国内IT関連の主要53団体(加盟約5000社,総従業員数約400万人)が集い,優秀なIT人材を育成して世界最高水準のIT社会構築を目指す国内最大規模の「日本IT団体連盟(IT連盟)」が,2016年7月22日に誕生した。宮坂学Yahoo!基金理事長(ヤフー株式会社代表取締役社長)が会長に就任し,長谷川亘KCGグループ統括理事長(一般社団法人 全国地域情報産業団体連合会=ANIA=会長)は代表理事・筆頭副会長を務める。立石聡明 京都情報大学院大学准教授(一般社団法人 日本インターネットプロバイダー協会副会長・専務理事)は理事に就いた。
新団体は,IT人材を多数育成するための教育推進に力を注ぐことや,政府との双方向のコミュニケーションを密にしながら積極的に提言するなど働き掛けを強化することを活動の柱に掲げた。
今後の日本の経済成長を牽引する重要な役割を担うIT産業は,昨今,人材不足が深刻な問題となっている。経済産業省は「2030年に59万人が不足」と警鐘を鳴らし,総務省は「2025年までに200万人規模の人材創出が目標」としている。しかし,ITに関わる国の諸政策は,国内の他の産業とは異なり,経済産業省,総務省,文部科学省,国土交通省などの各省庁が独自に進めているのが現状で,IT関連団体はそれぞれの省庁の傘下に100以上存在している。今回の画期的な新団体は,これらのIT団体に広く参画を呼び掛けて設立されたものであり,従来からの枠組みを超え,ばらばら感が否めなかった現状を払拭し,IT関連の諸政策の柔軟かつ効率的な促進体制の強化を訴求することも狙いの一っだ。主な事業としては,▽IT教育推進に関する諸活動▽IT人材育成に関する諸活動▽ITに関する事項の政府,関係機関等との連携,情報交流,意見表明および具申▽海外IT関連団体との連携,意見交換▽サイバーセキュリティ強化のための諸活動▽会員間での連携および情報交流ーなどを掲げている。事業推進のため幹事会,政策委員会,IT教育委員会,IT人材育成委員会,国際委員会を置く。
東京・千代田区の経団連会館で開催されたこの日の設立総会・理事会で役員が選出された後,記者会見で宮坂会長や長谷川筆頭副会長らがIT連盟設立の趣旨を説明した。会見後は懇親会も開催され,来賓の石破茂・地方創生担当大臣(内閣府特命担当大臣),北村経夫・経済産業大臣政務官,輿水恵一・総務大臣政務官からあいさつがあり,長谷川筆頭副会長が乾杯の音頭を取った。メンバーたちは,IT連盟誕生を祝い,交流を継続しながら日本のIT産業発展に向けスクラムを組んでいくことを確認した。
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1995年には一人当たりの名目GDPが世界第3位であった日本は,2015年には26位となっており,国際競争力を挽回させ,さらに高めることが急務となっている。政府は,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)を立ち上げ,2013年に「世界最先端IT国家創造宣言」を策定し,その後も改定を重ねており,国際競争力の復活を目指してITを成長戦略の柱と位置付け,国を挙げて取り組む姿勢に変わりはないが,ITの人材不足解消へのテコ入れとして具体的な効力を発揮するにはまだまだ及んでいないのが現状だ。そのような状況の中,日本IT団体連盟の果たすべき役割は大きい。セキュリティ対策やIoT,AI,ビッグデータなど今後需要がますます高まることが予想される分野におけるIT人材育成に向け,官民一体となった取り組みが進むことが期待される。
IT人材の不足が深刻化している調査データが相次いで発表されている。日本の産業力強化のためにもIT人材育成は急務で,発足した日本IT団体連盟が取り組もうとしているIT教育関連事業に期待が集まりそうだ。
経済産業省が2016年6に発表した国内IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果によると,IT人材(企業と,ユーザー企業の情報システム部門に属する人材の合計)は現在91万9千人なのに対し,17万人超が不足していた。今後人口減少に伴い退職者が増えることから,さらに深刻化すると予測している。マイナンバー制度の導入や東京オリンピック・パラリンピックの2020年開催などによるセキュリティ対策といったIT需要の拡大が今後さらに見込まれるため,人材ギャップは悪化。2030年には不足数は78万9千人にものぼるとはじき出した。
人材不足の内訳をみると,市場拡大が見込まれるセキュリティ分野で13万2千人(現時点28万1千人),人工知能などの先端分野は1万5千人(同9万7千人)と推計。今後市場が成長するにつれて人材不足も深刻化すると指摘している。
一方,日本のIT人材は,米国やアジア各国と比べ,管理職クラスの割合や理系専攻出身者が少ない傾向がみられた。日本では約47%が一般社員だが,米国では管理職が9割以上だ。日本の理系出身者は約50%だが,インドでは8割以上だという。また,各国のIT人材の年収比較調査でも,日本は年収500万円前後に回答者が集中している一方,米国では年収1000万円から2000万円の間に分布していることも分かった。
同省は「IT人材の育成や確保に向けて,女性やシニア,外国人が活躍できる環境づくリや個々のスキルアップ支援の強化,処遇やキャリアなどの改善による魅カアップ,情報セキュリティ,先端分野,起業家などの重点的な育成強化に取り組むべき」としている。発足した日本IT団体連盟は,「IT人材育成のための教育推進」が活動の柱。日本のIT産業を支え,リードする人材が多く生まれることが期待されている。
▽会長 宮坂学 (Yahoo!基金理事長,ヤフー株式会社代表取締役社長)▽筆頭副会長 長谷川亘(一般社団法人全国地域情報産業団体連合会会長,一般社団法人京都府情報産業協会会長,京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学・京都自動車専門学校 統括理事長)
▽副会長 酒井雅美(特定非営利活動法人 日本情報技術取引所理事長),斎藤光仁(全国ソフトウェア協同組合連合会副会長)▽幹事長 荻原紀男(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会会長)▽専務理事 別所直哉(一般社団法人セーファーインターネット協会会長)▽理事 藤井洋一(一般社団法人 IT検証産業協会会長),山本隆一(一般財団法人医療情報システム開発センター理事長),中村彰二朗(一般社団法人オープンガバメント・コンソーシアム代表理事),鈴木昭彦(一般社団法人コンピュータソフトウェア倫理機構理車長),立石聡明(一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会副会長・専務理事,京都情報大学院大学准教授),下村正洋(特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会事務局長),内山雄輝(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア&サービス・コンソーシアム理事長),畑口昌洋(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム幹事長・事務局長)
播磨崇(特定非営利活動法人ITコーディネータ協会会長)
計53団体(加盟企業数 約5,000社)
※1 団体数,加盟企業社数は「全国地域情報産業団体連合会」および「全国ソフトウェア共同組合連合会」の会員団体を含む