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Accumu Vol.18

コンピュータ博物館の設立に期待

文化庁文化財部美術学芸課長 栗原 祐司氏

今や我々の生活にコンピュータは欠くことのできない存在となっており,コンピュータ関連技術の進歩と革新は,この十数年の間にまさに飛躍的な発展を遂げたといっていい。しかし一方で,急激な技術の進歩と企業間の競争,利用環境の変化は,使用年数の短縮化を招いており,旧くなった製品は,オフィスや家庭では無用の長物として廃棄処分され,誰かが意図的に保存しない限りは,どんどん消え去る運命にある。もちろん,それら商品を製造した企業に情報は保存されるであろうが,コンピュータ全体の総合的・体系的な保存とはならない。しかし,我が国の科学技術史を考える上で,これらを保存し,次世代に伝えていくことは極めて重要なことであり,文化庁でも近年になってようやくこれらを「近代化遺産」として捉え,保存継承していく動きになっていることは周知のとおりである。現在は産業・交通・土木に係る建造物が中心だが,例えば平賀源内のエレキテルやモールス電信機(いずれも逓信総合博物館所蔵),初期の天体望遠鏡や天球儀(いずれも国立科学博物館所蔵)なども重要文化財に指定されており,いずれはコンピュータ機器等も指定の対象になることは間違いないであろう。

筆者はアメリカでコンピュータ専門の博物館をいくつか見学したことがある。いずれもカリフォルニア州だが,一つは名だたるIT企業発祥の地シリコンバレーにあるコンピュータ歴史博物館(Computer History Museum)で,パーソナル・コンピュータが生まれるよりも前の巨大コンピュータから,最新の小型PCに至るまで,数多くのコンピュータが所狭しと展示されていた。同館は,コンピュータ関連企業や投資家等の寄付により1999年に非営利団体として設立され,2003年より一般公開されている。また,サンディエゴにあったコンピュータ博物館(Computer Museum)も,規模はそれほど大きくはないが,数多くのコンピュータ製品がずらりと展示されていた。これらのミュージアムがアメリカの科学技術の振興に果たした役割は大きいであろうし,特に青少年に与えた影響は計り知れないものがあるだろう。

さて,我が国ではどうだろうか。コンピュータに関する資料は,国立科学博物館や東京理科大学近代科学資料館のほか,シャープや松下電器等の企業博物館等に保存・展示されているが,いずれも総合的・体系的な専門博物館とは言い難い。筆者は,やはり科学技術立国を標榜する我が国に,コンピュータの専門博物館がほしいと以前から考えていた。そのような矢先,国立科学博物館において,2008年10月より「重要科学技術史資料」の登録制度を開始し,真空管式計算機や電子式卓上計算機等が登録された。また,情報処理学会でも昨年度から「情報処理技術遺産」認定制度を開始し,情報処理技術遺産あるいはそれに準ずる歴史的文物を多数収集・保管している組織を「分散コンピュータ博物館」として認定する制度を発足させた。その第1号として京都コンピュータ学院「KCG資料館」と東京農工大学情報工学科「西村コンピュータコレクション」が認定された。いずれも機械の保管にとどまり,見学者側の立場に立ってディスプレイされた博物館の様式にはなっていない。京都コンピュータ学院では,分散コンピュータ博物館に認定されたのを機会に,教育効果を考えた博物館として整備し,一般公開へ向けての活動をスタートさせたが,喜ばしいかぎりである。博物館の使命は,研究・保存するだけでなく,多くの方々にコレクションを公開し,活用することも重要であり,特に近年子どもたちの理科離れが叫ばれている時代にあっては,青少年の科学技術理解増進のためにもこうしたコンピュータ博物館が果たす役割は極めて大きいと思われる。厳しい財政状況の中,博物館設立・運営のための資金調達もままならないであろうが,未来を担う子どもたちのために,ぜひ関係企業・機関等の協力を得てコンピュータ博物館の設置やネットワークの構築が実現することを願ってやまない。

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栗原 祐司
Yuji Kurihara
  • 上智大学法学部,放送大学教養学部卒
  • 1989年文部省(当時)入省
  • 文化庁,国土庁,北茨城市教育員会などの勤務を経て,2001年から国際交流ディレクターとしてニューヨークに勤務
  • 2005年より文部科学省大臣官房政策課企画官
  • 国内約4000館,北米約1600館のミュージアムを訪問

上記の肩書・経歴等はアキューム18号発刊当時のものです。