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Accumu Vol.2

衛星による地球モニターシステム

東京大学教授 高木 幹雄

地球環境のグローバルな監視,海洋・大気などに見られる地球規模の現象の理解と予測,地球資源の管理などには,衛星による地球観測は不可欠である。衛星を用いた地球環境に関する学術的研究の例として,文部省科学研究費で進めている重点領域研究「衛星による地球環境の解明」について紹介する。

まえがき

最近,地球環境問題が大きくとり上げられ,熱帯林の乱伐,土壌浸食,砂漠化,大気中の炭酸ガスの増加による温室効果,酸性雨,オゾンホール,エルニーニョ現象による異常気象などなど,新聞紙上を賑わしている。人間活動は,大気,土壌,水,海洋が複雑に関連し合う地球システムに重大な影響を及ぼしている。グローバルな視点から地球環境を科学的に観察し,理解し,さらに予測する研究は,米国では地球システム科学の名の下に進められている。地球システム科学においては,長期にわたる地球のグローバルな継続的観測,グローバルな地球環境に関する情報システムの確立,地球の諸現象を予測する数値モデルの開発が不可欠である。

長期にわたる地球のグローバルな継続的観測の面で,宇宙からのリモートセンシングは,1960年に打ち上げられた気象衛星TIROS,72年に打ち上げられた地球資源技術衛星ERTS以来,地球環境に関して貴重な情報を提供してきたが,90年代に宇宙基地が実現すると,一段とグローバルな地球環境の観測が進められる。これらの展望については2.1で解説され,植生の監視については,2.2で紹介されるので,ここでは衛星を用いた地球環境に関する学術的研究の例として,文部省の科学研究費で進めている重点領域研究「衛星による地球環境の解明」について紹介したい。

重点領域研究「衛星による地球環境の解明」

筆者は昭和60年度から3年間特定研究「宇宙からのリモートセンシングデータの高次利用に関する研究」を組織し,マイクロ波,情報処理,海洋,大気,陸域の研究者が集まって,基礎研究から利用に至る研究が行われた。この研究を通じて,衛星による地球環境観測の重要性が認識され,90年代を目指して国際的に衛星観測が活発となるのに対応して,学術的研究を推進するために,大学で行うべき研究の方向を議論し,グローバルな地球環境の観測,情報システムおよび現象予測であるとの結論に達し,重点領域研究「衛星による地球環境の解明」を申請し,平成元年度より3年間の計画として発足した。

この研究は,宇宙からの地球観測情報を基に,種々の地球環境の観測技術を確立し,それらの変動の機構を解明するための基礎的研究を目指している。地球環境のグローバルな監視,海洋・大気の変動など地球規模の現象の理解とそれらの予測,地球資源の管理などは,今日,世界的レベルで関心が持たれている。地球の諸現象は,気圏,水圏,地圏の広い範囲にわたって生じており,現象把握には,広範囲の情報を短時間に収集し,同地域を繰り返し観測できる衛星による地球観測は不可欠であるが,わが国では学術的に取り組む姿勢が十分とはいえない。従来,衛星による地球科学研究の推進や地球環境の把握の面で,大学の研究者が本格的に取り組める体制がなかったが,この研究はそのような体制作りのための出発点を目指している。また,現時点で,重点的にこの課題に取り組まなければ,90年代に向けて,わが国は世界の中で地球環境計測において,欧米に比べて著しく遅れを取ることになる。

この研究では,ハードウェアとソフトウェアの両面から理学・工学分野の緊密な強力の下に整合性のある,かつ,特色のある効果的な研究を推進しようとしている。特定研究「宇宙からのリモートセンシングデータの高次利用に関する研究」によって,理学系研究者と工学系研究者との間の密接な協力関係が培われ,理工系が一体となった学術的水準の高い研究を行う素地ができた。研究の特徴は,新しい視点の学術的研究とそれを支援する共通基盤技術の研究を目指している点にある。

図1 人間活動を取り巻く地球環境

人間活動を取り巻く地球環境は図1のように表せる。その中で,従来行われていない境界領域の問題,基本的な問題をとり上げている。新しい視点として,独立した学問体系(気圏,水圏,地圏,生物圏)を結合させた衛星からの観測により,初めて可能となる新しい研究を目指している。例えば,気圏と水圏の境界領域(大気・海洋相互作用系のリモートセンシング),気圏と地圏の境界領域(蒸発散・降雨相互作用系のリモートセンシング),水圏と地圏の境界領域(水循環・土壌水分のリモートセンシング)などをとり上げ,グローバルな見地から衛星データの高次利用技術や手法開発を行う。

共通基盤技術として,観測の面では,今後の地球観測で気圏,水圏,地圏のいずれにも,重要な役割を果たすと期待されているが,わが国では十分な基盤研究の行われていないマイクロ波リモートセンシングをとり上げ,情報処理の面では,人工知能型画像処理,新しい情報システムなどの先端的高度情報処理技術の開発を行う。

以上のような考え方で,研究領域として,次の主要研究項目を選定している。

A:マイクロ波による地球環境計測のための基礎的研究

B:衛星による地球生物環境の変動解明――気圏・地圏との相互作用

C:陸域における水循環過程の解明

D:大気・海洋相互作用系のリモートセンシング

E:地球観測情報の高次処理に関する研究

図2 重点領域研究「衛星による地球環境の解明」の研究領域

その相互の関係は図2のごとくであり,連携して全体計画を組み立てている。

この研究により,衛星データを利用して,複雑に相互作用している境界領域の諸現象の機構の解明(大気・海洋相互作用,水循環における蒸発散・降雨,土壌水分・流出入相互作用など),広域および長期の変化と追跡(森林破壊と土壌流出,海流変化,砂漠化,エルニーニョ現象,正規化植生指様の追跡),地球環境の評価および予測(土地の生産性の評価),マイクロ波リモートセンシング技術の基礎の確立,地球環境情報の高度な情報処理技術の開発,などが可能となる。

主要研究項目の計画研究に,35件の公募研究を加え,平成元年度は,表1の研究班の構成となっている。全ての班が,必ずしも,グローバルな問題を扱っているわけではないが,衛星を利用した地球環境の研究において,どのようなテーマに取り組んでいるかが,おわかりいただけることと思う。また,横の連絡を良くするためにワーキンググループを設け,活発に活動を行っている。

(応用物理 第59巻 第4号(1990)より転載)

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高木 幹雄
Mikio Takagi
  • 工学博士
  • 東京大学生産技術研究所第3部教授
  • 現在機能エレクトロニクス研究センター長
  • 画像処理等の研究開発に従事する

上記の肩書・経歴等はアキューム2号発刊当時のものです。