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Accumu Vol.11

妖怪乱舞 陰陽座

陰陽座

「へヴィ・メタルは魂の迸りである」とリーダーの瞬火が,その長身で観客を睥睨しながら,喉から搾り出す。応える観客の歓声。斗羅の叩き出す雷鳴のようなドラムが辺りの空気を変え,地響きのような重低音の瞬火のベースギターが走り出す。それに被さる狩姦と招鬼のツイン・ギターが垂直に,あるいは美しい螺旋を描き,天上目指して駆け上る。そして舞台中央に,一人の巫女が何かに憑かれた表情で立っている。紅一点,黒猫のどこまでも妖しいヴォーカルは,滑らかなソプラノから,野太い嬌声まで見事な変幻を遂げる。

「陰陽座」のライブは,観る者をたちまちのうちに異次元へと連れ去る。映画「妖怪百物語」に出てくる百鬼夜行のように。妖怪乱舞。


陰陽座

「陰陽座」は1996年6月20日に,大阪ブランニュー(西九条)で初ライブを行って以来,「妖怪・へヴィ・メタル」と自称する独特の世界を構築し,2001年12月16日にキングレコードからメジャー・デビューを果たした今最も熱いロック・バンドである。メンバーは,ヴォーカル:黒猫,ヴォーカル/ベース:瞬火,ギター:狩姦,ギター:招鬼,ドラムス:斗羅の五人。

「へヴィ・メタル」とは60年代末に現れた「ブラック・サバス」などの音楽の肌触りを表した言葉であり,歪んだギター音やドラムの激しいビートが生み出す大音量音楽を指す。リーダーの瞬火が最も影響を受けたバンドは「ジューダス・プリースト」。イギリス産のこのバンドは「メタル・ゴッド」とも呼ばれ,へヴィ・メタルの正統派である。陰陽座の独創性は,ジューダス流の冷たく燃え,重く疾走するメタリックなサウンドを忠実に継承しつつ,それと対極にある朧とした日本文化のテイストを加えたことにある。

「もともと陰陽道とか,陰陽師などの世界観が好きでした。陰陽とは,対極にあるものや,相反するものが,一つになっている状態を表す言葉です。白と黒,動と静など,相反するものを一つのバンドの中で表現したいと思い陰陽座としました。」と瞬火はバンド名について語る。

メンバーは平安貴族の装束を模した衣装を身にまとい,時折,日本の童謡や民謡のメロディが彼らの音楽には現れる。瞬火は言う。「やはり日本の伝統文化が好きなんです。欧米的な音楽に日本の古(いにしえ)の香りや雰囲気を盛り込みたいと思っています。」

黒い濡羽を振り乱し/骸をはむ奴等の影法師/

伍人死んだらまたおいで/羽音が呼ぶ涅槃の凪風よ/

(八咫烏)

歌詞の九割は瞬火が書くという。

「広辞苑など辞書を読むのが好きで,「食む」が「食べる」となった変遷を調べたりしています。字面だけ見ても意味は,よくわからないけれども,音で聴くと雰囲気がわかるようにしています。歌詞の内容は,妖怪のことを説明する歌詞が多いです。」

瞬火のこの最後の告白は衝撃的である。陰陽座は妖怪をダシにした虚仮おどしはしない。妖怪を「説明」しようとしている!本気なのである。多くの人は陰陽座が「妖怪・へヴィ・メタル」と自称すると聞いて,気味が悪いと思うのではないか。確かにそうした側面が陰陽座にはある。しかしそれは一面でしかない。ここで断罪しておきたいのは,「妖怪」を気味悪いものと決め付け,疎んじる感性である。「妖怪」は不気味なだけではなく,時にひょうきんであり,心奪われるほど美しかったりする。「妖怪」は日本人のイマジネーションの産物である。当時の日本人の心に呼応して,様々な面を有している。正に陰陽座の音楽はそうした妖怪の多様性と相似する。

陰陽座は,妖怪とへヴィ・メタルという対極にあるような要素を上手く溶け合わせ,新たな幻想世界を生むことに成功した。妖怪と出会うことで,へヴィ・メタルは,息を吹き返した。メタリックな音世界を背景とすることで,妖怪は現代に蘇った。陰陽座のライブでは,全てが躍動している。だから不気味なだけではない。むしろ底抜けに楽しい。

陰陽座

陰と陽。確かにこのバンドでは,相反する個性が,ひしめき,溶け合っている。まずは,妖艶な黒猫と,野性的な瞬火の絡み合うようなツイン・ヴォーカル。へヴィ・メタルでは,高音を誇りながら力で押し切るという定型に堕し易い。しかし「陰陽座」は女声・男声がうるわしい対比をなすツイン・ヴォーカル構成で単調さを免れ,複雑な表情を持たせることに成功している。黒猫のヴォーカルの妖艶で圧倒的な存在感は,特筆すべき陰陽座の魅力である。

次に狩姦と招鬼のツイン・リードギター構成。無表情に弦を爪弾くクールな「狩姦」。顔立ちの端正さが,お菊人形のようで鬼気迫る。狩姦がいるとそこだけ闇となる。それに対しエモーショナルなフレーズをかき鳴らす「招鬼」。その腕にはお札のようなものが描かれている。言葉は「重金属」(無論,へヴィ・メタルの直訳)。陰と陽の絶妙な対照関係で,このツインリードは,万華鏡のごときフレーズを紡ぎだす。静と動という対極。

さらにドラムスの斗羅は一人だけ邪気がない。斗羅のキャラクターは,ファンとバンドの貴重な心の結節点である。理知的な構成を売りとするバンドは,理屈が勝り息苦しさを漂わせかねないが,陰陽座においてはイノセントな魂を持ったドラマーがリズムを叩き出していることで,その弊を上手く免れているように思う。

日本の伝統的美意識を独自の耽美的な世界に昇華する陰陽座であるが,メンバーはそうした美意識さえ相対化してしまう。その証左としてのメンバーの名前。黒猫(くろねこ),瞬火(またたび),招鬼(まねき),狩姦(かるかん),斗羅(とら)。「猫つながり」である。とほほ。しかし,「かるかん」やら「とら」と名乗って平然としているあたり,このバンドは只者ではない。移り変わりの激しい音楽業界の第一線に何年も居続けるためには,常に自らのポジションを冷静に眺める客観的な視点を強固に持つことが必要であろう。

この点,「猫つながり」で名乗りあう「陰陽座」には,肝心なところで自分たちを突き離し,徹底して客体化する独特な感覚があるといえる。

さらに瞬火は言う。「この猫つながりの名前を聞いて,笑ってもらってもいいし,悲しんでもらってもいいです。本人が悲しいと思っていても,外から見ていると笑える場合もあるし,その逆もあります。人の受け取り方は様々です。できれば,そうした全てを内包してしまう形で音楽をやりたいです。」

何という達観。ここに彼らのポピュラリティ獲得に関する大きな可能性が見える。

(京都コンピュータ学院 軽音楽部顧問 湯下秀樹)

陰陽座「月に叢雲花に風」
2001年12月16日発売
メジャー・デビュー・マキシ・シングル
「月に叢雲花に風」
KICM-1042
陰陽座「煌神羅刹」
2002年1月10日発売
メジャー・デビュー・アルバム
「煌神羅刹」
KICS-927