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Accumu 京都情報大学院大学 東京サテライトを開設

開設記念講演会『これからのグローバル時代に活躍する人材になるためには何が必要か?』

森田 正康 KCGI教授
株式会社ヒトメディア代表取締役社長兼CEO

KCGグループ50周年,本当におめでとうございます。記念すべき年を前に,今年KCGIの東京サテライトをオープンし,サテライトを担当させていただけることは,非常にうれしく思います。今回トップバッターとして,「グローバル時代に活躍する人材」についてお話をさせていただきますが,今後自分がサテライトを運営していく上で,こうした教育をしたいという問題意識と絡めていきたいと思います。自分がやってきたこと,サテライトでやりたいことを,経験談を基にお話します。

これからのグローバル時代に活躍する人材になるために何が必要なのか。4つのテーマをもとに話したいと思います。

1つ目のテーマとして,「やりたいことのために大学院がある」という組織にしていきたいということです。日本の教育は海外と違い,大学に入学した時点で学部を決めてしまいます。例えばいきなり経済学部に入って,高校卒業の段階で本当に経済学が学びたかったのかと言うと,疑問があります。アメリカの場合は大学に入ってから,3年の時に学部を選ぶこともできます。最初の2年でやりたいことをいろいろ試してみて,選んでいくのです。そしてそこで学んだ後に大学院に進んでいくという流れが当たり前のようにあるのです。それと比べると,日本は大学選びの段階で早めに専攻を選ばせすぎているのではないでしょうか。

この大学院に賛同したのは,大学で無理やり選んだ学部をやり直したい人たちの受け皿として機能させたいという気持ちからです。私自身もUCバークレー,ハーバード,ケンブリッジを出て,そのあとコロンビア大学の博士課程に進んで現在は休学をしています。日本で会社経営をするために休学したのですが,一方日本でも会社経営をしながら,東大の先端研でずっと博士課程の研究をしていて,論文を出さずに満期退学をしました。最終学歴には残りませんが,それなりに日本でも研究を続けることができました。

UCバークレーの時は政治経済学部でした。よく男子学生が夢見るように「総理大臣になりたい」と思って政治経済学部に行きました。国際法を学んでいて,世界平和の方法を考えようとしたのですが,僕が考えても,当時で言えばフセインとかビンラディンが言うことを聞いてくれなければ全く意味がありません。上から物事を変えていくのは難しいと思い,下から変えていこうと思いました。下からというのは教育なのです。たくさんの子供たちを教えていくことによって,自分の伝えたいことがどんどん世界に広がっていくといいと考えました。それで大学を卒業してハーバードの大学院の教育学科に移りました。そういうことが簡単にできるのがアメリカの教育です。日本のように専攻を変えるのが難しければ,その段階で政治学者か経済学者になるしかなかったのです。

ハーバードでは,対面の授業だと教師一人で生涯に2万人ぐらいしか教えられないと気づき,インターネットを使った教育の勉強をしました。

その後ケンブリッジに行った理由も簡単です。僕は心理学や,子供がどのように知識を頭の中に詰め込んでいくかが全然わからなかったからです。それを学べる場所はないかと思ったらケンブリッジがありました。哲学と心理学を学びました。

その後に,やはりインターネットだけではなくてテレビメディアを学ばなければと思い,コロンビアで教育とテレビメディアの研究をしました。最後にこうして日本で会社を立ち上げるために日本に戻ってきましたが,結局モノを作れなくては意味がないから,東大の工学部の先端研で学びました。

僕が東京サテライトでやりたいのはまず,やりたいことが実現できる場を提供する大学院にするということです。僕自身いろいろな大学院でやりたいことをやるチャンスを与えてもらいました。教育学や心理学の基本をやっていないから入れてやらない,というようなことは全くありませんでした。ちょっとITに興味があって,学びたいと思うけれど下地がない人たちをサポートしていきたいと思います。そういうことができる組織が日本になければ,グローバルな人材は育っていかないと思うのです。そうした組織に行くことが,これからのグローバル人材の条件なのです。

2つ目には,IQ,知識よりも知恵をつけてほしいと思います。僕は最近『僕たちは知恵を身につけるべきだと思う』という本を出したのですが,まさにそのタイトルのままです。グーグルなどの検索サイトもある世界の中で,知識はそれほど重要でなくなっているのです。昔は物知りな先生が偉いとされていました。調べる手段もありませんでしたので,何でも知っていて教えてくれる先生がよかったのです。今はインターネットにアクセスすれば,いくらでも知識が得られる時代です。ですから,知識そのものより,知識をどのように加工していくか,アイディアとしてどのようなスピード感で使っていくかが重要だと思うのです。こうしたことを僕は知恵と呼んでいます。

例えばケンコーコムという会社があります。医薬品のネット通販の会社ですが,まだSEO(サーチエンジン最適化)対策がなかった時代に,テレビ番組で司会者が何かを勧めた時に,自社がその商品の検索の一番上に来るようにした結果,成功したのです。それから医薬品の製造工場の隣に会社を移しました。足りなくなるとすぐに仕入れにいけるわけです。これも知恵なのです。

知識をどう加工してビジネスに展開し,社会に生かしていくかということをやっていかなければ,優秀な人材は育たないと思います。

3つ目は,グローバル時代に本当に必要なものを知るということです。英語は大事ですが,それも所詮は知識です。本当に大事なのは文化を理解する力なのです。英語が話せればいいのではなく,様々な文化に触れ合い,そして違う文化を受け入れていくことが大事なのです。それによって人は成長しますし,世界に対応できるのです。KCGIの京都本校には様々なグローバルな人材が集まっております。東京サテライトは一層グローバルになるので,そうした人たちを言語ではなく文化で結びたいと思います。

最後に,世界のエリートと同じキャリアを選ぶということです。日本の教育を受けても,日本だけで就職する時代は既に終わりました。ヒトメディアもシンガポールに本社を移そうとしたり,海外の企業とのアライアンス・出資を試みたりするなど,グローバルに事業を展開しております。東京サテライトの学生にも,在学中から海外に出ていく機会をどんどん与えたいと思います。ビジネスは卒業する前から可能なのです。ハーバードの教授は自分でも会社を持っている例が多いです。研究者でも自分の研究を社会に出すところまでやっているのです。

コロンビアにいた時にeラーニングをテーマに会社を設立するお誘いがあり,それがアルクの子会社になりました。そして僕はアルクの本体の役員になり,アルクで上場の準備をし,日本の東大で研究をし,京都情報大学院大学で教えはじめました。

29歳の時に会社は上場し,30歳の時に教授になった。やろうと思えばひとつだけではなく複数かなえられるのです。僕を教授にしてくださった学校がこの大学院なのです。産学連携のためにビジネスのノウハウを持った人間と組んでいきたいという要望があって自分を教授にしていただきました。それに恩義も感じています。だからこそ東京サテライトではもっと特殊なことをやりたいと思っております。世界のエリートは大学時代に会社を作っているのです。会社を立ち上げた後に大学院に入ってもいいと思います。そうしたチャンスを学生には与えたいと思います。

六本木という場所に世界からたくさんの学生が集まり,東京サテライトの教育を受けながら社会に貢献したり,会社を立ち上げたり,または勤めながら学んでいくということ,そして世界から人を集めることで卒業生のグローバルなネットワークを作りたいと思っています。これからの入学者がKCGIを選んだ時に,京都本校ではなく東京サテライトに入りたいと思うような特色あるサテライトにし,本校と切磋琢磨しながらやっていきたいと思っております。

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森田 正康
Masayasu Morita
  • (米国)カリフォルニア大学バークレー校卒,ハーバード大学大学院修士課程修了
  • Master of Education,(英国)ケンブリッジ大学大学院修士課程修了,Master of Philosophy
  • 株式会社ヒトメディア代表取締役社長,元株式会社アルク取締役
  • 2004年より京都情報大学院大学教授
  • 近著に『僕たちは知恵を身につけるべきだと思う』(クロスメディア・パブリッシング=インプレス)

上記の肩書・経歴等はアキューム21号発刊当時のものです。