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Accumu Vol.14

ダンス公演 京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」に参加して

末広 ゆかり

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

2004年12月5日,京都府立文化芸術会館で,NPO京都ダンスアカデミー主催の京都府舞台芸術振興事業・ダンス公演『海心遊記』が開催された。

真に豊かと言える未来のために,「こころ」と「からだ」をつなげるダンスのメソッドを用いるダンサーとダンス教育者を育成すること,それを世界でも有数の芸術性と精神性を誇る文化を培ってきた京都の地で行い,さらに進化した芸術を世界に向けて発信していくことが,京都ダンスアカデミーの目的である。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

優れたダンサーは,ダンス・テクニックはもちろん,人のこころに届く音,光,色の感覚を身につけている。同アカデミーは,京都府および財団法人京都文化財団《京都府舞台芸術振興事業》とのプロジェクトにおいて,ダンサーのこのような資質を育てる企画として,『海心遊記』を制作することになった。

制作にあたり,インドネシアのスマトラ島・アチェ地方に伝わる民族舞踊「アチェダンス」や上方舞のワークショップなどが行われ,これらの動きを取り入れて,太古,生命の起源の場となった「海」を,ステージと観客を一体ととらえて「からだ」で表現することを試みた。私は,ダンサーとして,この『海心遊記』に参加することになった。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

いくつかの演目に出たのだが,特に印象に残った「アチェダンス」について感じたことを皆さんにご紹介しようと思う。

インドネシアの踊りというと,「バリ舞踊」が有名であるが,アチェダンスは,誰でも踊れるようにという理由から,バリ舞踊に比べて質素な衣装で,日本の「盆踊り」のような踊りである。振付・指導は,京都市在住のインドネシア人であるMAKSALMINA氏(通称:MEX)が行った。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

私は,普段からモダンダンスやジャズダンス,クラシックバレエなどを踊っているので,これくらいの動きは簡単にできるだろうと思っていた。しかし,MEXと同じ動きをしていると思っているのに,「違う!違う!」と言われ続け,どうしてよいかわからなくなっていた。

ある日,同アカデミーの代表であり,マリ子ダンスシアターを主宰している高安マリ子氏と,上方舞の指導者の立花典枝氏にアチェダンスを見てもらったときのことだ。「MEXしか目に入らない」「MEXを見ていると,アチェののどかな田園風景が見えて,土や草のにおいまで伝わってくるが,他の人からは何も伝わってこない」「この踊りのバックグラウンドや,歌詞の意味をわかって踊っているのか?」などと指摘された。言われてみれば,振りを合わせることだけを考えていて,歌詞のことや,どういうときに踊るものかも理解していなかった。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

早速,次のリハーサルで,インドネシア語の歌詞を訳してもらった。それを目にしたとき,涙があふれた。歌詞の中に,「お金やモノをたくさん持っていても豊かとは言わない。周りの人のことを考えて助けてあげられる人が本当に豊かな人だ」とあった。愕然とした。今まで何をしていたんだろうと思った。アチェの人たちはこんな気持ちで踊っているのかと思うと,恥ずかしい気持ちで一杯になった。日本人も昔は持っていたのに,高度経済成長の渦の中に巻き込まれ,いつしか忘れてしまった大切なことのひとつである。

人に対して何かを表現するとき,テクニックだけで感動を与えることはできない。ダンスにとっていちばん大切な「こころの動き」がなければ,ダンスとしての表現は伝わらない。

今度は私がこの歌詞の言葉を,その意味を,観客に伝える番だと思い,心を入れ替えて,MEXの一挙一動を,そして細かい表情も見落とさないように心がけた。それを境に,MEXから「違う!」と言われなくなった。やはり,私に欠けていたのは,振りの正確さではなく「こころ」だったのだと感じた。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

今回の公演に参加して,自分自身の表現に対する洞察力と感受性の無さに気付いた。また,自分の表現力の至らなさを痛感したし,経験の浅さを知ることができ,得るものが本当に大きかったと思う。

ちょうど,アチェダンスに苦しんでいる頃,こんな夢を見た。

私は数人の人と南の海のリゾート地にある鉄筋コンクリートでできた小学校の2階にいた。窓から海を見ていると,高さ10m以上の大きな波が押し寄せてきた。他の人は「大波だ!大波だ!」と言って,はしゃいでいる。私が「あれは津波じゃないの? ここは危険だから上に行こう!」と叫んでいるのに,他の人は大波に見とれて動こうとしない。津波で2階の窓ガラスが割れ,海水が押し寄せてきた。私は上の階へ逃げようとしたところで,目が覚めた。

その3ヶ月後,夢は現実のものになってしまった。スマトラ沖大地震による津波である。皮肉にも,アチェ州が最も大きな被害を受け,津波により多くの人命が奪われた。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

2005年2月13日,京都ドイツ文化センターにて,京都ダンスアカデミーによる「アチェの子どもたちに未来を」というイベントが開催された。アチェの復興のために少しでも力になればと,私たちダンサーもお手伝いすることになった。

写真家でもあるMEXが撮影した,地震・津波が来る前の美しいアチェの風景と,津波の後の変わり果てたアチェのスライド・ショーが上映され,MEXと彼のお姉さんによるトークがあった。彼らの親戚の子どもも行方不明だという。

私たちは来場者にアチェダンスを披露し,振りを伝え,来場者たちと一緒に踊り,僅かながらアチェを体験してもらうことができた。

また,アチェの子どもたちのために募金活動も行い,今でも引き続き,寄付を募っている。(下記「アチェへの募金に関するURL」をご参照ください。)。

京都府舞台芸術振興事業「海心遊記」

この公演とイベントを機に,踊りを通じて,観客がエネルギーを感じ,皆が解放されたり勇気づけられたりするような,元気な「こころ」と「からだ」を持ったダンサーになりたいと思いました。そして,ダンスが限られた人のものでなく,皆さんに広がることを願っています。皆さんも私たちと一緒に踊りませんか?。

●NPO京都ダンスアカデミー
  http://www.kyotodanceacademy.com

●アチェへの募金に関するURL
  http://www.marikodancetheatre.com/pages/aceh.html

●マリ子ダンスシアター
  http://www.marikodancetheatre.com


ACEHの歌

日本語訳: MAKSALMINA 高姓彩乃 竹本尚代

●鳥の歌

 
山できれいな鳥を見た。
会合で全員の賛成を受けて決定したことは絶対だ。
言い訳など無しだ。
お金やモノをたくさん持っていても豊かとは言わない。
周りの人のことを考えて助けてあげられる人が本当の豊かな人だ。
自然は偉大だ。
嵐が来たらどうしよう,という不安はあってもみんな口には出さない。

●田植えの歌

 
漁師と農民はとっても大切な人たちだ。
彼らのおかげで私たちは豊かな生活ができるんだ。
1. 良き仲間たちとみんなで一緒に耕そう。
 Bunthok(ブント)おじいちゃんの畑は
 そろそろ種まきの時期だ。
 ☆さあ,みんなでせっせと働こう!(怠けずに)
  早くしないと日が暮れる! 
  良き仲間たちとみんなで一緒に種まきをしよう。
  田んぼに均等に種をまこう。
 ☆繰り返し
2. 良き仲間たちとみんなで一緒に草を抜こう。
 草を田んぼの外へ出そう。
 ☆繰り返し
3. 良き仲間たちとみんなで一緒に稲を刈ろう。
 力を入れてちゃんと刈ろう。
 ☆繰り返し
4. 良き仲間たちとみんなで一緒に米を持って帰ろう。
 家族のために持って帰ろう。
 若い女の子も早く結婚することができる。
 (米が豊作だとお金が儲かる。結婚資金にできる。)
5. みんなで精米しよう。

 コケコッコー
○ ホーホーホーホーホーホーホー 
 ハーハーハーハーハーハーハー♪(楽しい気持ち)
 時々台風や嵐が来るとお米がとれないから残念だ。
 今年はたくさんとれて良かった。
 (自然は偉大だ。心の中では常に心配があるけど,
  みんな口には出さない。)
 *イティ ブン バン ブン
 leusong(機械の名前)は
 イティ ブン バン ブンという音を奏でる。
 アレイ(円の中で跳ぶ人)は
 一生懸命アップダウンをしている。
 (アレイをする人は結婚したばかりの人。
 その人を村人に紹介している。)
 「この人はダラーの旦那さんです。」
 お金やモノをたくさん持っていても豊かとは言わない。
 周りの人のことを考えて助けてあげられる人が
 本当の豊かな人だ。
 * 繰り返し
○ 繰り返し
 * イティ ブン バン ブン(全員で盛大に盛り上がる!!!)

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末広 ゆかり
Yukari Suehiro
  • 京都コンピュータ学院情報科学科卒・教職員・ダンス同好会顧問
  • マリ子ダンスシアター所属
  • 高安マリ子氏の下で,ダンス,ダンス・メディテーション,ダンス・セラピーなどを修業中
  • モダンダンス,ジャズダンス,クラシックバレエなど,さまざまなジャンルのダンスに挑戦している

上記の肩書・経歴等はアキューム18号発刊当時のものです。