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Accumu Vol.17

卒業生特集 バルーンネット(株) 代表 井上清貴さん

バルーンネット(株) 代表 〈京都府城陽市〉
1998年KGG情報処理科卒 京都翔英高校出身
井上清貴さん(31)

バルーンネット(株) 代表 〈京都府城陽市〉 1998年KGG情報処理科卒 京都翔英高校出身 井上清貴さん

学生時代にウェブサイト作成などの手伝いをしていたことが縁で,内定を受けていた大手企業への就職を見送り入社。4年の月日が過ぎたころだった。KCGで築いた人間関係や,学んだ知識を活かしながら,会社では中心的な働きができるようになったと自負はしていた。しかし,当時の社長からこの話を持ちかけられたときには正直,驚いた。「これからはコンピュータの需要がますます拡大する。私の世代では無理だ。やってみないか」。ITブームもあり,業界の業績はおおむね右肩上がりだった。でも社長になるという言葉の陰にある「経理」「原価」「採用」など未知のものが頭の中を渦巻く。さすがに「即快諾」というわけにはいかなかった。ただ「城陽市など地域に根差した仕事は今後も続けていかなければならない。一方で全国を舞台にする夢はある。やりたいことを自分で見つけ,それを実現するチャンスかもしれない」という強い思いはあった。ともに働く仲間たちも若い。そしてお互い信頼できる。「やらせていただきます。頑張ります」。24歳だった。


障がい者施設や商工団体など,受講者は延べ500人。
それぞれにカリキュラムをつくり,生徒一人ひとりに丁寧に対応。

近鉄寺田駅に程近い2階建ての建物。城陽市寺田分庁舎別館の入り口には「城陽市文化協会」を案内する看板が掲げられている。午前10時前になると,自転車や徒歩で年配の方々が次々に集まってきた。パソコンが準備されている2階の会議室で,バルーンネット株式会社社長の井上清貴さんが笑顔で迎える。週に1度のパソコン教室。この日は1ヵ月コース講座の3回目だ。井上さんは同市文化協会の講座のほかに,地元の行政などが企画する各種パソコン講座の講師を務めている。

「1週間も空くと忘れてしまうわ」。年配の女性が,見たいウェブページを開くのに手間取る。「とりあえず,前回やったニュースの動画を見るところまでやってみましょうか」。井上さんは12人の“生 徒”に呼びかけながら,一向に画面が変化を見せず戸惑う男性のパソコンを覗き込んだ。「線つながってないやん」。男性が肩をすくめると同時に,教室を笑いが包んだ。ただ,口元こそ緩めた生徒たちだが,前かがみになってパソコンの画面を食い入るように眺める姿は変えない。和気あいあいとした中にも,生徒たちのパソコンとの格闘は続く。全員が60歳以上。井上さんの講座に参加するまでは,今以上にパソコンは遠い存在だった。

各地で開くパソコン講座の受講生は延べ500人にのぼる
各地で開くパソコン講座の受講生は延べ500人にのぼる

「京都府警のページを開いてください」。この日の講座は少し特別だ。詐欺などインターネット犯罪の情報をひと通りチェックする。「インターネットが絡んだ犯罪は,京都だけでも最近こんなに多いんです。みなさんは,ネットをたまに見るだけですが,十分な注意を常に払ってください」。井上さんの声に生徒の耳が傾く。全員で,ウイルスチェックのフリーソフトをダウンロードした。対策は施した。次のメニューは,待ちに待った「ショッピングサイトを開いてみよう」だ。生徒たちは,Enter キーを勢いよくたたいた。

「みなさん家では本にならったりして,見よう見まねでインターネットを楽しめるとは思うんですが,“独学”ではどうしても限界がある。年配の方でも,安全に,純粋に,パソコンを楽しんでもらいたいんです」。約2時間の講座を終えた井上さんは,疲れを見せることもなく静かに語った。官公庁関係を中心に,障がい者施設や商工団体など数多くの講座の受講者は,延べ500人近くにのぼる。年代や職業,それに講座の内容も,インターネット関連のほか特定ソフトの活用法など多岐にわたるが,井上さんはそれぞれに応じたカリキュラムをつくり,生徒一人ひとりに丁寧に対応しながら要望に応えている。

一方,メインのプロバイダ事業も順調だ。このほど,エリアの全国拡大という,一つの目標を実現させた。ウェブサイト作成も,行政関係から政治家,ネットショッピングを含めた販売業者にまで順調に広がりを見せる。

卒業して10年になるのに先生たちとの交流が続いている。KCGは先生も学生も豊富な人材がそろっている。

KCGで得た知識が礎だ
KCGで得た知識が礎だ

十数年前。「まだパソコン教育が十分な時代ではなかった。これからはコンピュータが中心の社会になると思っていましたし,高校卒業後は詳しい勉強がしたかった」。井上さんは迷わずKCGの門をたたいた。

コンピュータは基礎からみっちり学んだ。多くの友人もでき「充実した毎日でした」と振り返る。さらに大きかったのは,公私ともに親身になってくれる先生の存在。「授業のレベルが高かったということは,社会に出てあらためて分かりました。卒業後,もう10年になろうというのに,先生たちとは,いまなおメールなどを通じて交流が続いているんですよ」と言う。社長として順調に業績を伸ばしている礎になっているとも言えそうだ。

KCGの後輩に対して「学生時代に人とのつながりを多くつくっておいてほしい。KCGは先生も,学生も,豊富な人材がそろっています」と井上さん。「先生方がコンピュータ関連業界の最新情報を常に伝えてくれる。同じ目標を持つ仲間たちと手を取り合うなどして,自分ならではの,自分がしたい発信ができるように頑張ってもらいたい」とエールを送る。そして「経験を語るくらいなら,いくらでも学校に出向きますよ。お世話になった学校。協力は惜しみません」と約束してくれた。

講座に応じたカリキュラムをつくり,丁寧な指導を続ける
講座に応じたカリキュラムをつくり,丁寧な指導を続ける

バルーンネット社は2008年,香川県高松市に初めての事業所を税理士と共同で開設し,当地のIT関連産業振興のためのコンサルティング事業を始めた。さらに,地元城陽市など地域企業のウェブサイトにつなぐ検索サイト作成の関連会社を最近設立し,会長に就いた。順調な歩みを続けるバルーンネット社と井上さん。忙しいあまり,自ら代表を務める鉄道旅行・写真などの全国規模のサークル「KTT」には,なかなか顔を出せないが,妻と3歳の長男のエールを受けながら飛躍を期する。