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Accumu Vol.16

ゲーム業界の求める人材を育成するために

KCGゲーム開発教育の特色

KCGはこれまでに多数の人材をゲーム業界に送り出してきた有名なゲーム会社のほとんどにKCGの卒業生が在籍し多くの有名なゲームソフトの開発に何らかの形でKCGの卒業生が関わっているゲーム業界は大きく変化を遂げようとしておりその変化に即応しながら業界の求める人材を育成することがKCGの使命である今回ゲーム開発教育に携わっている教員のうち宇田先生小西先生前田先生の3人にKCGのゲーム開発教育の特色について語ってもらった

―ゲーム業界の現状をどうご覧になりますか

宇田 そうですね私が業界にいた頃と比べるとかなり大きな変化がみられますまず基本的な確認ですがゲーム業界には自社ブランド名でゲームをリリースする会社ばかりではなく他のゲーム会社からの仕事を請け負ってゲーム制作だけを行う会社も多いですそのような会社では任天堂のゲームを開発している部屋の隣でソニーのゲームを開発していたりするわけです逆にゲーム開発は行わずプロモーション販売だけを手がける会社もありますこのように一口にゲーム業界といっても多様です産業界全体で分社経営ということがよくいわれますがゲーム業界でも元々は一つの会社の販売部門と製作部門が分社化される例もみられますそれからケータイ用ゲームやネットゲームに特化した会社なども現れています通信ネットワーク業界など他からゲーム業界に参入する例が多いですね

前田 ゲーム開発のスタイルも変化していますハード機の高性能化にあわせてゲーム制作が大規模なプロジェクトとして実施されることが多くなりましたゲーム会社ではやはりヒット商品を出すことが大切でいかにして売れるゲームをつくるかに必死なようですね特に小規模な会社であればヒットが出ないと会社の命運にかかわりかねませんただ制作担当者はマニアックになる傾向がありますのでともするとゲームの面白さということにこだわりすぎて面白いアイデアが出ない状態になりがちですだからゲーム会社によっては制作担当者だけではなく社員全員でアイデアを出し採用された人にはボーナスを出すということもされているようです

宇田 確かにどの会社も必死になって面白いゲームを創ろうとしていますヒットを出さないと生き残れないという意味で厳しい世界だと思いますゲーム業界ではここ数年で淘汰された会社も多く業界全体で再編が進んでいます世間では不安定な業界だという見方がされることもありますが今の時代どの業種でも厳しい競争環境にありますからゲーム業界だけが不安定だとはいえないです会社が万が一倒れたとしてもよいクリエイターは別の企業で活躍できます

小西 技術さえ持っていれば大丈夫ですゲーム業界の動向ですが最近はネットワークゲームなどもありますが日本では現状あまり流行っていないですネットワークゲームではコンピュータと対戦するのではなく実際に人と戦うことになるわけです人と戦って負けるのがいやで負けたらもうやりたくないという人が多いのではないかと思います欧米とは異なる文化みたいですねこれに対しては個人同士の対戦ということを打ち出すのではなくチームを組んで戦うということを強調して「共闘」「共有」をキーワードとしてはどうかという考え方もありますこうしたことも含めてゲーム業界では今後に対して危機感を持ちながら模索をしていると思いますねそしてゲーム業界では優秀な人材を常に欲しているといえます人材不足の状況に変わりはないですね

―ゲーム業界では現在どのような人材が求められていますか

小西 高い技術が求められていることに変わりはありませんしかも広範囲な知識が求められている業界で求められている人材となるためには(1)いろんなことを知っている(2)特化して一部を深く知っているどちらかが必要ですただだからといって20歳そこそこの若い人が高い技術を持っていないのが普通ですから当然ゲーム会社では潜在的な能力を見ることになりますそれでも全般的にいえばゲーム業界では即戦力即現場という考え方が強いですから技術は深く広く有しているに越したことはないです

宇田 それから最近の傾向としては企画力が求められますねさきほど前田先生がゲームのアイデアを出すことの難しさについておっしゃっていましたがやはり新しいゲームを企画できる能力を持った人材が求められていますねゲームプランナーだけでなくプログラマデザイナーでも企画力は求められています

前田 そうですねお二人の言われたとおりですねそれに加えてこれはゲーム業界に限った話ではありませんがどの業種でもコミュニケーション能力が求められていますゲーム制作の現場でもチームで制作を行うわけですから他のメンバーとコミュニケーションがしっかりとれないとまずいわけです実際ゲーム会社の採用試験ではプレゼンテーションの試験が増えています作品をつくるだけではなく魅力を伝える能力まで必要とされているわけです

―深くて広い技術力企画力コミュニケーション能力様々な要素が必要とされるのですねさてこの辺りで京都コンピュータ学院のゲーム開発系カリキュラムの特色についてお話を伺いたいと思いますまずはどういった人材を育成したいとお考えですか

小西 1997年にゲーム開発科を立ち上げたときはゲームプログラマの養成を主眼としていましたその後業界からも教員を迎えたりしながら業界の状況を分析しゲーム業界では優秀なゲームプランナーが必要とされていることがわかりましたゲーム業界には様々な職種が混在しており明確な職種の区分があるわけでは必ずしもありませんただ一般的な分類でいえばゲーム制作はまずゲームプロデューサーといわれるような人がいますこの人はどんなゲームを作りたいかという方向性を示し実際にゲーム制作に必要となる資金などの調達を行ったりする役割ですプロデューサーが示した方向性に基づいて実際にゲームの企画を立案するのがゲームプランナーですゲーム制作はプロジェクトチームを組んで何人ものプログラマやデザイナーなどが関わって行われるわけですゲームプランナーはそうしたチーム内外の調整役も務めますゲームプランナーには企画力と調整力が求められます私たちはゲーム業界のニーズを常に見据えながらカリキュラムを作成しているわけですがその意味で今後はプログラミング教育は基本としながらさらにプランナーに求められる資質を有する人材も育成していきたいと思います

宇田 私は大阪のゲーム会社などでゲームプランナーを務めていましたがプランナーに求められるのは技術というよりはセンスですプログラミングは教員や書物などから教えられながらスキルを身につけていくことが可能ですしかしプランナー的なセンスというのはどうしても実地訓練のなかで身につけていく必要があると思います

小西 プランナーはアイデアを考えることが必要になるわけですがその能力やセンスというのは理系文系は問いませんね実際にプログラマが細かいものをつくる際には理系的なセンスが求められる部分がありますが企画の部分では理系文系の違いは問題となりませんただプランナーを目指すにしてもプログラミングのスキルはなければならないと思いますゲーム開発とは突き詰めていえばプログラミングの力で不可能を可能とし夢を具現化することですからゲーム開発の基本であり根幹でもあるプログラミングをおろそかにはできません

―企画力の養成が大きな課題となると思いますが具体的にはどのような授業を通じて養成するのでしょうか

前田 例えば私が担当している「ゲーム設計」などは企画力の養成そのものを目的としていますこれは実際にゲームの企画書を制作する授業です学生に卒業生の優秀な作品を見せたりしながらよい企画書がどのようなものか学ばせ先輩方にできることが君たちにできないはずはないと励ましたりしますアイデアを出す段階では基本的には自由に発想させますが市販されているゲーム機を前提にしてアイデアを出させてみたりもしていますそして書きあげた企画書をクラスでプレゼンしてその意図や魅力を伝え第三者からの評価を受けるためにほかの人から感想や意見を言ってもらいますそして最終的には企画書をゲーム会社に持ち込み業界で活躍している現役のクリエイターの方々に見ていただいて添削をしてもらいますこれは学生にとってよい刺激になるようですこうした授業を通じて企画を実践的に学べるようにしていますKCGの場合は多くの卒業生がゲーム業界で活躍していますのでその伝統と実績に基づいたノウハウの蓄積の結果こうした授業が可能なのです

宇田 私が担当している授業では極力自分のプランナーとしての実体験を話すようにしています雑談風に授業のなかに織り交ぜて話します授業のなかでの雑談というのは意外と学生にとって記憶に残るものです実体験だけではなく学生誰もが知っているような有名ゲームソフトの現場の人の話を聞いたりしていますのでそうした話を聞かせることでゲームクリエイターの姿勢を伝えようとしています こうした話は裏話的なものも多いので私の授業を受けないと聞けません(笑)

小西 大抵の学生は入学当初はゲームで遊ぶことが楽しくて漠然とゲームにかかわりたいと思っています遊ぶ側で捉えていたゲームというものをプロフェッショナルとしての視点で捉えるようにできるようにしたいと思います具体的にはゲームとは何なのかという根本を学生には意識してもらいますゲームの面白さとは一体どのようなものなのか常に考えさせています例えばホラーものなどは人に恐怖を与えながら最終的にはそれをエンターテインメントにするわけですが恐怖を与えっぱなしだと忌避されますどこかでホッとする場面を作ることでエンターテインメントとして成立するわけですそういう面白さの本質に立ちかえって話をするようにしています

ゲーム開発の流れ・企画書と仕様書の違い

―企画力のほかに調整力が求められるというお話でしたがその養成に関してはカリキュラム上どのような工夫をされていますか

宇田 実践を通じての養成を目指していますゲーム制作は①企画②設計③開発④レビューという段階を踏んで行われるわけですがKCGのゲーム関連学科ではいずれの学科でも自分のゲーム作品をひとつ完成させることを目標にカリキュラムを構成していますゲーム制作の全過程を体験することで初めて見えてくるものや身につくものがあります調整力というのもその一つだと思います

前田 実際に作品を作成する過程では学生は様々な問題を解決していかなければなりません実際のゲーム業界の現場では納期が設定され納期までの完成を目指してスケジュールを組んで制作するわけです納期にあわせるために様々な調整が必要になるわけです学生にとっては授業の課題の提出期限がこの納期に近いものとなります提出期限に間に合わせるために学生なりに様々な調整を行うわけですわからないことが発生すれば先生に質問するとか友人にアドバイスをもらうとか考えながら課題制作を行うわけですそうしながら卒業までに自分の作品を完成させゲーム制作の開発工程を学べるようになっていますプレゼンテーションの技法といった営業的な側面までカリキュラムではカバーしていますのでかなり実務に直結した学習ができるようになっています

宇田 そうですねゲーム制作を通じて実はプロジェクトマネジメントについても学んでいるわけです実際に作品を制作することでマネジメントを実践的に学べます

小西 KCGのゲーム開発系学科のカリキュラムは段階的な学習で最後の作品制作まで至れるように各授業が有機的に連関していますなかなかこうした有機的なカリキュラムを構築し実践することは難しいことです最終学年で学習の総まとめとしてそれまでに学習した知識や技術を総合する形でゲーム作品を作成します大学などでもゲーム関連の学科を最近ではよく見かけますが教員にゲーム開発全般の知識や経験がない場合が多いようです

前田 ゲーム作品の完成を目標にカリキュラムを構成するのは意外と難しいことです特に科目と科目の連関がきちんととれていることが重要です教員が自分の担当科目のことだけを考えて他の教員の担当する科目は関係ないという意識でいると成立しません私たちの場合は教員同士で頻繁にディスカッションしミーティングをしますその過程を通じて科目間の連関を確認しカリキュラム全体が有機的なものとなるように心がけています

小西 さらに授業以外でも学生との対話を重視しています技術的な質問に答えていると平気で1時間ぐらいたつことも多いのですが学生の学びたいという姿勢には徹底して対応するようにしています学生一人ひとりの個性を把握して教員同士が共通認識を持って指導することが大切ですね

―卒業生の就職実績などはいかがですか

前田 はい順調に実績を出せています大手有名ゲーム会社にも採用されていますしゲーム会社は一般的に競争率も高く就職が困難だと言われているのに対してしっかりと結果を出せていると自負しますねKCGの場合は業界で卒業生が多く活躍していることが就職のうえでも強みですね先輩たちが後輩を引き上げてくれるという側面があります卒業後も度々連絡をくれて学生の指導に協力してくれたりするのがありがたいことですね

宇田 そうですね私がゲーム業界にいた頃もKCGの卒業生とはよく会いました私の上司がKCG卒業生だったこともありますこの人脈というのはおそらく学生にとっても大きな武器でしょうねもちろんゲーム業界で活躍するためには本人の実力が問われることになりますが周囲に同窓生がいるというのは心強いですね

前田 ただ当然のことながら全員がゲーム業界に就職できるわけではありませんその点を捉えて保護者の方などは自分の子供をゲーム関連の学科に進学させることを躊躇する場合もあろうかと思いますしかし私たちは元々ゲーム業界への就職が全てだとは思っていませんもちろんカリキュラム上はゲーム業界で活躍できる人材育成を目指していますが個々の学生指導においては学生の個性に応じて柔軟に対応しています実はゲーム開発を通じて学んだことは他分野他業種でも活かすことができますつぶしが効くという言葉がありますが実際に就職はよい状況です

宇田 ゲームを入口にしてコンピュータやプログラミングに興味を持つとパターンもあります実際にゲームからウェブ関連に興味が移る学生も最近みかけますアミューズメント志向の学生はウェブを作品と考えていてウェブの世界で才能が開花していく例もありますなぜそういうことが可能なのかといえばゲーム関連の学科ではウェブの世界でも通用する技術を学べるからですそれからTV局に就職した例もあります番組制作もゲーム制作と似た面が多いようですゲーム制作で学んだセンスを活かせる職種も増えていますので早い段階で本人に進路選択の見極めをさせています

―今後の学生指導で先生方が心がけたいと思っている点をお願いします

小西 私は自分の専門分野との関係でいえば学生にプログラミングの楽しさをわからせたいと思いますねどうもプログラミングを必ずしも面白いと思っていない人もいる私たち教員の課題はプログラミングの面白さをどうやって伝えるのかその工夫をすることですプログラムを書いてコンピュータを自分の思い通りに動かせた時の喜びは何物にも代えがたいものがあります実はそれだけではなく創っている最中が一番楽しいかもしれませんどうやって問題を解決したらいいか考え試行錯誤している時間です私たち人間はプログラミングのときだけではなく常に考えて生きているわけで考えるということの楽しさを学生に伝えたいと思います

宇田 ゲーム業界は前提となる技術の進歩が速い分変化の激しい世界だと思いますいかにしてその動向を敏感にキャッチして学生の就職に役立つ技術や知識を提供するかが勝負だと思っています幸いKCGの教員は皆新しい技術分野にも果敢に取り組み研究をしています先日も現役クリエイターの卒業生から聞いた話ですが今でも技術的なことでわからないことがあるとKCGの教員に質問することがあるということです私たち教員がゲーム開発の現場と併走し続けることが重要だと思いますね

前田 私はゲーム業界で活躍する卒業生と在校生との架け橋になりたいと思いますゲーム業界の先輩たちは優秀な後輩が業界にくることを切望していますそのための後輩へのアドバイスや支援を積極的に行ってくれる卒業生がたくさんいますこれがKCGの強みですそうした卒業生から得た様々な有益な情報を学生に還元していくことを特に心がけたいと思っています現在世の中に出回っている多くのゲームソフトに何らかの形でKCGの卒業生がかかわっていますこうした実績を挙げているのが私たちの誇りですゲーム産業は今後の日本の経済や文化を牽引する一つの大きな柱ですそうした広い視点に立って意義のあることを学んでいるのだということを学生にも伝えていきぜひともゲーム業界に一人でも多くの人材を送り出して行きたいです