著作権(Copyright)は,その英語から分かるように,著作物を他人が無断で模倣(copy)することを禁止する権利です。伝統的に著作権法は,絵画や音楽,小説,映画などを保護してきました。著作物は鑑賞するものであり,著作物を使用して何かを生産したり,作業させるものではありません。
これに対して,特許権が保護する発明は,その発明を使用して,例えばナイロンや抗生物質を製造することによって産業を発展させるものです。特許権は発明を使用することを独占する権利です。このように,著作権と特許権は,人間の頭脳が作り出した創作を保護する権利といっても,その権利の性質は非常に異なるのです。
ところが,1980年にアメリカは著作権法を改正して,コンピュータ・プログラム(以下「プログラム」という)を著作物に加えたのです。プログラムは鑑賞するものではなく,コンピュータに使用して機能させるものです。プログラムは明らかに伝統的な著作物とは異質な存在です。むしろ使用するという性質は発明に類します。このようなプログラムを著作権で保護することにしたのは何故でしょうか。その理由を考える前に,特許権と著作権の違いを少し詳しく説明しておきましょう。
発明,デザイン,音楽,絵画,小説など人間が頭脳で作り出した情報(無体物)を財産権として保護するのは,産業革命期に始まり,科学技術の進歩に伴い,20世紀後半に入って急速に発達しました。このような,情報を保護する権利を総称して知的財産権といいます。最近,新聞などでは知的所有権といっていますが,これは同じ概念です。知的財産権の体系については,ACCUMU Vol.3(1991年)にその概略を説明しているので参照して下さい。知的財産権のなかで特許権と著作権は代表的な権利です。両者の性質の違いを次のような対比表に作成しました。これに基づいて説明しましょう。
特許権が保護するのは発明です。今までになかった新しい物(例えば,ナイロン,ペニシリンなど)や,物の生産方法(例えば,ナイロンの製造方法)など科学的創作が発明です。発明者は,特許庁に出願し,特許庁がこの発明が世界的に見て新しいものであるかを審査して特許権を与えます。特許権は出願から20年で消滅します。特許権の効力は非常に強く,その発明について特許権者だけが独占的に使用する権利をもちます。特許権者以外の第三者が独自に同じ発明をして使用しても(特許権者の発明を模倣したのでないのに),特許権の侵害になるのです。このような強い権利ですから,同じ発明について同時に二つの特許権が成立することはありません。このため,別個に完成された同じ発明について,複数の人が特許出願した場合には,一番先に出願した者に特許権が与えられます。これを先出願主義といいます。特許権を維持するには,毎年,国に特許料を支払う必要があり,支払わないときは特許権は消滅します。
これに対し,著作権は,著作物を創作して表現したとき(例えば,絵を描き,作曲して楽譜に書いたりまたは演奏したとき)に,自動的にご褒美として著作権が発生します。ピカソが絵を描いて自分のアトリエに保管して誰にも見せなくとも,その絵に著作権は成立しているのです。著作権は創作の時から著作者の死後50年間も存続します。著作権は,著作者に無断で他人がその著作物を模倣(コピー)することを禁止する権利です。したがって,他人の作曲した音楽のメロディーを自分の曲に使用したり,他人の絵を勝手にカレンダーに使用したりすることは著作権侵害になります。しかし,模倣したのでなければ,同じような著作物を創作しても著作権侵害にはならず,その著作物にもご褒美としての著作権が成立するのです。つまり,著作権は併存することができます。著作権には,国に対し権利維持料を支払う必要はありません。
以上は,日本での特許権と著作権の比較です。しかし,特許製品や著作物は日常的に国境を越えて取り引きされているので,これらの権利が外国でどのように保護されるのか,その相違も重要です。発明も著作物も国ごとに制定されている特許法・著作権法によって保護されます。したがって,外国でも保護を受けようとする場合には,その国の法律に従って権利を取得する必要があります。特許権の場合には,一々外国の特許庁に出願し,審査を受けて特許権を取得しなければなりません。これに反し,著作権には,1886年に成立したベルヌ条約があり,著作者が各国ごとに特別な手続きをとるまでもなく,条約加盟国の一国で著作権が成立すると,原則として自動的に全ての条約加盟国で著作権が与えられることになります(条約五条(1))。
それでは次に,なぜアメリカがプログラムを著作権で保護することにしたか,その理由をアメリカの強力な経済再生政策の中から明らかにしましょう。
1970年頃のアメリカは,インフレ,失業者の増大,財政赤字と貿易赤字に苦しみ,現在の日本のような経済状態でした。自らの産業競争力の低下に対する危機意識は深刻で切迫していました。1970年代終わりに,カーター大統領は前例のない「イノベーション教書」を議会に送って,技術開発の促進による経済の再生を訴えました。
1980年にレーガン大統領が登場すると,「強いアメリカの再生」をスローガンに,積極的なプロパテント政策を打ち出しました。プロパテント政策とは,一口にいうと,労働者の給料が高くなって,もはや安い製品では日本や発展途上国に対抗できなくなったので,あらゆる手段で技術開発力を発展させて優れた製品を開発し,その技術を特許法や著作権法など知的財産権法を強化して国内で保護すると同時に,知的財産権法を世界各国に制定させ,輸出したアメリカ製品の模倣を許さないという,壮大なグロウバリゼーションの行動計画です。この当時,中国などには特許法も著作権法もありませんでした。
このような政策の中で,プログラムが著作物とされたのです。アメリカはコンピュータを発明した国であり,IBMという強力なコンピュータメーカーやマイクロソフトのような優れたソフト企業を擁するプログラム先進国です。自国の得意とするプログラムをどの法律で保護するのが得策か考えました。すでに述べたように,特許権に比べて著作権による保護は,権利成立が簡単であり,保護期間が長く,特許料のような維持費はいりません。また,一国で著作権が成立すると,同時にほぼ全世界の国でも保護が認められる利点があります。このような理由から,その性質が著作物とは相容れないとの諸外国の反対を押し切って,プログラムを著作権法で保護し,同じように著作権で保護しない外国のプログラムは,アメリカでは保護しないと宣言しました。このため日本は,1985年に著作権法を改正して,プログラムを著作物であるとし,諸外国もこれに続きました。
1985五年には,高度先端科学技術分野における総合的な戦略を立案する通称「ヤング報告書」が発表され,以後アメリカの政策のバイブルとなりました。翌年,レーガン政権はヤング報告書に基づいて,次のような知的財産の保護強化政策を発表しました。①情報公開法を改正して,企業秘密の保護範囲を拡大する。②NASA等公的機関よりの外国人の情報入手を制限する。これらの措置により米国で研究した外国人の研究成果の持ち出しが著しく制限されることになりました注(1)。③特許争訟の迅速化・賠償額算定方式を変えて賠償額を高額にする・訴訟費用を侵害者に負担させる。④途上国にも特許制度を制定するよう強制する。
この政策は,ブッシュ,クリントン大統領にも踏襲されました。とくに,④途上国に特許制度を制定することの強制は,二国間協定(例えば,米中交渉による1985年の中国特許法制定)によるのみならず,GATT(関税と貿易に関する一般協定)の多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の場で討議され,1995年のWTO(世界貿易機関)設立協定の付属協定として,「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が成立しました。これは,WTO全加盟国に同協定の定める基準の知的財産権を保護する法律の制定を義務付け(協定一条),コンピュータ・プログラムが文学的著作物として保護されること(同10条1号),特許の対象は全ての産業分野の発明に与えられること(同27条1号)を明確にしました。
インターネットの発達で,世界が共通の情報網で結ばれる現在,プログラムが文学的著作物(ベルヌ条約の適用される著作物)として国際的に認知され,著作権による保護が確立したことは,アメリカの世界戦略の成功を決定づけるものでした。
発展途上国に対する特許法制定の義務づけは,発展途上国には,優れた発明を開発する能力がなく,特許制度を作っても,権利を取得するのは先進国だけです。途上国では,自国民の健康を保護するため,今まで医薬などには特許を認めていませんでしたが,協定は「全ての産業分野の発明に特許を与えること」を義務づけているため,医薬の特許を認めねばならなくなりました。例えば,アフリカのエイズに苦しんでいる国で,エイズ治療薬の特許をアメリカ企業が取得して,高い薬を輸出します。しかし,一般の患者はその薬を買う金がありません。そのため,その国の政府は,自国でエイズ治療薬を製造したり,他国から輸入して安く提供しようとしても,特許権侵害で差し止められます。このため,発展途上国に先進国と同じレベルの特許制度を押しつけることに対し,人権の面から批判が集中しています。経済・法律のグロウバリゼーションがもたらした弊害です。この間のニューヨークの同時テロに対抗して,アフガニスタンで行われていた戦争の背景には,このような深刻な問題が存在することを認識する必要があります。
文化は模倣により伝播するものであり,文化の発展を目的とする著作権法は,従来から,著作権の効力にさまざまな制限を設けて,一般市民が自由に著作物を利用できるように配慮してきました。例えば,著作物を個人的に使用するため複製することは原則として自由でした(著39条)。しかし,アナログ技術からデジタル技術の時代に変わってくると,完全なコピーが可能で,何回コピーを繰り返しても劣化しません。このため,例えば,コピーのために本やレコードの売上が激減する事態が生じました。今や,デジタル時代への変化に著作権法を対応させるため,毎年のように法律改正が繰り返されています。このような変化を前提に,プログラム著作権の保護の意味を明確にし,身近に生じる問題を具体的に解説しましよう。
著作物は人の思想・感情の表現であるから,その著作物は創作した人に帰属するのが原則です。しかし,著作権法は,一定の要件のもとに,人を雇って著作させた場合に,使用者が著作者として著作権を取得すると定めています。その要件とは,「使用者の発意に基づき」,「使用者の業務に従事する者が職務上作成した著作物であること」,「使用者の名義で公表すること」とされています(著15条1項)。例えば,新聞社が記者に書かせた無記名の新聞記事の場合を考えて下さい。このため,企業に雇われて職務上プログラムを作成した場合にも,この要件を満たす場合には,そのプログラムは企業の著作物となり,著作権は初めから企業に帰属します。ただし,プログラムの中には,企業秘密としてのみ利用し,社外には公表しない場合が当初から予定されているものも多くあります。例えば,銀行のオンライン・サービスのプログラムは企業秘密として管理され,公表されません。このような実情から,プログラムの著作物については「使用者の名義で公表すること」の要件は除外されています(著15条2項)。皆さんも,将来企業に入って,職務上プログラムを作成する場合には,このことを十分知っておいて下さい。ただ,企業と従業員の間で,特別の契約を締結している場合には,著作権法15条は適用されず,契約が優先します。プログラム開発能力に自信のある人は,入社するに先立って,有利な契約を結ぶことができます。それができるかは,まさに個人の能力の問題です。
「著作者は,その著作物を複製する権利を専有(独占)する」(著21条)。これが著作権法が定める原則です。したがって,著作物のオリジナルまたはその複製物の所有者(個人,法人を問わず)でも,それから更に複製物を作ることは,次の(2)の場合を除いて,原則として許されません。「複製」とは,プログラムの場合,ハードディスクやROM,フロッピーディスク,MO等に記憶させる行為が複製に当たることは明らかです。
しかし,これでは,プログラムの複製物(例,CD-ROM)を買っても,ハードディスクにインストールすることもできません。このため,著作権法47条の2第1項は,プログラムの複製物の「所有者」は,自分でコンピュータに使用するため必要な限度で,複製・翻案(ヴァージョン・アップ)ができると定めています。これにより,所有者は,ハードディスクにインストールしたり,バックアップコピーをとり,使用するコンピュータに適合するように作り変え,ヴァージョン・アップするなど,使用に必要な限度でプログラムを複製・翻案することができます。これらは,プログラムの複製物の所有者がプログラムを使用するのに半ば必然的に伴う行為です。この場合の「所有者」には,著作権侵害品とは知らずに違法プログラムを購入して,業務上コンピュータに使用する者も含まれます。購入後に海賊版と知った場合でも構いません(著113条2項)。
著作権法47条の2第1項の制限は,「所有者の自己使用」のために,必要な限度での複製を認めるに過ぎません。加えて,自ら(例えば,企業や学校)が使用する場合でも,同一事務所や校舎内等で同時に複数のコンピュータに使用するために,複製物を作成することはできず,別途,複製物を購入する必要があります。このような複製を認めると,複数個分の複製物の利用がなされる結果,著作権者が一個の複製物の販売から得た対価では不足が生ずることになり,著作権者に不利になるからです。
複製物の所有者が,所有する複製物またはこの条文に基づいて複製した複製物のいずれかについて滅失以外の理由で所有権を失ったときは,所有者はその他の複製物を保存してはならず(著47条の2第2項),これに違反して保存した者は,その時点で別途,複製したとみなされるので(著49条1項4号),著作権侵害となります。例えば,プログラムの複製物の所有者が元の複製物かバックアップ用に作成した複製物のいずれかを他に譲渡したときは,自分の手元に残された複製物を廃棄するか,もしくはプログラムを消去する必要があります。そのまま保存することを認めると,同時に複数個分の複製物が使用される可能性があり,前に説明したように,著作権者に不利になるからです。このため,プログラムを納めるハードディスクが物理的に「滅失」した場合には,廃棄しなくても構いません。
私的使用のための複製は著作権を侵害しません(著30条1項)。これは,著作物(例えば,音楽,絵画,小説など)全体にかかる重要な条文です。個人が,本をコピーしたり,コンパで音楽を歌っても著作権侵害にならないのは,この条文があるからです。プログラムについても当然この条文は適用されます。したがって,ゲームのプログラムを買って,家庭で楽しむために複製しても,問題ありません。条文では,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」場合に,私的使用に当たるとしています。したがって,他人でも,親しいごく限られた間柄の範囲内での複製に限られます。個人が,自分の家と研究室で使うためプログラムを複製することは私的使用といえます。この条項の適用を受けるためには,「使用する者」が自分で複製することが必要で,業者に頼んで複製すれば,私的使用目的でも著作権侵害になります。
また,公衆の使用のために提供されている「自動複製機器」(著30条1項1号)を用いて複製する場合には,この条項は適用されません注(2)。例えば,自分でコピーしても,レンタル店の店舗のダビング機を用いた場合には著作権の侵害となります。これは,大量の複製が誘発され著作権者に甚大な被害を与えることを防ぐ意味があります。
一般的に,会社や学校が買ったプログラム複製品のコピーは,私的使用目的を欠くので(すべて業務に関係するので),この条文に該当することはないと考えられています(東京地裁昭和52年7月22日判決)。注意すべきです。
Q1パソコン用のプログラムを購入して企業内で違法にインストールして使用し,利益をあげていた場合,その後,インストールしたプログラムを全て抹消して,新たに同数の正規品(プログラム複製品)を購入した場合でも,損害賠償の責任がありますか。
A1違法にインストールしたことによって著作権侵害が成立し,損害額もその時点で確定します。その後に正規品を購入しても,それ以後のプログラム使用が適法に許されるのであって,それ以前の侵害行為に影響しません。この場合,正規品を購入すれば,制限なく自由に使用できたのですから,損害額は正規品小売価格に無断複製個数を乗じた金額であり(著114条1項,2項),これを使用して企業があげた利益は損害額の算定には斟酌されません(東京地裁平成13年5月16日判決〔東京リーガルマインド事件〕)。
Q2学校の教師が,パソコン用のソフトを購入して教室で教材として使用するためソフトをコピーして学生に配布することが許されるでしょうか。
A2著作権法35条は,「学校の教師は,授業に使用する場合には,必要と認められる限度において,公表された著作物を複製することができる。ただし,著作物の種類及び用途並びに複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない」と規定しています。これにより,論文や図書の一部をコピーして,一クラスの教材に使用すること程度は許されます。しかし,パソコン用のソフトをコピーすることは著作物の全部をコピーするわけですし,それを一クラス全員に教材として配布するのは,上記「ただし書」の趣旨からすれば,著作権者の利益を不当に害する場合に当たり,許されないと考えます。実際には,著作権者と事前に教育用の契約をすることが必要でしょう。
著作物の利用は,文化に関する問題ですから,著作権者と公衆の利益の調節の上にたって,合理的に著作権の効力の限界が定められるべきです。デジタル時代に,著作権を一方的に主張すると,技術革新や市場の開発が阻害され,結局は著作権者の首を絞めかねません。家庭用ビデオを著作権侵害というなら,現在のレンタルビデオの巨大な市場はできなかったはずです。著作権法は,「権利の保護」と「革新を促す例外的な利用」のバランスをとることが必要であることを肝に銘ずるべきです。また,お話ししましょう。
(1)経済スパイ法は,1996年10月に発効しました。厳しい罰則で「企業秘密」の盗用を抑え,知的財産権の保護範囲を拡大する目的があります。特許権や著作権と違い,秘密が守られるかぎり盗用から保護されます。最近,日本人研究者がアルツハイマー病の研究にかかわる機密を盗み出したとして罪に問われているのは,この法律によるものです。
(2)現在,書籍はコピー店や生協にあるコピー機を用いて複写できます。これは,著作権法附則5条の2により,著作権法30条1項1号の自動複製機器には「当分の間,もっぱら文書・図書の複製に供する自動複製機器は含まない」とされているからです。