わが国最初のコンピュータ教育機関である京都コンピュータ学院は,40年の長きにわたり,秒進分歩の進化発展を続けるIT・コンピュータ技術への迅速な対応を使命として,不断の教育改革に取り組み,社会の人材要請に応えてまいりました。
現今,わが国におけるIT応用分野の人材不足はあまりにも深刻であり,IT専門職大学院の一日も早い誕生を切望する業界の声の中,2003年春の新制度の施行により,教育改革路線の門が突如として開かれた時,これまでの教育実績と経験を活かし,私どもが直ちに行動を開始したのは必然でありました。
わが国がIT専門職大学院を痛切に必要とし,その成功なくしては教育改革も日本再生もありえないとの認識のもと,社会に対する使命感に基づいて,私どもはIT専門職大学院の設置認可申請をいたしました。
私どもは,当然,多くの高等教育機関が同様の志のもと同種のIT専門職大学院の申請をするものと考えておりましたが,意外にも,IT専門職大学院としての申請は,京都情報大学院大学のみでした。
各々の学問分野において,創始者のセオリーが永遠にその専門分野の原点として残り,頂点を維持し続けるように,大学の歴史においても,ハーバード大学,パリ大学,そして東京帝国大学等と,それぞれの国の各分野の最初の大学が,その後も「創始」として君臨し続けております。ある分野の最初の大学の開学とは,単に一つの大学が誕生したという事実に留まらず,まさしく新しい分野が切り拓かれたという社会的な意義を有します。「創始」としての君臨は,この創始者としての社会的意義を自覚し,その責任を全うすることに不断の努力と情熱を注いできた結果であることは言うまでもありません。その成否は,当該分野,ひいてはその国の命運を左右しかねないともいえるでしょう。
高等教育におけるその事実を前に,私どもは,IT分野における最初で唯一の前例として,最上のモデル校となるべき責任を自覚し,認可第一号のIT専門職大学院として,これを厳粛に受け止め,その誕生から発展の未来を担いたいと存じます。
著名な高等教育学者,クラーク・カーが述べるように,組織が肥大化した伝統的大学セクターだけに関心が集中する時代は終焉を迎えました。多くの国でeラーニング化が進み,生涯教育,生涯学習は一般化しつつあります。コロンビア大学のデール・マン教授がおっしゃる「民主主義 democracy」と「自由主義経済 free market economics」,「テクノロジー technology」の三つを重要なキーワードとして,すでに,世界中で優秀な大学が地球規模のネットワーク化への挑戦を開始しています。大学は,地理的条件や学生の年齢的条件から解放され,全地球を覆うサイバースペース上に重心を移行しつつあることに疑いはありません。やがて大学は,「ユニバーシティ」から「ネットワークマルチバーシティ(Network Multi-versity)」とでもいうべき存在になっていくでしょう。地理的条件や政治的条件はあまり意味がなくなり,文化的・哲学的な特性がさらに重要なものになっていくと思われます。
私どもKCGグループは,世界中の大学など約80の教育機関,そして,各国政府との広範なネットワークの中にあります。日本文化を代表する京都の街にある,京都コンピュータ学院と京都情報大学院大学が,今後,世界のIT教育において一つの中心的役割を果たし,世界に向かっての情報文化発信の一拠点となることを願っております。
皆様方のあたたかいご支援のほど,よろしくお願い申しあげます。
上記の肩書・経歴等はアキューム22・23号発刊当時のものです。