プログラミング言語Rubyの開発者まつもとゆきひろ氏(Rubyアソシエーション理事長)による講演会「コードの未来」が2013年10月25日,KCG京都駅前校大ホールで開かれた。まつもと氏はRuby開発に至った経緯を紹介したほか,ITのトレンド・未来について言及。訪れた一般の方々や学生たちにとって,これからITがいっそう進化する中,どのような姿勢で臨んでいくべきかを考えさせられる内容だった。
Rubyの開発は1993年から始めたという。まつもと氏は「バブルが崩壊し,ソフトウェア会社に勤めていた私は,手掛けていたプロジェクトがキャンセルとなってしまい,たっぷり時間ができました。野望とか夢とかそのようなものは全くなく,暇だから言語を開発しようと思っただけです」と吐露。オープンソース化し,世界中の人たちと議論しながら開発を進めることにした背景を説明した上で「一般公開したのは1995年。インターネットの普及で『ウェブサイトを作りたい』と思う一般の人が現れ始めたころと時期的に重なり,その時点で十分に完成された言語が既に存在しているという点で評価を受けました」と話した。開発にあたっては「速度や機能の競争は無意味」と割り切り,「気持ちよさを追求する存在にしようと,他の言語との真っ向勝負は避けました」と付け加えた。
ITの足取りについては,ムーアの法則(1965年にIntel社の創設者の一人であるGordon Moore博士が経験則として提唱した「半導体の集積密度は18〜24ヵ月で倍増する」という法則)のとおり,コンピュータが超高性能・超低価格・超大量化,ネットワークが超高速化したと説明。「現在の『京(けい)』のようなスーパーコンピュータが,30年後にはポケットに入るようになっているかもしれません」との例えを示し,今後もその流れは続くだろうとしながらも「技術の予測はある程度可能ですが,社会環境はどう変化するのか分かりません」と指摘した。そのような中で,ITの世界を歩んでいこうとするためのキーワードとして▽リスクを下げる(撤退は素早く)▽過程を楽しむ(結果を追い求めるだけでなく,衝動に従ってエンジョイする)▽鶏口牛後(突出した分野を持ち,信頼される人間になる)―を挙げた。
さらには「社会を変える力はテクノロジー・ITであることに間違いはありません。将来的にはすべての産業がIT産業となるでしょう」と述べ,「情報を学んでいる皆さんの出番は増えるばかりです。ただ,コンピュータ自体は,問題解決できない。それを役立つ方向に持っていくのは人間です。思い込みを打破し,何が真実なのかを常に追究する視点を持ちながら,ITのプロを目指してほしい」と呼びかけた。