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Accumu Vol.11

KCGとRITの友好関係を築いて

京都コンピュータ学院 学院長室 留学担当 長谷川 晶

KCGとRITの友好関係を築いて

1980年代後半,経済大国日本のバブル景気が全国に充満し,学生は勉学に努力するよりも,レジャーランド化された大学で怠惰に過ごすのに満足していた。このような軽薄なムードを背景に,いわゆる「アメリカ大学日本校」が流行・乱立しはじめたのである。基本的には,2年間日本の学校で勉強し,残りの2年間をアメリカの大学で仕上げるというのが,当初の意図であったのだろうが,語学力をつける努力もしない学生を対象に,ついには,「アメリカに行かなくても,アメリカの大学の卒業証書をもらえる」という学生募集の宣伝文が横行するまでになった。それでも1校で1000名を超える応募があったという。

これらのアメリカ大学日本校は,日本の法制下では教育機関として認められず,会社組織で行われていた。またこういう形で日本の学校と提携するアメリカの大学は,ほとんどアメリカの学生に見放された潰れかけた大学であった。

KCGとRITの友好関係を築いて

早くからアメリカに留学し,アメリカの学生生活の体験を通して成長してきた私は,留学体験の持つ意義を深く認めていたので,この「にせもの」教育の「アメリカ大学日本校」の現状を非常に苦々しく,また恥ずかしく思っていた。ある時期日本へ帰国していた頃,アメリカの友人から「これ君のところの学校か?」と言ってアメリカの雑誌が送られて来た。そのタイトルは,「日本人のアメリカ大学ショッピング」となっており,京都の専門学校が潰れかけたアメリカの大学のショッピングをしているといういきさつが,1ページにわたって書かれていた。友人はその学校をKCGと誤解したらしい。当時,日本企業と日本人は,アメリカの企業,土地,ビルを買い漁り,アメリカ人のひんしゅくを買っていた。「大学ショッピング」を日本の浅ましい姿の極限のように取りあげたその記事は,アメリカ人の怒りと日本人に対する嘲笑に満ちていた。

教育・勉学の本質から完全に逸脱した,まるでアクセサリーとしてのアメリカ大学の卒業証書取得の状況は,日本国内でもだんだんと社会問題化し,マスコミの批判の的になった。当然のことながら,その中のわずか数校のまじめな日本校を残して,ほとんどは,日本経済バブル崩壊と並行して消えていったのである。

KCGとRITの友好関係を築いて

私は,ロチェスター工科大学(RIT)在学中に,数々の学部長,学科長,教授と友好関係にあったので,それら先生方との個人的な付き合いの中でKCGとRITの提携を考えていたが,これらの「アメリカ大学日本校」の例と同じように見られたくなかったので,KCG学院長と相談して,大学院レベルの提携からスタートしようと考えた。

それに先だって,1990年代前半,KCG内に芸術・マルチメディア系の学科を新設する必要があったため,RITの先生方の協力のもと,新学科設立に至ったことは年表の通りである。

KCGとRITの友好関係を築いて

「KCG at RIT」と言われる夏期短期留学中に,マッケンジー副学長が,毎夏,KCGの学生一同を自宅に招きホームパーティを開いてくれるなど,RIT側は,常にKCG学生を暖かく迎えてくれた。

そして,RITマッケンジー副学長をはじめとする先生方の好意の延長上に,日本全国初の,RIT大学院とKCG間のベンチャープログラムが生まれたのである(年表参照)。このRIT・KCGベンチャープログラムは,ウルフ学部長のメッセージにあるように,「KCG内でRITによく似た科目が行われるのではなく,RITの科目そのものが行われているという点がスペシャルであり,RITで成功するために必要な知識を持って,RITに留学することが保証されている」のである。

KCGとRITの友好関係を築いて

現在十数名のKCG出身者が,RIT大学院のIT学科,コンピュータ・サイエンス(CS)学科,ソフトウェア開発・管理(SDM)学科で勉強しており,また,ほぼ同数のRIT大学院進学組がKCG内で学んでいる。

RIT大学院でこれらの修士を取得すると,バイリンガルの専門家ということで,日本とアメリカの企業から多数の求人の依頼があり,卒業生達は,シスコシステムズ(株)などの優良企業に次々と就職している。

KCGとRITの友好関係を築いて

さて,日本はバブル崩壊後,不況のどん底にあるが,まじめに生きることを考える若い人達が増えてきた。大学崩壊時代を迎え,「本物」の教育を求めて,教育改革の波が到来しはじめた。専門学校教育法令も見直され,大学への編入も認められるようになった。一方,アメリカでは州の法律が厳しく,アメリカの有名大学への学部編入には,さまざまな問題が横たわっている。しかし,日本での専門学校から大学への編入制度ができたことや,そしてなによりも,RITとKCG大学院提携プログラムの信頼性が高まってきたことにより,学部編入の討論を始めてから4年を経て,今回ようやくKCGでRITのIT・CS学科の学部編入留学コースがスタートする。

私は当初から,KCGのチーフとして,交渉に当ってきたが,RIT先生方の好意の上に,これらの提携は築かれてきたものであり,感謝に耐えない。我々KCG側としては,これらの先生方の信頼を裏切ることなく,より一層の両校の発展へと努力していきたいと思う。


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  • 京都コンピュータ学院 学院長室 留学担当

上記の肩書・経歴等はアキューム11号発刊当時のものです。