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Accumu Vol.9

卒業生紹介 未知へのチャレンジ精神

昨年,学院は創立35周年を迎えた。創立年である1963年といえば,経済企画庁が経済白書「先進国への道」を発表し,これから正に日本が高度経済成長の道を歩み始めようとしていた時代である。コンピュータに関しては,どの大学にもまだ情報科学科,情報工学科が設置されていなかった。こうした状況の中で,コンピュータという未知の分野に果敢に挑戦した,学院のフロンティア精神,あるいはチャレンジ精神は,我々学院人ひとりひとりが受け継いでいきたい。そこで今回は,自らの可能性を求めて,果敢にチャレンジを続ける校友を紹介したい。

中口孝雄さん
中口孝雄さん

中口孝雄さん。京都コンピュータ学院鴨川校国際情報処理科に1993年に入学し,その後情報科学科に編入し,1996年京都コンピュータ学院鴨川校情報科学科を卒業。中口さんは,在学当時は,情報処理技術の習得に力を注ぎ,1回生の秋には情報処理技術者第2種試験に合格。3回生の春には情報処理技術者第1種試験にも合格している。学生時代は多くの先生と個人的にも仲良くなり,わからない箇所があれば,よく聞きに行ったという。「学院の良いところは,学生が熱意を持って,質問をすると,必ず熱心に応えてくださる先生がいたことです。」と中口さんは言う。

中口さんに学生時代の一番の思い出は何かと尋ねると,国際情報処理科のボストン研修であったという。異文化体験により自分のこれまでの常識が覆される経験をした。特に印象に残ったのは,アメリカ人が持っている未知へのチャレンジ精神であったという。「日本人はどうしても,周りを見回してできる限り,みんなと同じであろうとする雰囲気が強く,そのための努力を皆がしているように思える。そのため,自分の考えに基づいて,積極的に自分の人生を切り開くという姿勢に乏しい。ところがアメリカでは違った。出会った人すべてが,自分なりの考え方と夢を持って,人生を切り開こうという姿勢が強かった。」

中口さんが学院への進学を決めたのも,自分が何を学びたいかよりも,みんなが行くからという理由で大学進学をする周囲の風潮が嫌だったことが大きいという。彼は,コンピュータを学びたいという一心から学院への進学を決めた。ボストン研修でアメリカ文化に触れることで,自分の進路選択が決して間違ってはいなかったことを確信できたという。

学院卒業後は,学生時代のアルバイト先の先輩が,会社を設立することになり,その先輩から実力を見込まれ,会社設立に協力することとなった。会社設立後は,同社の取締役を務め,ソフト開発の仕事に携わることとなった。このように,既成の企業に就職をするのではなく,会社設立に関わるという中口さんの選択は,学生時代に学院で培ったチャレンジ精神の賜物であるといえよう。「会社の立ち上げから全て自分達でやったので,大変なことも多く,結果的には経営方針の食い違いなどから,この会社から飛び出す結果になりましたが,他では得難い経験をすることができました。その経験が,ある意味で現在の自分を支えてくれているようにも思います。」と中口さんは言う。

現在中口さんは,関西文化学術研究都市内の中核的な研究施設である,株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)人間情報通信研究所の客員研究技術員を務めている。同研究所で勤務していた学院の仲間から,携わっている研究プロジェクトの応援を頼まれたのがきっかけであった。「やはり大切なのは,人脈ですね。特に学院で作った人脈が貴重な財産になっています。幸いにして学院の卒業生は,お互いに助け合おうという気持ちが強くて,今でも学生時代の友人たちとは,仕事の情報交換などを頻繁に交わしています。」

もともと研究熱心で,より最先端の技術開発への志の強かった中口さんにとっては現在の職場は極めて刺激が多いという。ATRは職員の6人に1人が外国人で,研究所内では英語が共通語である。また研究所らしく,職員もジーンズ姿が多く,堅苦しい背広姿の人は少ない。中口さんの所属する人間情報通信研究所は,簡単にいえば従来コンピュータが扱うことのできなかった人間の感情や好みなどを研究している。中口さんは,その研究所の最先端のプロジェクトに参加し,毎日,世界を代表する一流の研究者たちの指導に従いながら,彼らのアイデアを形にするプログラマーとして,知的刺激の多い毎日を送っている。「この仕事をするためには,たくさんの文献を読まなければなりません。それもマニュアルのようなものではなく,学会誌に掲載された学術論文や開発レポートなどに目を通さないといけないんです。当然,そうした論文は英語で書かれていることが多いので,必然的に英語の勉強をすることになるんです。」

中口さんが参加しているプロジェクトでは,コンピュータ・ミュージックをより人間の演奏に近い自然なものとする研究をしているとのことである。「MIDIで作られたコンピュータ・ミュージックは,リズムも強弱も一定なんです。そこでわざと音と音の合間をずらしたり,強弱をつけたりしながら,より自然なものにするんです。例えばギターの演奏などだと,奏者が間違って関係のない弦に手が触れてしまったりして,実際には楽譜にない音も鳴ります。そうした音も追加したりしながら,より自然な音楽を追求するんです。」

こうした仕事をするために,中口さんは,音楽理論などについても勉強しているとのことである。「今後ますます勉強を重ねて,コンピュータ以外の分野にも知識を広げ,既存の概念にとらわれないアイデアを生み出して仕事をしていきたいと思っています。そのためには毎日が勉強ですね。大学編入学などの制度も充実してきたので,学院で学んだ技術を応用して更に未知の分野に挑戦してみたいと思っています。それに将来は,学院で創った人脈を活かして仲間と事業を起こしたいですね。」という。中口さんの挑戦は続く。

最後に,中口さんに後輩に向けてのアドバイスを聞いた。「皆さんが思っている以上に,学院で学んだ技術は社会で役に立ちます。まだまだ優秀なプログラマーの数も少なく,我々の技術に対する社会の期待が大きいことは日々実感します。一度しかない人生ですし,これからも私は未知の分野にチャレンジしたいと思っています。皆さんも学院の恵まれた環境をフルに活用して有意義な学生生活をおくってください。」