JR新大阪駅近くにあるビル。「開発室」の看板が掲げられた一室が「ヒューマン エンジニアリング アンド ロボティックス(HERO)」社(岡村勝社長)のビジネス技術事業部が活動する拠点だ。この一室で,京都コンピュータ学院の卒業生3人が黙々とパソコンに向かっていた。時折,開発リーダーの野本博さん(インフォメーションテクノロジーユニット係長)から指示が飛ぶ。竹内勇貴さん,松井宏樹さんらスタッフは,持ち得た技術をフル活用しながら,物流関係のアプリケーションソフト開発に知恵を絞る。「ソフトを使っていただくお客さまの仕事が効率化し,喜んでいただきたい」。スタッフの思いはひとつだ。
「和やかな雰囲気の中で仕事ができる。上下関係も良好で,働きやすい環境です」と3人は口をそろえる。普段着で仕事をすることがほとんど。静寂でありながらも,一般的な「開発室」にありがちな張り詰めた空気は感じられない。
野本さんは岡山大学卒業後,別の企業に就職。その後,KCGの大卒者コースに入学しコンピュータの知識と技術を得た。「会社説明会のときに仕事の内容に興味を持ったのと同時に,社長と話をして非常に親しみが持て,この人と一緒に仕事をしたいと強く感じた」と入社の動機を打ち明ける。
竹内さんはKCG時代のアルバイトが縁で入社,そのまま正社員となった。HERO社について「和やかで自由な雰囲気。正社員となることに何も迷いはなかった」と振り返る。
松井さんは新入社員。「学生時代に他のアルバイトをした経験がありますが,それらと比べてこの職場は,先輩たちにも質問しやすいですし,大変いい環境だと思っています」と言う。
野本さんが入社して2年後に竹内さん,その翌年に松井さんが入社し,いわば「KCGトリオ」が誕生したわけだが,先輩の野本さんが2人を引っ張る形でチームワークよく互いに切磋琢磨しスキルアップしているようだ。
仕事以外の3人共通の話題は,やはりKCG時代の思い出話だ。「ハイキングって,最初は正直なところ面倒だと思ったんですよね。でも参加したらとても楽しかった。他の学生や教職員と知り合い,仲良くなるよい機会になりました」と野本さん。
1年目の比叡山登山を振り返るのは竹内さん。「道を間違えて写真撮影の時間に間に合うかどうか,焦った覚えがあります。しかも悪いことに足を痛めてしまった。すると友達がずっと励ましながら付き添ってくれた。その友達とは今でも仲がいいんですよ」と笑う。
入学まではコンピュータを触ったことすらほとんどなかったという松井さんは「ゲームが作れるようになればな,なんて単純な気持ちで入学したのですが,最初は授業についていけなくてブルーな日々が続きました」という。「でも2年目,展示物作りに挑戦してからかもしれません。俄然やる気が出るようになって勉強が楽しくて仕方なくなったんですよ。TA(ティーチングアシスタント)も経験しましたしね」と,前を向いて歩き出そうとしたひとつの出来事が,充実した学生時代を送るきっかけになったと説明する。
忙しい毎日を過ごす3人。ITの最先端にいる立場から,後輩に当たる現在の学生たちにメッセージを送る。竹内さんは「プログラム作りにどんどん挑戦してほしい。同時に他の人が作ったものをよく見ておくのもいい。 どうしてこのような作りにしたのか,意識を持ちながら見るのが大切です」。
松井さんは「業界に入ってみてコンピュータの知識・技術力と同じぐらいに国語力・表現力が必要なことを痛感しています。いかにお客さんにメッセージを伝えるか,という点で大事なんですよね」と話す。
野本さんは「自分がどこまで分かっているのか,どこからが分からないのかという境界をしっかり知ることが大切だと思う」とし,「自分自身のことをよく知っていれば,これから何をするべきかということがはっきりするので,階段を一歩ずつ上がっていける」と強調する。
野本さんは最近,人材提供の形で他社に派遣され,システム開発を手掛ける経験もした。それらの経験を礎に,今後は同社の開発部門リーダーとしての役割を担っていく。「顧客と会話しながら要望を実現するためのシステムを考え,提案していく。そんなコンサルタント的な仕事をしていきたいですね」と抱負を語る。
「まずは一人前になること。それからです」と笑うのは松井さん。「いつかはプロジェクトのリーダーになりたい」と夢を語る。
竹内さんは2008年からゲーム関連会社への派遣が決まっている。「いよいよゲーム開発に携われることになりました。今の(HERO社での)仕事に穴を開けることなく,出向先で力を発揮していきたい」。
偶然同じ会社に勤務することになった3人のKCG卒業生。スクラムを組み,自分自身を高めながらIT業界を先導していく。