スマートフォンを用いて,常時,農場の様子が観察できるようになった。
ただし,すべてが初めからうまく行くわけもなく,モニタリングシステムに様々な問題が発生した。その都度対処,改良してこのシステムを運用しているが,農作物の管理に用いていると,この短期間においても実際に有用な情報を得られたり,新しい気付きを得られることがわかってきた。
2016年には本格的な農場運営を開始。水田での水稲の栽培も開始した。水田にも新たにモニタリング設備を設置して,水位や苗の分けつの様子などを観察できるようにしている。特に稲作は水の管理が重要で,コメ農家は自宅から離れた場所に田を所有していることが多く,どれだけのデータを収集でき,どれだけ役に立つデータにすることができるか挑戦したい。
ドローンでの空撮により,作物の育成状況の観察も行う予定で,適切な施肥や害虫・鳥獣害の発生の発見などにつなげたい。また,アクションカメラによる農作業の撮影を行い,作業の効率化や経験のある農作業従事者の技術をデータとして残す取り組みも進めていきたい。
これはまだ将来の話であるが,農場での作物を販売し,その作物の購入者には,その作物の育成の状況をインターネットを通じて見ていただき,安心を付加価値とした野菜やコメの販売にも挑戦したいと思っている。
そして,何よりも将来的には農業ITコースで学んだ学生が,農業を支援する仕事に就いたり,農業を支援するためのソフトや装置の製作に携わったり,さらには自身がITを用いながら農業に携わる人材になることを期待している。
上記の肩書・経歴等はアキューム24号発刊当時のものです。