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Accumu Vol.1

ショートストーリー Tに捧げるサーモンピンク

由起 邦人

「うちは,普通の商売人の娘や―――――。お客さんに1個1円の儲けの品物買うてもろて,へえおおきにゆうて ―――――,お客はんに買うてもらえへんかったら,どないして歳越そうとか,お正月が明けたら今年もよろしゅうゆうて,問屋さん回って仕入に忙しゅうしたり,なんか,やっぱりあんたはんとは全然違う仕事やと思うねん。」

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「―――――それに,うちもあんたと長い間つきおうて,一緒の学校行って,コンピュータとかプログラムとか好きになろうと思うて,うちなりに努力はしたつもりやけど,やっぱり両親の影響どっかで受けてて,嫌いゆう程やないけど,なんか,やっぱり馴染めへんのん ―――――。」

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「プログラマーてゆう仕事は残業ばっかりで,夜も昼も無いやろう―――――。うちとこみたいな町のお豆腐屋と違うて,なんか,全然別やと思うのん―――――。生活の感覚が。」

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「それに,うちはあんたみたいに,なんぼ仕事でも東京に行ってみたり,外国へ行ってみたりはでけへん。仕事やししょうことないてゆうことと違うて,そんなことは別にして,うちは京都ゆうよう知ってる町にしか,よういん人間や―――――。」

「あれ何年前になるんやろう,2回生の春に,あんたプログラムが売れたさかいちょっとインド行って来るわゆうて,1ヶ月程行かはったやろう。旅費が足らんゆうて大事にしてた古い値打ちもんの本全部売ってしもうて・・・・・。」

「学校の授業あるのに,そんなこと全然関係なしに,うちが四条に買い物行ってくるわ,とか,北野の天神さん行くわ,とか,そんな感覚で何処へでも,どんな期間でも,行かはるやろう。うちやら,うちの家族やらと,ちょっと違うねん―――――。」

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「そうやなあ,1回生の時うちらの勉強した経済学でゆうたら,ミクロ経済学とマクロ経済学の違いみたいなもんやろうか。うちらは京都だけで生きてる人間やと思うねん,ミクロ経済学やと思うねん―――――。」

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「うん,1個1円の儲けはうちの家族にしか関係せえへんし―――――。プログラミングやってたら,1個のバグが日本中のオンラインに影響するんやろう―――――?」

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「そら,あんたもゆくゆくは京都に戻ってくるて言わはるけど,会社のほうはどうするのン? もうじきSEにならはるんやろう――――――? 優秀なプログラマーいっぱい部下に持って,日本じゅう飛び回って,プログラミングやらシステム設計とかして,いつ家に帰ってくるのか分からん人の奥さんなんて,うちは,ようせん。しょうに合わへん―――――。」

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「そら,そのつもりでいたけど―――――。もう,1年もたってしもうた―――――。」

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「残業やらでものすごう忙ししてはったんは,分かるんやけど―――――。」

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「週に1回ぐらいは,電話できはったんとちゃうやろうか―――――。」

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「うち,7ヶ月もあんたがどこでどうしてはるんか,知らんかったもん―――――。」

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「そのあとは半年くらい音沙汰無しで,急に京都の実家からやなんて,うちはどうしたらええのん―――――?」

「秋に,久しぶりに,東京から電話してくれはった時,あんた,彼氏できたかって聞かはったやろう。もう自分はうちの彼と違うみたいに―――――。あれ,お見合いしたつぎの週やったんや―――――。」

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「うん,てゆうより他になかった―――――。」

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「そんなん,まだわからへんけど,いまさら断れへん―――――。家の付き合いの事もあるし―――――。」

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「もう,1年以上もたってるんや―――――。あんたにとっては東京と京都みたいに短い時間かもしれん,そやけどうちにとっては東京と京都みたいに長い,1年やった―――――。」

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「長いことかかって,諦めたんやもん,あんたのこと―――――。」

「もう,戻れへん―――――。」

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「うちは,強情やし,捨てんといてゆうて,泣いて電話したり,出ていく人にしがみついたり,そんなこと,絶対でけへん―――――。あんたが遠いとこ行ってしもうて,帰って来やへんのやったら,諦めて次の展開に目を向けるしか,なかったんや―――――。」

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「おんなじ学校行って,コンピュータの勉強一緒にしたけど,根本的に生活の仕方が違うたんやと思う―――――。」

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「もう,無理やと思う―――――。」

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「そら,うちも,今でも,未練たらたらやけど―――――。」

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「うちは,あんたと,結婚したかったわ――――――。」

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「今は,―――――時間のほうが通り過ぎていってしもうたん―――――。」

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「ほんま言うたら,生きていく世界やら,家の都合とか,そんなんは後からくっつけた理由かもしれん―――――。ただ,長い間かけてだんだんとあんたの心とうちの心が,離れていっただけやとも,思う―――――。」

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「去る者日々に疎し,で,手の届くところにいはらへんかったら,熱はだんだんと冷めていくんとちゃうやろか―――――。」

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「それに,あんたが就職して,うちが家の仕事手伝い始めた頃にしても,あの時の電話にしても,なんか,微妙なことで大きな行き違いがあったやろう? そんなんが,色々と,ひとつひとつ重なっていったんと,ちゃうやろうか――――。」

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「それから―――――。」

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「あんたの影響て,ものすごう強いけど―――――。」

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「一番楽しい時にずっと,一緒やったやん―――――。17から21まで―――――。」

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「あんたと,付き合うてた時,あんたはよういろんなとこへ連れていってくれた―――――。姫路城や,天橋立やら,遠いところへよう行ったねえ――――。うち,ほんまにたのしかったわ――――。ほんまに―――――――。」

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「楽しかった―――――。」

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「長いこと,付き合うてたなあ―――――――。」

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「5回の夏があって―――――。」

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「5回の冬――――――,すごいな。」

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「なんか,別れ話て,嫌やな―――――。」

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「なんか,食い違うてしもて,―――――もう遅かったん―――――。」

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「そんなん,新しいひとが出来たら,その彼女の温もりに染まって,すぐ忘れるて―――――。」

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「うちかて――――――,うちは,あんたの重さよう憶えてる――――。あんた,ものすごう重かったもん。その重さが大好きやったけど―――――,忘れなあかんのや―――――。」

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「――――――――――」

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「今日はお月はんが,きれいわ――――――。」

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「そこからも,見えてんのん?」

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「2階のとこか?」

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「――――――――――」

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「へえ,K君もがんばってはんのやなあ――――。」

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「一緒に行って,あとは?」

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「あんたに,似合てるわ――――。優秀な人何人か連れて,新しいとこ行って,また違う仕事して―――――。」

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「そう―――――。2年や3年日本にいんかっても,あんたやったら大丈夫やろうし――――――。」

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「その後も,がんばってな。」

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「あんた今まで,本気でがんばらはった事ないやろう―――――。何時も9割程度で――――――。」

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「うん。」

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「うちもやで。うちも,あんたに,情熱のあるだけを注いでた――――。」

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「そやけど,そんな,うちだけにしか分からへん事と違うて,客観的なもんとして,他人から見てすごいなあと思えるようなことで―――――。せっかくSEにもなれそうなんやし―――――。」

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「がんばってな。―――――ほんまに,がんばってな――――――。」

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「―――――」

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「5年間あんたと付き合えて,良かったと思う――――――。」

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「付き合えて,良かったな。」

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「終わったんやな―――――――。」

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「ほんまに,今まで未練たらたらやけど,―――――,あんたの言うように,生き方が違うたんやとゆう結論で,次の展開を待たなあかんのやと思う―――――。」

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「忘れる努力を,するわ――――――。」

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「最期の?」

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「―――――――」

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「―――――した―――――。」

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「音が出えへん――――――。」

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「そんなに―――――,何遍も,出来へん――――――。」

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「―――――――」

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「うん?」

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「バイバイ――――――――――。」

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「バイッ――――――。」

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由起 邦人
Kunihito Yuki
  • フリープログラマ
  • 現在東京に在住する
  • 詩人・作家

上記の肩書・経歴等はアキューム1号発刊当時のものです。