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Accumu Vol.25

京都医療センター見学記

KCGと提携「京都医療センター」 ICTを駆使した最先端の医療機関
北岡先生(KCGで教鞭)が情報部門のリーダー

KCGグループと産学連携協定を結んだ独立行政法人 国立病院機構 京都医療センターは,ICT(情報通信技術)を駆使した日本を代表する最先端の医療機関だ。電子カルテをベースにして医療情報の共有化を図り,地域住民にいつでも,どこでも安心で安全な質の高い医療・福祉サービスを提供できるよう先進的な取り組みを進めている。その先頭に立つのは,京都コンピュータ学院 応用情報学科 医療情報コースと,医療事務学科で教鞭を執る同センター医師で医療情報部長の北岡有喜先生だ。北岡先生は「どこカル.ネット」や「ポケットカルテ」といった独自の医療情報システムを開発し,院内ネットワークを構築するとともに,地域医療機関との連携体制を整えた。情報化された最先端の医療機器がそろう同センターを見学する機会をいただいた。
(アキューム編集部)

京都医療センターの前身は陸軍向け病院。1908年(明治41年),京都衛戎病院として設立し,1937年(昭和12年)には京都陸軍病院に改称,戦後の1945年には国立京都病院として厚生省に移管された。大学をはじめとする国立機関の独立行政法人化への移行に伴い,現在の京都医療センターと改称されたのは2004年(平成16年)。現在は39診療科を持つ高度総合医療施設として,京都・伏見の地で医療活動を展開している。

国から内分泌・代謝疾患の高度専門医療施設(準ナショナルセンター),成育医療の基幹医療施設,がん・循環器・感覚器・腎疾患の専門医療施設に指定されていて,エイズ診療,国際医療協力の機能も付与されている。また京都府から三次救急医療施設の指定を受けている3施設のうちの1つであり,さらに2007年(平成19年)1月には地域がん診療連携拠点病院に指定された。高度先進医療を実施していくとともに,その基礎となる臨床研究の実施,質の高い医療を提供できる医療従事者の育成,与えられた政策医療分野に関する情報の発信などを進める一方,地域の診療所・病院との連携を強化している。

京都医療センターに入ると1階の受付カウンター横に,地域医療診察券受付コーナーがある。そこに備え付けられているのが「ポケットカルテ」の端末だ。「ポケットカルテ」は,「どこかる.ネット」が運用する,患者ならだれでも会員になれる電子カルテサービス。スマートフォンやパソコンで簡単に会員登録ができ,会員一人ひとりの健康情報を電子化(電子カルテ化)して一元に管理,簡単に閲覧可能とすることで,さらなる医療サービスの向上と,個人の健康管理への貢献を果たした。これらはすべてNPO法人日本サスティナブル・コミュニティ・センターのメンバーでもある北岡先生が中心となって開発,地域診療券「すこやか安心カード」とともに2015年3月,総務省の「地域創生に資する『地域情報化大賞』」の大賞に当たる総務大臣賞を受賞している。同省は「医療機関毎に管理されている住民の医療履歴を自ら時系列に集約管理できる仕組みづくりと,医療機関数の減少や負担増という地域課題に対処するため,地域共通診察券発行や健康医療福祉履歴管理・医療圏リソース管理を統合的に提供。その結果,『ポケットカルテ』の登録者数が大幅に拡大する等,地域の医療資源を一つの仮想巨大医療機関とみなして有効活用し,安心・安全な地域医療提供体制の確立に寄与した」と評価している。

ポケットカルテ
  1. 京都医療センター1階の受付カウンター横「地域医療診察券受付コーナー」に備え付けられている「ポケットカルテ」の端末
  2. ポケットカルテのアプリを入れると,スマートフォンに個人のさまざまな医療情報が登録される

これらを導入する目的は,地域住民の医療履歴は個々の医療機関ごとに,地域の医療資源は個々の医療機関ごとにそれぞれ個別管理されている,という現状を解決することにあった。地域の医療資源を有効利活用するために①地域住民が自らの健康・医療・福祉履歴を自ら時系列に集約管理できる仕組みをつくる②地域の医療資源の利用状況を統一的に情報管理し,有効に利活用するための情報基盤を整備する-をいずれも実現。「ポケットカルテ」は2008年10月から全国の地域住民向けにサービスを本番公開し,2016年10月末時点で登録者数約4万5千人,対応医療機関は18病院・34診療所・602調剤薬局に拡大している。

リストバンド
入院患者だけでなく,外来患者もリストバンドを着用。訪れる診療科や検査などでリストバンドをかざしてエントリーすることによって,来院時刻の把握や待ち時間の短縮につなげている。

京都医療センターでは,電子カルテのほかにもさまざまな医療情報システムを駆使し,医療サービスの向上を図っている。入院患者にバーコード付きリストバンドを用いて投薬などの情報を管理する医療機関は近年多くみられるが,同センターでは外来患者もリストバンドを着用。患者が訪れる診療科や検査などでリストバンドをかざしてエントリーすることによって,来院時刻の把握や待ち時間の短縮につなげている。

がん診療に力を入れる同センターには,診療,検査機器も最新鋭のものが揃う。がんの早期発見につなげようと2014年7月にPET–CT装置を導入。PET(Positron Emission Tomography)とは,ポジトロン(陽電子)という放射線を出す「薬:FDG」を注射し,その薬の体内分布を画像化する検査法だ。このFDGとは,フルオロデオキシグルコースというグルコース(ブドウ糖)に似た薬。がん細胞は,正常な細胞に比べて活動が活発なため,3~8倍のブドウ糖を取り込むという特徴がある。この性質を利用し,がん細胞を画像上,黒く表示させる。また同時にCT画像を撮影し,PET画像と重ね合わせることにより病変の位置がより分かりやすくなるという仕組み。

PET-CT
がんを早期発見するPET-CT。全身を検索する最新装置だ
PET-CT
  1. アイソトープ検査は放射性同位元素で目印をつけた微量の放射性医薬品を静脈注射または経口投与して行う
  2. PET-CTの画像を処理するための最新機器が並ぶ
がん放射線治療のリニアック装置
がん放射線治療のリニアック装置。精度向上により効果が高く,副作用が少ない治療が可能になった

MR検査は,身体の各組織に分布している水素の原子核がもっている磁気の共鳴現象を利用。高い磁場環境におかれた人体に,水素原子核が共鳴する電磁波をあて,その後に人体から出てくる電磁波を検出器で捕らえ,コンピュータで計算し画像を作る。CT画像とよく似ているが,原理が全く違うため得られる画像は似て非なるものだ。MRは脳や脊椎の病変の診断に優れている。検査は,大きな筒の中に入って,10~15分間で終わる。同センターでは2台が稼働している。

血管造影検査とは一般的にカテーテル検査などともいわれる。通常のX線透視や撮影では血管を描出することが困難なため,X線に写る造影剤という薬剤を用いる。まず,手首や肘,足の付け根などからカテーテルと呼ばれる細い管を血管に挿入し,目的とする血管まで進めてカテーテルより造影剤を注入。それにより,目的の血管を描出することができる。血管造影検査では,このように血管を描出するだけではなく,血管が狭くなり血液の流れが悪くなった部位を,先端に風船(バルーン)が装備された特殊なカテーテルを用いて,その風船を膨らませ,血管を拡げる治療(経皮的冠動脈形成術:PCI,経皮的肺動脈形成術:BPAと経皮的血管形成術:PTA)や消化管出血や外傷による腹腔内出血などの止血(血管塞栓術)をする治療も行う。さらに,くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤に対して,コイルと呼ばれるプラチナ製の糸状の金属を用いて動脈瘤を詰める治療(コイル塞栓術)や,癌細胞へ流れる血液(動脈)を塞ぐことにより,癌細胞を兵糧攻めにして死滅させる治療(動脈塞栓術)など,当院ではカテーテルを用いた血管内治療は数多く施されている。2014年9月に2台の血管撮影装置が更新され,心臓領域用としてPHILIPS社製 Allura Xper FD10/10 ,頭部,腹部,大血管領域として同社製 Allura Xper FD20/20が導入された。この装置には検出器(X線を可視化する部分)にFPD(フラットパネルディテクタ)が搭載されている。その最大の特徴は,高画質を得ること。FPDを2器搭載(バイプレーン)しており,同時に2方向からの透視,撮影が可能で,検査時間短縮,使用造影剤の減量にも貢献できる。さらに,PHILIPSの被ばく低減アルゴリズム(AlluraClarity)が搭載されているため,従来に比べて大幅な被ばく低減が実現できるようになり,より安全安心にカテーテル検査や血管内治療ができるようになった。

最新のX線撮影装置
最新のX線撮影装置。高速デジタル,パノラマ撮影が可能

アイソトープ検査とは放射性同位元素を含む薬品(微量のガンマ線を放出する)を注射または錠剤タイプのものを飲むことにより,特定の臓器又は組織に取り込まれた薬品をガンマカメラ(SPECT装置)という装置で捕らえ,コンピュータ処理をすることにより画像を作成。目的に応じてさまざまだが,この放射性同位元素を含んだ薬品は,検査の骨,脳,甲状腺,肺,心臓,肝臓,腎臓,などの状態(機能)を調べることができる。同センターは,2012年4月に新しいガンマカメラ(Infinia3 Hawkeye4 GE社製)を導入した。従来のガンマカメラにCT装置を組み合わせ一体型にしたものでSPECT-CT装置と呼ばれる。体内に取り込まれた放射性医薬品が身体の深部にある場合は,そのガンマ線が体内で吸収・減弱されることにより正確な情報としてガンマカメラで捕らえることができない場合がある。同一部位をCT撮影することにより,ガンマ線の吸収を補正することができ質の高い画像が提供できる。また,ガンマカメラの機能画像(SPECT画像)とCTの形態画像を重ね合わせて表示することもできるので,正常または異常部位の同定が容易になる。

放射線治療では,2008年3月末より米国バリアン社製CLINAC 21EX を導入し,精度の高い放射線治療を開始している。2008年度=355例,2009年度=342例,2010年度=402例と,2008年度~2010年度の3年間で計1099例の放射線治療(延べ新患数)を行っており,原疾患別の分類では,肺がん,乳がん,泌尿器科系がんの順で,多く紹介を受けている。同センターでは,毎日30~50人(平均35人)の照射を実施。開頭手術をしないで脳腫瘍の治療が可能な脳定位放射線手術(SRS,2008年10月開始)や肝腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(SRT,2009年8月開始)など高精度治療も行っている。患者が安心して放射線治療を受けてもらえるように,放射線治療品質管理部を設置し,安全性の高い品質管理の下に放射線治療を実施している。

診療体制としては,常勤医師1名(木曜日に非常勤1名),診療放射線技師(品質管理士含む)3名,看護師(がん放射線療法看護認定看護師1名含む)2名にて患者と共に病気に立ち向かっている。

また,がん治療に向けて同センターが導入しているのは手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ(da Vinci S surgical system)」だ。今日さまざまな領域の外科手術手技において,従来の開腹手術は内視鏡を用いる低侵襲手術へと変換されつつある。内視鏡を用いる低侵襲手術の利点は,より早い術後の回復および経口摂取,より短い入院期間,術後疼痛の軽減,美容上の美しさ,そして医療費用の削減などが挙げられる。「ダ・ヴィンチ」は米国で開発された。欧米を中心にすでに医療機器として認可され,1997年より臨床応用され,日本でも2009年11月に国内薬事承認(適応可能な各領域;一般消化器外科・胸部外科=心臓外科を除く・泌尿器科・婦人科)された。なお,使用するには関係学会のガイドラインに則った所定のトレーニングの受講が必要。2012年4月「前立腺癌に対するロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP; Robotics Assisted Laparoscopic Prostatectomy)」が保険適応になったことを受け,同センターでは2014年8月20日に京都府下で5施設目,京都市内では4施設目として第1例目のRALPが安全に確実に施行された。

手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ

「ダ・ヴィンチ」は,外科医が操作するsurgeon console,これと連動して手術操作を行うpatient console(ロボット部),腹腔内観察のための3Dカメラ,モニター,コンピュータ制御システムからなるvision cart の3つの部分から構成される。外科医はsurgeon consoleに座り,操作レバーを用いて3本のアームを持つロボット部を動かし手術を進行する。コンピュータ制御システムにより従来の内視鏡手術より複雑かつ細やかな手術操作が可能となり,加えて三次元画像から得られる正確な画像情報により安全かつ負担の少ない手術が行える。欧米においては,前立腺がんに対する根治的前立腺摘除術の90%以上が,ダ・ヴィンチサージカルシステムを用いたロボット支援手術で行われており,世界的には標準的な手術方法となりつつあるのだという。

手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ

臨床検査科や薬剤部など,いずれもIT化された最新機器が駆使され,効率の良い作業が続けられていた。また,同センター自慢のリハビリ部の充実ぶりは目を引く。「日本最大規模」(北岡先生)というフロアに身体機能を回復させるための各種機器が揃う。特に「心臓リハビリテーション」は運動療法により心電図や血圧などをチェック。冠危機因子の改善を目的とした食事指導や禁煙などの生活指導,服薬指導を医師,理学療法士,看護師,薬剤師,栄養管理士,臨床工学士がそれぞれの専門的な立場から指導する。心臓リハビリテーションは急性心筋梗塞,狭心症,心不全,大血管疾患,開胸術(冠動脈バイパス術,弁膜症)後,閉塞性動脈硬化症などの疾患を持つ患者が対象。▽心筋梗塞の再発や死亡率の減少(3年間で約25%の死亡率が低下)▽運動能力向上により楽に動けるようになる▽狭心症,心不全の症状が軽減▽動脈硬化の原因となる危険因子(高脂血症,糖尿病,肥満等)を是正▽血管が自分で広がる能力(血管内皮機能)や自律神経の働きがよくなるとともに血栓ができにくくなる▽不安,うつ状態が改善し快適な社会生活を送ることができる-などの効果が証明されているという。

京都医療センター
  1. 臨床検査科もすべてICTが支える
  2. 臨床検査の作業風景
  3. 薬剤部ではデータを入力すれば必要な薬を袋詰めする装置があり,業務の効率化につながっている
  4. 「日本最大規模」というリハビリ用のフロア
  5. 実際の生活環境に見立てた中で身体機能回復させる
  6. リハビリ部の身体機能を回復させるための各種機器

同センターには約600の病床があるが,2011年1月にオープンした新中央診療棟の特別室病棟は全室個室でクオリティの高い療養環境とサービスを提供する。30室はすべてデザインが違いまるでホテルの一室のようだ。病棟入り口はオートロックで,プライバシーやセキュリティ面に配慮。ゆったりとした廊下には絵画を配置され,ランドリーやティーサーバがある。また室内には大型テレビやミニキッチン,応接セット,シャワールーム,ウォッシュトイレが完備。専任のコンシェルジュが迎える。コンシェルジュは入院患者の買い物にも出掛けてくれる。

京都医療センター
  1. 特別室病棟の入り口。専任のコンシェルジュが迎える
  2. 特別室病棟のランドリー
  3. 特別室病棟の30室はすべてデザインが違いまるでホテルの一室のよう
  4. コンシェルジュが手厚いサービスを実施。入院患者の買い物にも出掛けてくれる
  5. クオリティの高い療養環境とサービスを提供する
京都医療センターサーバ室
医療情報部の部屋にはサーバなど情報機器関連がズラリと並び,地域住民の健康を支える病院の「心臓」として機能

これら同センターのIT部門を担当するのが医療情報部で,KCGで指導する北岡有喜先生が部長に就く。独立行政法人化する前の2003年7月,国立病院としては初めて設置が認可された。患者がより的確な医療が受けられるよう,最先端の医療情報システムや病院の枠を越えた地域医療連携基板など,同センターの診療用・研究用の情報基盤の開発,構築,運用,整備などを担当するほか,医師や看護師など専門職が業務に集中できる環境構築を,ICTソリューションなどシステムにより実現している。同部の部屋にはサーバなど情報機器関連がズラリと並び,地域住民の健康を支える病院の「心臓」として機能している。