学院では,1998年4月よりゲーム開発科(全日制2年課程)を新設し,ゲームソフト開発技術者の育成に本格的に乗り出した。設置後1年がたった今,ゲーム開発科の設置の経緯,そして現状などについて,同科担当の小西薫先生にお話を伺った。
―ゲーム開発科を設置することになった経緯は。
小西 実はゲーム開発科ができる前から,学院卒業生のゲーム関連企業への就職は多数ありました。ゲームを創ることが職種として成立し始めた当初から活躍している卒業生が多いです。現在も数百倍という競争率のなかから,ナムコ,SEC,カプコン,セガなど有名なゲーム会社に就職を果たす学生が毎年出てきます。こうした実績を活かして何かできないかという発想がまずありました。
もう一つは,ゲーム業界の成長という事実ですね。ここ数年,ゲーム業界の成長ぶりは大変なものです。ゲームの内容も多様化・高度化し,日本が世界に誇れる一つの「文化」といえるほどまでになりました。それに伴い,当然ゲーム開発技術も高度化・専門化しました。私のイメージでいうと,ゲーム開発に求められるコンピュータ技術は,コンピュータ分野の中では狭い範囲ですが,より専門的で深いものになってきているように思うのです。ゲーム業界で求められる人材像も,昔にくらべ様変わりしてきていますね。そうした状況を見て,これまでの実績を活かしながら,ゲーム業界の要請に応えられるようなプロフェッショナルを育成していく学科を設けようということになりました。
―ゲーム開発というのは,どういうものでしょうか。
小西 ええ,私はつねづねゲームというのは総合芸術,エンタテイメントだと思っています。映画やオペラと似たような要素があると思います。ことば,映像,音楽,といった様々な要素が渾然一体となって,一つの世界を生み出す。そのため,当然,大掛かりなゲームになればなるほど,開発には,多数の人が関わることになります。まず言葉の側面では,シナリオライターがいますし,音や映像に関してはデザイナーがいます。それに実際にゲームを創るにあたって設計図を書くSEもいるし,その指示に従ってプログラムを組むプログラマもいる。また,そうした多数の人間が関わるので,全体をまとめる人も必要です。映画における監督のような役割を果たす人ですね。企画立案者といってもいいでしょう。このように多数の人間が関わるというのがゲーム開発の実際ですね。
―ゲーム開発科では,どのようなカリキュラムが組まれていますか。
小西 我々は,コンピュータ技術としてのゲーム作成を主眼としています。そのため,プログラミングを重視したカリキュラム構成となっています。まずC言語は必修です。これはみっちりやってもらいます。またゲーム案を具体化するための企画立案を勉強する科目も,2年間続きます。中心となる開発面では,家庭用ゲーム機での開発と,パソコン用ゲーム開発の両方で実践的な学習をしてもらいます。内容的には,初歩から始まりますが,最終的にかなり高度なものになります。それから「ゲーム開発科」の学生は全員,卒業制作で,オリジナルなゲームを開発してもらうことになります。カリキュラムの概略をわかりやすくいうとこんな感じですね。無論それ以外にも,ゲーム開発者に必要な広範な知識を得てもらうために,一般教育科目や,芸術鑑賞などもあります。
―さきほどゲーム開発には種々の人が関わっているとの話がありましたが,この学科ではどういう人材を育成することを目標としていますか。
小西 コンピュータ技術の習得に眼目を置いたカリキュラム構成の話からもわかってもらえるかと思うのですが,ゲーム開発科で育成を目指している人材は,ゲームプログラマやゲームSE,それにゲームの全体を技術的な側面から統括する企画立案者ということになりますね。デザイナー,シナリオライターは,むしろ学院のコンピュータアート・デザイン系の学科で育成することになると思います。
学科名称が,「ゲーム科」ではなく,「ゲーム開発科」であるのも,実は我々のこだわりがあるんです。既に,「ゲーム科」を名乗る学科を設けている専修学校はいくつもありました。そうした学科を見て思ったのは,趣味的なコースが非常に多いということです。我々はそうした学科にするつもりはありませんでした。あくまで「開発」のプロ育成ということにこだわったつもりです。確かにゲームをするのは楽しいし,自分の趣味で簡単なゲームをつくることも楽しいでしょう。でもそれだけでは足りないと思うんです。常にゲームを楽しむユーザーがいることを意識した考え方が必要だと思います。先ほども言いましたように,ゲームの最先端は非常に高度化した技術を要するものとなっています。本当のプロになるためには,プログラミング言語の習得をはじめとするコンピュータ技術の基礎をしっかりつくらなければいけない。私も学生には厳しいことを随分言うんですよ。それが彼らのためになると信じています。無論,厳しいことを言うだけではなく,わかりやすい授業をするということでも,先生方は,それぞれ工夫されていますね。
―ゲーム開発科の学生諸君は,どうですか。
小西 学生を見ていて思うのは,みんな,楽しそうだなということですね。ゲームにやたら詳しい学生も多くて,話が合う仲間,同じ夢を持っている仲間が集まったからでしょうか,友達づきあいも盛んなようです。こういう雰囲気は我々も大切にしていきたいと思います。 それと熱心に,技術的な質問をしてくる学生も多いですね。時間の許す限り,とことん付き合っています。熱心な質問が多いというのは,教師としては嬉しいものです。ゲームはこれまで自分でやるものだと思っていたが,技術がだんだん身について,今ではゲームづくりが楽しくてしょうがない,と言ってくれる学生もいたりしてね。内容的に高度な授業が多くて大変なのですが,学生諸君が楽しんでくれているというのはなによりです。
―全員がゲーム企業に就職できるとは思えませんが,その点はどう思われますか。
小西 ええ,そのとおりです。全国にある専門学校の「ゲーム科」の学生や大学でゲーム開発を志している人たちをあわせた数と,ゲーム系企業の求人者数を単純に比較してもそれは明白です。まあ,大学の法学部を出て皆が法律家になるわけではない事実を考えれば,それは普通のことだと思いますが。
ただ,そのことは,最初から学生には言っています。その厳しい現実から,学生生活を出発させなければ嘘だと,我々は考えています。ゲームをやっているときの楽しさとはおよそ無縁な非常に熾烈な競争があるわけで,そのことをしっかりわかった上で,学生諸君には頑張ってもらおうと考えているわけです。ゲーム業界で活躍する多くの先輩に続けとね。
また,我々がプログラミング言語の習得などに力をいれているのも,そのこととも関係があります。ゲーム開発科の学生の多くは,ゲームが目的で,コンピュータ技術は手段であるという発想の学生が多いのですが,勉強をしているうちに,手段であったはずのコンピュータ技術の面白さに目覚める学生もいます。そのように,学生諸君の人生における選択の幅を広げることにも配慮して,カリキュラムは考えています。つぶしが効くというのでしょうか,そういう側面も満たした学科を目指しています。
―最後に,ゲームをまだ創ったことのない新入生がほとんどだと思うのですが,そうした学生を指導する際に何か特に強調している点はありますか。
小西 ゲーム作りの醍醐味は,実際に他人に遊んでもらって,評価してもらうことの喜びにあるのではないかと思っています。おそらく小説とか音楽よりも,ゲームに対する評価はストレートに出ると思うのです。面白いか,つまらないか,それだけで勝負が決まりますから。だから,創る側としては非常に厳しい面もあると思います。
趣味的な要素の強い他の専門学校のゲーム科は,一見すると,そちらの方が楽しそうに見えたりもすると思います。しかし就職のことなど考えると,表面的な面白さだけで進路を選んで,大丈夫なのかなって正直思いますね。我々はゲームづくりの本当の面白さを学んでもらいたいと思っています。
他人の評価に耐え得るゲームを創るために,高度な技術力を身につけることは言うまでもありませんが,その他に我々は学生に次の二つのことを強調しています。まず,好奇心を旺盛にし,幅広い知識を得るようにつとめること。何よりもゲーム開発者は,既成のゲームにはないオリジナルな面白さを発見しなければなりません。面白がって幅広い分野に興味を持てることもゲーム開発者の素養の一つだと思います。
次に他人の意見に耳を傾けることのできる柔軟さを身につけること。プロは,常に人から見られることを意識しなければなりません。プロには自己満足が許されないのです。他人の意見も採り入れながら,修正を図っていくことが必要です。また先ほども言ったように,ゲーム開発は多数の人とのプロジェクトです。自分の考えに凝り固まってしまうことがあっては,よいゲーム開発者になるのは困難です。
幸い学院には,ゲーム業界で活躍している先輩も多いですし,ゲームに詳しい学生も数多くいます。そうした人々と意見を交わしたり,議論をしたりしながら,自分を磨き,一流のゲーム開発者に成長してほしいと思っています。