1995年度京都コンピュータ学院卒業研究発表会は2月21日(水)に,京都コンピュータ学院京都駅前校6階ホールに於いて実施された。
毎年,2月に行われているこの卒業研究発表会も,今回で第15回を数えることとなった。学生の学習成果の発表の場として,さらに,学生同士(同級生や先輩・後輩)の学習意欲の高揚の場としてこれまで大きな役割を果してきた。1993年度までの発表会は,100人程度が収容できる教室を会場として,発表の部のみを行っていたが,1994年度からは560人を収容できる京都駅前校6階ホールを会場としており,さらに,1995年度は展示の部を新たに設けて,6階ホール前を会場として使用した。発表の部のエントリーが24グループ(40名),展示の部のエントリーが23グループ(30名)で,参加学生数は約400名であった。
発表会当日は天候にも恵まれ,午前9時から始まった発表は,途中数回の休憩をはさんで午後4時30分まで行われた。冒頭,京都コンピュータ学院鴨川校校長作花先生の開会の挨拶があり,第1回卒業研究発表会から今回までの変遷やエピソードを交えた話に,改めて15回という歴史の重みを感じさせられた。この挨拶を皮切りに,発表会は始まった。(表1の卒業研究発表会発表内容一覧を参照)
基本的な画像処理手法の説明とC言語で作成したツールの紹介があった。そして,それらのツールで作成した太陽フィラメントの噴出画像のアニメーション化,競走馬が走っている様子のアニメーション化が紹介されたが,特に,競走馬の動きはとてもユニークであった。
「ハイパーテキストビューワ」と名付けられたこの作品は,他文書へのリンクや修飾文字,ビットマップなどを含んだ文書を表示するWINDOWS対応ソフトである。インターネット上でのHTMLを意識して,オブジェクト指向で設計され,すべてC++言語で記述されており,レベルの高い作品であった。
WINDOWS上で動作するオリジナルゲームソフトが紹介された。WINGライブラリーを組み込んでグラフィックス部分を高速化させており,ゲームのBGMも迫力があってユニークな作品となっていた。
天体の様子をシミュレーションするソフトが紹介された。VB言語で作成したこのソフトは,任意の日付・場所での天体の様子を瞬時に計算し,ディスプレイ上に表示するものである。ちなみに,表示される恒星・惑星の数はなんと1,600個だそうである。
3DCGの基本的手法であるモデリングによる物体表示,ポリゴン分割による物体表現,Zバッファ法による隠面消去処理,シェーディングによる光源処理の説明があった。その後,各手法をC言語で作成したツールとCGが紹介された。
英文和訳システムにおけるアルゴリズムの設計と辞書検索上の問題点についての発表があり,実現性を考慮した興味深いものであった。次に,脳モデルのプロトタイプとして,相互作用するオブジェクトからなる世界の進化をシミュレーションするプログラムが紹介された。ちなみに,プログラムはLISP言語で作成されている。
楽譜の知識を持たない人がコンピュータミュージックを始めるために必要な知識を,グラフィックスと音声を用いて解説する「楽譜の基礎知識学習ソフト」の紹介が行われた。このソフトはマルチメディア・オーサリング・ツールの一つであるTOOL・BOOKを使って作成されており,楽譜(♪)記号の動きと音声を組合わせた表現が,非常によいものとなっていた。
このゼミは,他のゼミのようなソフト中心の発表とは異なり,マイクロマウスロボットの製作と制御を行っている。マイクロマウスのハードウェアの仕組みとその制御アルゴリズムの説明があり,その後,デモ走行が行われた。迷路をぎこちなく走行するマイクロマウスが,会場の雰囲気を和やかなものにしていた。
卒業実習作品からは,最初に,情報処理科の学生が作成したロールプレイングゲームとシューティングゲームが紹介された。特に,シューティングゲームはX68000上で動作するもので,自宅からX68000マシンを持参しての紹介であった。
芸術情報学科からは,マッキントッシュの世界では有名なインフィニD,ディレクター,フォトショップを使って制作したアニメーションビデオの紹介が行われた。どれも非常にインパクトのある作品に仕上がっており,芸術的な評価は別として,1秒30フレームで作成されているので,制作には相当な時間,労力,データ容量を要しているだろう。
このゼミでは,HERO1ロボットキットの改造についての説明であった。既存のHERO1ロボットのハードウェア構成と制御の仕組みについての紹介があり,その後,デモ走行が行われた。
このゼミでは,パソコン上で動作するオリジナルOS開発を目標としている。その第一段階として,マイクロ・カーネル・アーキテクチャーの設計,次に,ファイルシステムとデバイスドライバの設計についての発表があった。まだ,設計の段階でありマシンには実装されていないが,完成すれば京都コンピュータ学院独自のOSが登場することになる。
ここでは,既存のユーザーインターフェースの問題点を指摘し,その改善策を様々な角度から検証・提案するということが,独自のビデオで紹介された。
このゼミでは,MIDIデータミキサコントローラの発表が行われた。MIDIデータのシーケンスコントロールとアナログボリュームによるミキシングを行う装置で,回路の設計からボードの製作まですべてオリジナルである。
展示の部では,表1に示した内容の作品が,午前9時30分から午後4時までの間,6階ホール前に準備したパソコンやビデオ等で展示された。作成した学生自らが作品の紹介を行っており,発表の部の休憩時間や昼休み時間に,多くの学生が取り囲んでいた。
今回は,従来の情報科学科ゼミナール中心の研究・作品発表に加えて,1995年度より開講された情報工学科ゼミナールの研究成果,さらに,1994年度より新設された芸術情報学科の第1期生による卒業実習作品の発表も加わった。それにより,発表テーマもエキスパートシステムやオリジナルOSの開発等のアカデミックな研究分野から,オリジナルゲーム制作,3DCG,アニメーション,ビデオ制作等のオーディオビジュアル分野まで,非常に幅広いものとなった。特に,最近のマルチメディアという言葉に象徴されるように,テキスト,音声,静止画,動画を同時に扱った研究・作品が多くなってきた。
発表に使用する機材も一段とパワーアップし,ビデオプロジェクターや音声出力ケーブルなどにより,グラフィックス,映像,音声の効果を利用した発表が可能となった。特に,音声や画像を扱ったWINDOWS対応ソフト,マッキントッシュでの3DCG,アニメーション,ビデオ制作等の作品は非常にインパクトのあるものになっていた。
その反面,発表する学生の発表態度,発表準備資料,話し方,学生のプレゼンテーション技術の貧弱さが目立った。このことは,発表の部の総評で情報工学研究所所長の萩原先生も指摘された。特に,発表の開始・説明のポイント・発表の終了が明確でなかったものが多かった。研究・作品の内容はともかくとして,限られた時間の中で,必要最小限の内容を,分かり易く説明することが大切であることを再認識した。
最後に,今回の発表会実施に際してご協力していただいた教職員,学生諸君にあらためて謝意を表したい。
NO. | 発 表 内 容 | 学 科 |
---|---|---|
1 | 画像処理ゼミ ●画像処理ゼミの1年 | 情報科学科 |
2 | WINDOWSプログラミングゼミ ●Hypertext Viewer | 情報科学科 |
3 | APIゼミ ●SWORD ●SLIM EXPRESS | 情報科学科 |
4 | 天文ゼミ ●星空シミュレーション | 情報科学科 |
5 | CGゼミ ●3Dグラフィックス | 情報科学科 |
6 | 人工知能ゼミ ●英文和訳システムのアルゴリズムと諸問題 ●世界シミュレーター | 情報科学科 |
7 | マルチメディアゼミ ●楽譜の基礎知識学習ソフト | 情報科学科 |
8 | マイクロマウスゼミ ●マイクロマウスの製作と制御 | 情報科学科 |
9 | 卒業実習作品 | |
●Silent Wood(2次元RPG) ●Divine Presence(シューティングゲーム) | 情報処理科 | |
●CGムービー ●街(3DCGによるアニメーション) ●ミュージックビデオ(3DCGによる) | 芸術情報学科 | |
10 | メカトロニクスゼミ ●HERO-1ロボットの改造 | 情報工学科 |
11 | オリジナルOS開発ゼミ ●マイクロカーネルアーキテクチャーの設計 ●FileSystemとデバイスドライバの設計 | 情報工学科 |
12 | マンマシンインターフェースゼミ ●ユーザーインターフェースについての考察 | 情報工学科 |
13 | ロジックCADゼミ ●MIDIデータミキサーコントローラの設計 | 情報工学科 |
NO. | 展 示 内 容 | 学 科 |
---|---|---|
1 | エキスパートシステム(人工知能ゼミ) 馬券心理テストシステムのデモ | 情報科学科 |
2 | 世界シミュレーション(人工知能ゼミ) | 情報科学科 |
3 | もぐらたたきゲーム(APIゼミ) WINDOWS対応もぐらたたきゲーム | 情報科学科 |
4 | 爆破ゲーム(APIゼミ) WINDOWS対応インベーダゲーム | 情報科学科 |
5 | ドラゴンクエスト紹介(APIゼミ) ドラゴンクエストの概要および簡単な 攻略法を絵と音楽で説明するソフト | 情報科学科 |
6 | キングオブキングス(マルチメディアゼミ) ファミコンゲームを元に簡易バージョンを WINDOWSで動作するように作成 | 情報科学科 |
7 | ダービー・ステーション(画像処理ゼミ) 競馬ゲームソフト | 情報科学科 |
8 | マンマシンインターフェースゼミ 個人研究レポート | 情報工学科 |
9 | コンピュータミュージック製作(卒業実習) 自作コンピュータミュージックの演奏 | 情報処理科 |
10 | THE PURSUIT BATTLE(卒業実習) WINDOWS対応シューティングゲーム | 情報処理科 |
11 | つるりん君(卒業実習) WINDOWS対応アクションゲーム | 情報処理科 |
12 | オセロキング(卒業実習) WINDOWS対応4人用オセロゲーム | 情報処理科 |
13 | COCKTAILパーティー(卒業実習) WINDOWS対応カクテル作り方データベース | 情報処理科 |
14 | ディジタル写真館(卒業実習) 3DCGによるディジタルアートの展示 | 芸術情報学科 |
15 | インタラクティブ名刺(卒業実習) | 芸術情報学科 |
16 | マックの名刺(卒業実習) | 芸術情報学科 |
17 | インタラクティブ写真集(卒業実習) | 芸術情報学科 |
18 | 関白メーカー(卒業実習) 歴史上の人物をインタラクティブゲームで作成 | 芸術情報学科 |
19 | 茶室(卒業実習) 3DCGによる歴史的建造物の制作 | 芸術情報学科 |
20 | CG作品集(卒業実習) | 芸術情報学科 |
21 | スリル(卒業実習) プロモーションビデオ | 芸術情報学科 |
22 | 機動戦士ガンダム大事典(卒業実習) 機動戦士ガンダムインタラクティブ辞典 | 芸術情報学科 |
23 | 地球最後の放送(卒業実習) 現実の放送のように作成したビデオ | 芸術情報学科 |