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Accumu Vol.3

情報系システムに求められる知的支援を考える

日本ユニシス株式会社関西支社 マーケティング1部 システム推進1課主事 片山 敏廣

知的支援って何 -AIESとの相違-

「ではこれから知的××支援システムの紹介を行います」とロ火を切りますと参加者の中から必ずと言って良い程出てくる言葉は「AIなの」「AIとの関係は」「エキスパートシステムとどこが違うの」「どこが知的なの」等々です非常にストレートな質問が飛び出します「まだ何も話し出していないのに理解されては私の立場が無い」と心の中で思いつつ紹介を始めます

ここで考えることが2つありますそれはまず参加者の視点が「知的」という言葉に集中していることです知的という言葉の響きに魅せられているように思えます2点目は「知的」という言葉から連想されるものが「AI」であり知識処理を前提とした「エキスパートシステム」をイメージしている向きが非常に強いということですしかしこの2点目の理解については少し補足を要すると思われます

日本のAI元年と言われた1985年から7年現在では先進企業においてすでにエキスパートシステムが実用化されている状況にあります

AIの応用分野を大きく分類するとエキスパートシステム自然言語処理画像/音声理解知能ロボットS/W開発支援(自然プログラミング)知的CAIであり非常に広範囲と言えますが実用化されているものの大半はエキスパートシステムのようです参加者の連想する「知的」→「AI」→「エキスパートシステム」が容易に理解できます

ここで「知的支援」という言葉について私なりに解釈してみたいと思います私達が日々業務を遂行していく中で基礎となる情報(データ)は容易に入手でき活用できるはずですそうでなければ業務改善が急務ですこの基礎情報がコンピュータから提供されるものであれば二次加工三次加工したものも提供されていることでしょう非常に乱暴な言い方をすればこの二次加工三次加工の処理が「知的支援」と言える場合がありますそれは利用者(エンドユーザ)の目的に合致する場合です利用者が業務遂行のための情報(データ)を前に次に必要な情報(見たい情報)を提供してくれる仕組(システム)があるとすれば「知的支援」をしてくれる仕組(システム)と言えるでしょう

言いかえれば私達は日々の活動において「知的」と呼ばれないまでも無意識の内に数多くの知的活動を実践していると言えますこの知的活動を支援することによりその企業全体のレベルを高めることが可能になります

前述のエキスパートシステムは特定の専門領域を対象に専門家の経験則を含む知識によって知的支援を行うのに対し一般的な「知的支援」とは日常業務遂行のための知的活動(目的に沿った効率的活動)の支援を行うものと言えますつまりこの領域は既知の分析手法や情報によりシステム化されるテキストベースシステムを含んだ知的支援システムの範疇であり従来からエキスパートシステムとは明確に区分されてきました

知的支援システムとは利用者(エンドユーザ)の思考に沿って必要な情報を提供するシステムです利用者の業務遂行(活動)そのものを支援する位置付けにあり専門領域に限定されないということです

そのためそのシステムに組込まれる分析手法や情報として教材やマニュアル化されたものを活用することによりより現実的に実現が可能となります

当然のことながらこれを第一ステップとしてその企業のもつノウハウを組込むことにより企業独自のエキスパートシステムに成長させることも可能です組込みのパターンとして大きくは2種類ありAP(アプリケーションパッケージ)そのものに組込む方法と外部のエキスパートシェル等を活用しAPと連動させる方法に分類できます

少し話が脱線しましたが元に戻してまとめますと知的支援システムのアプローチは利用者(エンドユーザ)のための知的業務支援システムであり専門的経験則をシステム化しようとするエキスパートシステムを包含するものと言えます

また業務支援のために教材やマニュアルをベースに分析手法や情報をシステムに組込むことから始めることも可能ですこの場合知的支援システムは業務用CAIが組込まれたアプリケーションシステムという見方もできます

知的活動を支援するシステム例

「知的支援」について私なりの解釈(偏見)を紹介致しましたが次に話を具体化するため参考例として知的支援プラットホーム『TIPPLER』により作られた2つのデモシステムをご紹介致します

知的営業システム 画面例
知的営業システム 画面例
1知的営業支援システム

どこの会社でも売れる営業マンがいれば売れない営業マンが必ずいると言って良いでしょう短期的な結果評価だけでは少し淋しい気もしますが現実はキビシイのですもう少し軟らかく具体的に表現を改めよく売るベテランの営業マンとまだ売り方がよく理解できていない新人の営業マンがいるとします会社としては一刻も早く新人がベテランのように販売実績を伸ばして欲しいまた部署の異動などである営業マンが持っている顧客情報がその営業マンとともに消えてしまうこれは定着率の低い業界においては重大な損失と言えますこの情報を会社として保持しながら顧客情報を追跡しマーケティング情報として活用することも重要な課題となっています

この2点に着目しこのシステムでは新人営業マンに対して明日のコンタクト候補を明示し活動の活性化を促進する仕組と顧客とのコンタクトにより得られた情報を曖昧なものでも入力できるようにしておきその情報から導き出されるベテラン営業マンのノウハウを明示することにより新人営業マンの提案力を強化する仕組を提供しようとするものです

例えば不動産販売においてだいたいの年齢(約40才ぐらい)と職業が特定できればある程度の年収を導き出すことが可能となり推薦物件を絞り込むことができますまた新人営業マンが見落としやすい事柄(個人のライフステージ家族構成入学等のイベント)についても入力可能にしておきそれらの項目からベテラン営業マンが考えるセールストークを新人営業マンに示唆することにより提案力強化が図れます

そして顧客とのコンタクトを通じ曖昧な情報をより正確にし不明な情報を追加入力することによりより精度の高い推薦物件の抽出が可能となり販売力向上の直接的効果が狙えるシステムと言えます

営業マンにとっては情報を多くまた正確に入力する程より精度の高い提案支援が得られるわけですから各営業マンの情報入力の意欲をうまく喚起できれば会社としてのもう一つの課題を実現するための基礎となる顧客情報の蓄積も同時に実現できるシステムと言えますこのシステムの利用を通して新人営業マンがベテラン営業マンのノウハウを身につければ営業マン教育が業務を通じて実践されたことになり真に一石三鳥()を狙った付加価値の高いシステムと言えます

しかしこのシステムを成功に導くためには利用者(エンドユーザ)の情報入力が不可欠であり端末操作に馴染まない現場の営業マンに対しいかに操作性の良い環境を提供できるかが重要な課題となります素人でも簡単に人力できるユーザインタフェースとしてできる限りキーボード操作を少なくしマウス等による選択方式を採り入れることや曖昧な情報人力を可能にする配慮が重要なポイントと言えます

2知的経営支援システム

前述のシステムは情報入力にポイントが置かれますがこれから紹介するシステムは情報の取り出しにポイントが置かれています

このシステムの狙いは会社経営における問題点を明示的に表示することにより経営層を支援するものです経営活動における問題点は種々雑多な資料(個々には整理されている)を前にその資料に含まれている現状の問題点の抽出が非常に困難であるということです

例えば経営概況として販売在庫資金人員について一覧的に見たいとします表の中に現れた何十個という数字の中から経営として注視しなければならない数字を発見することが簡単にできれば問題が無いわけですしかし通常では問題にならない数値であっても他の状況等との絡みで見た時問題として取り扱うべき値が含まれているかも知れませんつまりその一覧表から問題点を見いだすことは不可能なわけです経営における問題点の見落としが損失を増大するとすればこれを回避しなければなりませんそのためには経営概況把握の中で他のデータ(状況)との関連を踏え経営層に対し問題を明示することにより問題の見落しを未然に防げる仕組を提供することが必要です例えば「シェアが0.2%落ちている」「在庫が計画を上回っている主な要因は×××である」といった情報提供が考えられますまた各データの関連から地域別価格帯別に見た販売実績により販売における異常値の情報提供がされることにより早期に対策を講ずることも可能になりますこれらは経営における問題点をより明示的に表現することにより経営支援を図ろうとするものです

また経営概況から販売に着目し詳細情報を見たい時「販売」という文字をマウスでクリックすることにより即座に詳細情報を表示するといった仕組を提供するというような経営者の思考を妨げない操作性レスポンスを保証することも重要と言えます同様の操作により情報の詳細化視点を変えた情報の表示時系例に見る情報の比較等を経営者の思いつくままに提供してくれる仕組を実現することができますまた時系例情報についてはグラフ化することによりよりビジュアルに変化を確認することができます

利用者(エンドユーザ)が享受できるもの

以上2つの知的支援システム例を紹介致しましたが共通して言えることは利用者(エンドユーザ)は端末に関して素人であることを前提としキーボード操作を極力少なくしている点ですこのことは特に情報系システムを活用する利用者にとっての関心事となっていますそしてシステムの目的がその利用者(エンドユーザ)の業務(活動)そのものを支援するために作られているということです知的支援システムはこれらの要求(機能)をカバーするものでなければなりませんつまり利用者は簡単に使えるユーザインタフェースの基で業務遂行のための知的支援を享受できるようになります企業として見たときある会社の経営層から一般社員にいたるまで全ての人材を利用者(エンドユーザ)と位置付け知的支援を行うことにより個々の活動の質的向上を図ると同時に企業全体の質的向上を図ることが可能となりますまたこれらのアプローチは既存の情報系システムについても有効であり今後このような知的支援機能が要求されるものと思われます

知的支援システムの構築を支援するソフトウェアプラットホーム TIPPLER

1目的

TIPPLERの目的は「気のきいた情報系システム」を「思い立ったら気軽に作れる」仕掛けを提供することです「気のきいた情報系システム」とは素人でも直観的に使え利用者の思考を妨げない応答時間を保障し関連情報を自由に取り出せ且つ情報が不十分でも利用者を支援できるようなシステムを意味しています

また「思い立ったら気軽に作れる」とは気のきいた情報システムを構築するための開発環境が整備されておりシステムの部品化および再利用が可能で段階的に開発が進められるような環境を言いますまた開発効率を上げるために各種パッケージソフトウェアを活用しシステムに組込めることも必要な機能です

TIPPLERはこのような諸機能と環境を提供することにより知的支援システムを構築するために生まれてきたと言えます

2機能概要

TIPPLERの持つ諸機能として大きく3つに分類できます

①洗練されたユーザインタフェースを構築するための機能

快適なLook&Feel

利用者の直感に即した操作感覚を持つインタフェースを実現するための部品群

WYSIWYG

エンドユーザが見ている状態(表示)とシステムの内部状態の整合性を保持する機構

ハイパーテキスト

出力された画面がそのまま入力画面(メニュー)として利用できるため利用者は関連する情報を次々に拾い読みしていくことができる(ブラウジング)またアプリケーションが利用者の操作を誘導するナビゲーション機能を容易に構築することができる

マルチプルプレゼンテーション

グラフスプレッドシートパネルディスプレイなどを用いて1つの情報に対して複数の見せ方を提供することができる

②オブジェクト指向プログラミング

オブジェクトとしてのデータ

システムによって管理される識別子によってオブジェクトを識別する

カプセル化

オブジェクトの属性をスロット操作をメソッド表示をプレゼンテーションとしてカプセル化し一元管理する

クラスと継承

オブジェクトの共通の性質をクラスとして定義しスロットメソッドプレゼンテーションを継承することによりクラス定義を再利用することができるまたクラスの継承において複数のクラスを親とする多重継承も可能である

オーバーロード

同じ名前のスロットメソッドプレゼンテーションをクラスごとに与えることができる

③オープンシステム

データベース

データベースのサブセットをメモリー上にオブジェクトとして展開することにより高速なデータ操作を行うことができる

データの分析

統計分析推論機構とデータの交換を可能にする

既存ソフトウェアとの協調

既存のソフトウェア資産の活用を可能にする

おわりに

知的支援プラットホーム『TIPPLER』は産声をあげたばかりです今後の情報系システムにおける知的支援についてこのTIPPLERの活用を含め研究を続けていきたいと考えています