観光産業の世界的市場規模は自動車産業をはるかに上回るものとなっている。その中で日本の観光産業は,残念ながら諸外国と比べて大きく遅れており,我が国の今後の経済発展における重要課題となっている。これからの観光産業には緻密な市場分析と,確実かつ効率的なオペレーションが成功のカギとなる。そのためには高度な情報技術(IT)と柔軟性のあるビジネス感覚を具備したプロフェッショナルの活躍が不可欠だ。
近年,政府の観光振興策などの影響で,海外からの訪日観光客が急増,2015年は過去最高の1973万7千人にのぼった(日本政府観光局調べ)。特に本学のキャンパスがある京都をはじめ,東京,札幌などは,いずれも観光客からの人気が高く,特に観光サービスに対するニーズや課題を身近に感じられる環境にある。
そのメリットを活かし,京都情報大学院大学(KCGI)は次世代産業コースに観光ITのカリキュラムを組み,主として留学生を対象に,ICTを応用した新しい観光サービスや観光ビジネスモデルについて学ぶプログラムを開始した。多言語・マルチメディアでの観光情報の提供,観光客の行動履歴の情報化と分析・予測など,現実的な課題解決に取り組み,ITを駆使した観光ビジネスの企画,システム開発,ビッグデータ活用などのエンジニアを育成する。
観光といっても旅行,ホテルなどいくつかのジャンルはある中,私の専門は「観光情報」。最近では観光情報のIT化が進み,ウェブやSNSといったツールを使った観光情報伝達が主流を占めています。それらに掲載される,もとになる情報は取材して文章化しなければならない,マンパワーによるアナログ的な部分があります。私は旅行情報誌「MAPPLE」を発刊する株式会社 昭文社の編集委員として取材,執筆活動を長年続けていますので,それらの経験を踏まえて学生たちに観光情報の在り方,作り方,発信の仕方などを指導していきます。
日本が観光立国を宣言して以来,外国人旅行客は増え続け,爆買いといった社会現象まで現れました。ただ,受け入れる日本側に戸惑いがあるのも事実です。「観光」なのにショッピングの誘客一辺倒に走ってしまい,観光客が本当に求めているものを見失ってしまった。これは観光産業における人材の圧倒的な不足が招いた結果でもあります。
以前,日本で観光は「遊び」「余暇」の範ちゅうに過ぎず,学問として確立はされていませんでした。一方,欧米では「ツーリズム」「ホスピタリティー」など学術研究が長く続けられています。これから日本でも,観光ビジネスを「勘」や「経験値」だけで推し進めるのではなく,理論的な枠組みを築き,現象を解き明かしていかなければならない時代となりました。京都情報大学院大学(KCGI)の講義を通じ,ITを活用して観光産業をけん引する人材の育成に努めていきます。
上記の肩書・経歴等はアキューム24号発刊当時のものです。