今回,京都コンピュータ学院殿が構想中の『実物コンピュータ博物館』の設立に関し,その意義と理念に対して,日本の社会インフラを支える企業の1社として,その主旨に賛同し,設立をご推薦致します。
当社は1910年に創業者の小平浪平が外国製品に依存していた当時の日本を変革し,純国産技術の発展を目指し開業したことを始まりとし,今年で創業100年を迎えます。
当初は日立鉱山(茨城県)での電気機械設備の修理からスタートし,製品第一号は純国産5馬力誘導電動機で,その後,大型発電機,電気機関車,昇降機などの製品を開発し,日本の工業発展に寄与してきました。
また,1950年代後半から1970年代に亘る日本の高度成長や世界の技術革新に歩調を合わせた,エレクトロニクス部門への多額の研究開発費の投入は,当社のコンピュータ事業の成長を大きく牽引することとなりました。
1962年には当社初のコンピュータ事業部門が設置され,神奈川県に大規模コンピュータ工場(現エンタープライズサーバ事業部)が完成し,中小型汎用機の製造を開始しました。1964年には国産初の大型汎用機「HITAC 5020」を開発,翌年にはIC(集積回路)を用いた第三世代の「HITAC 8000」シリーズを発表し,東京大学殿や電電公社殿(現NTT殿)などへ納入し,それまで圧倒的に強かった外国機に対抗しました。また,ミニコンピュータ(ミニコン)分野では,1969年に国内初の16ビットアーキテクチャを採用し,小型・低価格・高性能の「HITAC10」を開発し,ベストセラーとなりました。このように,当社の歴史のうち約半世紀は,コンピュータの技術革新と共に歩んできたと言えます。
しかしながら,大変残念なことではありますが,当社ではこれらの製品の大半を「商品」として扱ってきたため,古い機種は「商品」の価値を失うと同時に随時滅却処分されており,最高の技術者が苦心を重ね開発したこれらの技術遺産は,スーパーコンピュータ他の展示品・保管品を併せても,当社には十数点しか現存していない状況です。
その中でも「HITAC 5020」が2009年3月に情報処理技術遺産の認定を受けました。現在,エンタープライズサーバ事業部のショールームに展示され,先人の苦労や技術を学ぶなど若手技術者の育成に効果的に活用されています。
今回の貴学院の『実物コンピュータ博物館』構想は,KCG資料館に現存するコンピュータ技術遺産2点を含む多くの技術遺産を大切に守り,今後文化的にも学術的にも更に発展させるため,また,これらの技術遺産を通して,世界の最先端で活躍する“人財”を育成するためにも重要な取り組みであると考えます。
貴学院が近代日本の「歴史」と「文化」と言えるこの技術遺産を守られ,その意義を歴史と伝統のある京都の地から発信されることは大変意義深いことであり,本構想が早期に実現されることを祈念致します。
上記の肩書・経歴等はアキューム18号発刊当時のものです。