最近,「第3世代携帯電話(3G = 3rd Generation Mobile Telecommunications)」という言葉を聞くことが多くなった。もちろん新型の端末が登場したということだが,「世代」という言葉は,カメラが付いたりJavaアプリが使えるようになったりという目に見える機能の追加を指すのではない。移動体通信の規格に従った明確なものなのだ。
「第1世代(1G)」は80年代を中心としたアナログ携帯電話のこと。日本ではNTTが79年12月に自動車電話のサービスを始めたのが最初であり,85年に「携帯」が可能なショルダーホンが登場する。当時は端末1台ずつが無線局としての扱いとなり,郵政省による免許証が必要だったり,端末が数十万円もしたり,通話料が月10万円以上かかったりと,決して便利な道具ではなかった。88年にIDOがサービスを開始し,ハンディホンが発売されてバッグの中に電話が入るようになり,ポケットベルとのシェア争いとなった。
「第2世代(2G)」は90年代を中心としたデジタル携帯電話のこと。93年にデジタル方式の運用が始まると,それまでの800MHz帯に加えて1.5GHz帯の周波数が使われるようになり,東京デジタルホン,ツーカーセルラーなどの電話会社がサービスを開始した。音声信号に変調を掛けるだけのアナログ方式と異なり,デジタル方式では信号化の規格が複数ある。日本はNTTが先行して開発したPDC(PersonalDigitalCellular)方式が使われているが,日本と韓国を除く世界のほとんどの国では,GSM(GlobalSystemforMobilecommunications)方式が使われており,両者には互換性がない。
「第3世代(3G)」は,2000年から2GHz帯を利用して始まった,高速データ通信と国際ローミングが可能な携帯電話のこと。国際電気通信連合(ITU=InternationalTele-communicationUnion)が,
●高品質な会話
●高速データ通信
2,048kbps(静止状態)
384kbps(歩行状態)
144kbps(車載状態)
の条件を満たすIMT-2000(InternationalMobileTelecommunications2000)規格として,次の五つを勧告している。
●W-CDMA(DirectSpreadCDMA)
ドコモと欧州各社が中心に開発した規格で,ドコモのFOMAとボーダフォンのグローバルスタンダードで採用されている。
●CDMA2000(WidebandcdmaOne)
アメリカのクァルコムとモトローラが中心に開発した規格で,KDDIが採用し世界で最も成功している3G方式。
●CDMATDD
●FDMA/TDMA(DECT)
●TDMA(Single-Carrier)
世界標準のGSM方式が進化した高速データ通信「EDGE(EnhancedDataGSMEnvironment)」が用いる規格。DDIポケットのPHS「-H"」とは無関係で,運用実績はほとんどない。
現在,3G方式のサービスは日本が世界で最も進んでいるが,テレビ電話・ムービーメール・着うたなどの高速大容量データ通信にフォーカスされていて,もう一つの側面である国際ローミングが3Gの根幹であることはあまり知られていない。
「第4世代」は下りの最高速度で50~100Mbpsを目指す次世代移動通信体のことで,2010年前後に実用化されると言われている。しかし,その形態が現在の携帯電話の発展系になるとは限らず,無線LANのホットスポットが普及した場合,モバイルIPフォンがその要件を先に達成してしまうかも知れない。また既に普及しているPHS網を高速化する方法もあり,これら複数の方式を状況によってシームレスに使い分けるハイブリッド端末に携帯電話が進化する可能性もある。
日本の携帯電話は世界の趨勢とは異なる進化をしているが,その中核となるのが,iモードなどの2Gでありながらデータ通信においては3Gと同様の使い方ができる端末である。これらパケット通信が可能な端末は,2Gと3Gの間という意味で2.5Gと呼ばれている。99年にドコモがiモードのサービスを始めて以来,2.5Gは日本で独自の発展をするわけだが,J-フォンの端末ではパケット通信を使わずにインターネットのブラウジングやメールを実現している。これは2.1Gと呼ばれ,写メールなどの人気の高いサービスの出現とあいまって,現在でも広く普及している。
auは3G端末への移行が進んでいるが,J-フォンは02年3月に2.5Gのパケット対応機を発売したものの,2.1G新型端末の割安感が大きく影響し,世代交代は思ったように進まなかった。現在では2.5Gをさらに進めた2.6G端末が登場しているが,ハイエンド端末は一部のユーザーにしか受け入れられないようだ。逆にドコモの505iシリーズは好調で,キャリアによるユーザー層の違いが明確になっている。
Javaアプリも,キャリア別に主力となるハードウェアの仕様が異なる。メモリ容量は30KBから256KB,画面サイズは120×130から240×320と違いの幅は広いが,ハイエンド端末の画面表示能力はスーパーファミコンやプレイステーションに匹敵するまでになって,家庭用ゲーム機を持っていない携帯アプリゲームプレイヤーも増えている。
最近の家庭用ゲーム機に対するライトユーザーの不満は,大きく次の4点という報告がある。
●わからない
たくさん発売されるゲームの一つ一つがどのような内容なのかを,事前に与えられる情報では判断できない。これは,続編などが多く,今までの経過を知っていることが前提の説明では,新たにゲームを始めようという人には通用しないという一面もある。
●難しい
コアユーザーを満足させる内容では,ゲームのルール,操作ともにライトユーザーには厳しい内容になってしまう。また,対戦ゲームやオンラインゲームなどでは,先行しているコアユーザーに全く対抗することができない。
●高い
PS2ソフトの値段は5800~6800円が普通になっている。これに対し廉価版ソフトは2000円程度,さらに同じ売り場で売られるDVDソフトには1500円というものもある。
●時間がない
ゲームをクリアするために必要な時間は,数十時間から百時間程度であり,ライトユーザーにはこの長い拘束時間がマイナス要因となっている。6000円で50時間も掛かるゲームより,2000円で2時間楽しいDVDの方が時間を有効に使える計算だ。
これに対し,携帯アプリは次の長所を持っている。
●いつでも持っている
ゲームで遊ぶために時間を使うのではなく,空いた時間にゲームをすることができるので無駄な時間を取られない。
●ネットワークにつながる
電話として契約するだけでネットワークプロバイダー契約を完了したことになり,有料コンテンツに対する支払いも月々の電話料金に加算されるだけと手軽。ネット接続が前提なので,ソフトの購入自体も時間や場所を選ばず,バグフィクスやバージョンアップなどの対応も容易である。
●人目をはばからない
ゲームボーイなどの携帯ゲームを通勤車内で使うことには抵抗がある女性層なども,「たまごっち」や「ミニテトリン」などのブームが示すように,潜在的な携帯ゲームユーザーである。それに対し携帯電話のアプリは,メールを打っているのと変わらない印象で遊びやすい。
●安い
月額課金で月100~300円程度。ゲーム時間も合計で数時間程度とリーズナブル。
このようなユーザー層に対してアピールするために,携帯アプリゲームを作るときには次の点を心掛けなければいけない。
●わかりやすく作る
詳しい説明書が用意できない携帯アプリでは,ゲームをプレイしているだけでルールが理解できる程度の分かりやすさが必要となる。また,ゲーム内容を想像しやすい,あるいは雰囲気がよく伝わるようなタイトルを付けることも効果的。
●通信を使わない
200KBのソフトをダウンロードしただけで,数百円の通信費が掛かる。すでにコンテンツ料より高額になっていることに矛盾を感じるが,それ以上の通信費が掛からないように,画像データをサーバに持ったりするようなことはせず,完全ダウンロードで遊べるように作るのが効果的。ネット対戦ゲームでも,データを常時やりとりするのではなく,要所要所でデータを交換し合うようにするなど,通信量を減らす工夫を怠ってはダメだ。
●短時間で片を付ける
空いた時間にゲームをしてもらうためには,ゲーム全体のボリュームとは関係なく,短時間で充分楽しめる工夫といつでもゲームが中断できる構造が必要である。
●操作性を確保する
携帯電話のインターフェイスはもともとゲームをするために作られたものではないので,携帯アプリではそのインターフェイスに合わせた操作方法をとらなければならない。
理想は片手だけでプレイできることなので,方向キーだけを使ったもの,ダイヤルキーだけを使ったものなどが無難である。方向キー以外のボタンを使う場合,使うボタンを一つだけに限定し,同時操作を必須とするようなアクション性を控えれば同様の操作性となる。
同時操作が必要な場合は,方向キーを4方向や8方向に使うのではなく上下か左右の2方向(特に左右)に限定すれば,小さなボタンの携帯電話でも充分な操作性が確保できる。また,自動化できる操作に関しては積極的に自動化することも必要だ。
さらに,コンテンツプロバイダとして携帯アプリを配信していく上で,顧客を得るための有効な手段として実際に次のようなことを行っている。
●機種対応
半年程度のスパンで発表される新機種に対し,上位互換であったとしても画面サイズに合わせて新たなグラフィックを用意するなど,細かく対応する。
●バージョンアップ
新機種対応などで新たに付け加えられた仕様を既存機種にも追加したり,バグフィックスなどを施したものを,新規ユーザーだけでなく,既存ユーザーにも提供する。
●データ配信
パズルの問題など,アプリのデータ部分だけを後付けで配信し,リピーターの需要に応える。
●コミュニティ形成
ネットワークの機能を利用して,地域密着型キャンペーンや対戦ゲームの大会などを催し,ユーザー同士のコミュニティ作りをバックアップする。
このように日本はもともと携帯ゲームで遊ぶ習慣があることも手伝い,携帯アプリゲームが既に充分普及しているが,海外では携帯電話自体が置かれている環境も異なり,日本とはまるで様子が違う。日本の携帯電話サービスに慣れている我々にとって,海外の携帯電話サービスはかなり違和感がある。
まず日本と韓国以外のほとんどがGSM方式を取っているので,2Gでありながら国際ローミングは当たり前。逆に考えると,世界の国々で普通に使われている携帯電話が日本では使えないという一種の鎖国状態なのだ。
また,日本では通信サービスを提供しているのはドコモ,ボーダフォン,KDDIの3社で,キャリアごとに専用の端末が販売され互換性は全くない。対するGSM圏では,端末はメーカーから購入するいわゆる「白ロム」状態のものでよく,電話として使うためにはメーカーと関係なくキャリアを選んで契約すればよい。
これを可能にしているのがSIM(SubscriberIdentifyModule)と呼ばれるICチップで,自分のスタイルに合ったキャリアを選んで契約すると,電話番号の入ったSIMカードが渡される。ユーザーは好みの端末を買って,このSIMカードを入れれば,自分の携帯電話として使えるようになる。料金はSIMカードに対して課せられるので,端末は純粋に端末としての値段で取り引きされ,日本より高額の場合が多い。ただし,SIMカードには電話帳も記憶できるので,複数の端末を所有していれば,TPOに合わせて携帯電話を変えることもできるし,人の電話を借りる場合に自分のSIMカードを使えば電話料金だけ自分持ちになるのだ。というわけで,海外では機種変更の概念がない。あまり知られていないが,ドコモのFOMA端末に入っているFOMAカードはSIMカードで,FOMA間では同様の運用が可能だ。このような状況だと,端末もあらゆる機能を一つにまとめる必要がないので,ユニークな機能を持ったものや,奇抜なデザインのものが多くなるのである。
日本では全く人気がなく,現在ではほぼシェアがゼロとなっているフィンランドのノキア社は,世界シェアでは38%という巨人だ。ノキアの端末はシリーズと呼ばれるグループで大きく四つに分かれている。
シリーズ40は,アジアを中心に世界で最も普及している機種で,赤外線通信やUSBなどでPCとの連携が可能。画面は128×128で,通話だけのものからユニークな特殊機能を持ったものまで,たくさんのバリエーションがある。例えば5100は懐中電灯,温度計,FMラジオの機能と簡単な防水でアウトドア向け。6100はモバイルウォレットという電子決済機能で財布代わりに。7210はFMラジオだけのオシャレモデル。7250はカメラ内蔵で各種機能を搭載した高級モデルといった具合だ。ノキアの端末は,容易に全てのカバーを外すことが可能で,着せ替え携帯のように色違いのカバーのバリエーションも別売されている。また3300のようなゲームに特化した形を持ち,MP3プレイヤーやデジタルレコーダーとしても使えるものもラインナップされており,外部メモリとしてSDカードと互換性のあるMMCを搭載している。
シリーズ60はノキアのフラッグシッププラットフォームで,ヨーロッパではビジネスユースのスタンダードになっている。画面サイズは176×208で,カメラやブルートゥースなどが標準搭載され,システムを構成している英シンビアン社製OS上であればJavaではなくC++でソフトを書くこともできる。7650はPDAのような運用を想定して作られた端末で,スライドさせることによってボタンやカメラなどが現れる。3650は既に1000万台以上を販売している普及端末なのだが,電話のダイヤルを模したボタン構成が携帯電話の常識を大きく外れており「ダイヤルキー操作は全機種共通」というアプリ作成の最後の安全策が通用しない。全く同じ形の新型3660では,文字盤だけがコンベンショナルな配列に改められているのだが,今さら1000万人ユーザーを切り捨てるわけにはいかない。逆にとらえ,「132*」キーを左手用上下左右に,「08#9」キーを右手用上下左右に使ったツィンスティック系のゲームをいずれ作ってみたいものだ。6600は新型の端末で,JavaのMIDP2.0をサポートしていて,今後の売れ行きが注目される。
モトローラ社がアジアで大きなシェアを持っているT720シリーズの端末は,日本の端末と機能や形がほとんど変わらない。120×142という画面サイズやCPUの能力など,auの普及機並であるが,液晶画面の質やボタンを押した感触などが遥かに劣る。また,シャープの端末をOEMで扱ったりしているので,同一メーカー内でも機種対応などが難しい。
そのシャープは日本と同じように通信サービスをしている会社のブランドとして,ファームウェア違いの同型機を広く世界で販売している。GXと呼ばれるシリーズがそれで,中身はJ-フォンの端末とほぼ同じ。画面サイズ120×130のものが,
●GX10ヨーロッパ向け
●GX11(GXi98)台湾向け
●GX12香港向け
●GX13東欧向け
●GX15大唐電子OEM
●GX16モトローラOEM
のように供給され,QVGA液晶端末も,GX20シリーズとして好調に展開している。
日本でも馴染みのある範囲では,ソニーエリクソンの端末も海外での評価が高い。代表的なT610は小型軽量のカメラ付きで液晶がきれいと,日本で発売されてもそれなりの人気になると思われる。ただしアプリの処理速度が今まで手掛けた端末の中では最遅で,描画方法などに特殊なテクニックが必要になる。
これからの携帯端末は多くの二極化が進んで行くと予想される。auのインフォバーに代表されるようなデザイン重視の傾向と,ボーダフォンのV601SHのような機能重視の傾向。現行のQVGAからいずれはVGAへと流れる高解像度化の傾向と,120×130の現行普及機の解像度で充分とする傾向。このような細分化はアプリのゲームを楽しむということにも及び,ノキアからは「Nゲージ(N-GAGE)」というゲームに特化した端末が発売されている。残念ながらGSM方式のみの対応なので,日本では一般に使用することができない。
Nゲージの基本的な機能はシリーズ60と共通で,画面は176×208とGBAの240×160よりやや小さい。本体のサイズもGBAより一回り小さく薄い印象。ノキアには前述の3300というさらに小型のゲーム機型端末があるが,大人の手にはNゲージの方が持ちやすい。3300との大きな違いはボタンの押し心地で,Nゲージは電話のボタンではなくゲームのボタンに近い感触がある。右手のダイヤルボタンは,GBAのABボタンにあたる5と7が他より出っ張っていて,操作感を向上させている。3300にはあった上面のLRボタンがNゲージにはないが,これは上面に受話部分があって電話機能が集約されているため。電話としての使い勝手など無視して,ここはLRボタンを付けて欲しかった。
ソフトの供給は,シリーズ60で動くJavaなら通信やブルートゥース,USBを使ってダウンロードする形で,シンビアンOSを使った大容量の専用ソフトはMMCによるパッケージ販売で行われている。MMCならROMカセットのような運用が可能だろうと考えるが,実際にはかなり難物で,裏蓋を開けてバッテリーを取り出さないとMMCが交換できないようになっている上に,ゲームが起動するまで40秒ほどの時間が掛かる。もし日本で使用可能だったとしても,GBAのライバルとなるようなことはないだろう。
独自な進化を続ける日本では,ドコモの3G端末900iシリーズに「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」が登場し,今後もさらにその独自性を高めていきそうな気配だ。
(2003年11月3日)
※この講演は,アキューム12号所載『携帯アプリ黎明期のゲームデザイン』の内容を承けたものです。