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Accumu Vol.7-8

初代学院長から伝えられた言葉

京都コンピュータ学院 榎本 茂子

初代学院長

初代学院長・故長谷川繁雄先生は折りにふれ様々な話をしてくださいましたが,その中で忘れがたいものが数多くあります。特に「権利の上に眠るものは保護されず。」という言葉は印象的で,私の中で先生は常にこの言葉とともにあると言っても過言ではありません。

この言葉を初めて聞いたときは,一瞬先生が何をおっしゃろうとしているのかよく理解できませんでした。なぜなら,権利というものは,いわば生まれると同時にその個人に備わっている自然発生的なものであり,親の庇護と同じように目には見えないが,どんなときもしっかり守ってくれる揺るぎないものであるかのように,普段は意識すらしていなかったのですから。

「権利というものは自ら勝ち取っていくものだ。自分の権利を守ることができるのは自分しかいないのだから,そのことをよく覚えておきなさい。」そして権利を守るということがいかに大切で,それは私達が生きていく上ですべてに関与しているということや,また権利が侵されるようならそれを阻止する手段を考えて,速やかに実行しなければならないということを,表現を変え,いろいろな例を引いて皆にわからせようと熱心に話してくださいました。先生は全職員に,仕事に対する姿勢はもちろん,何事に対してもこのように根本的に考えることの必要性を強調されました。しかし一方,「権利」という言葉を濫用することを常に戒められました。

また,先生は「無知であってはならない。」ということも常々おっしゃられました。無知というのは自分の責任であり,知らなかったため不利な立場に立たされたり,避けられたであろう災難を防げなかったりすることは許せないということでした。それは先生自身が直接被った被害ではなく,職員の身に降りかかったものであっても同じでした。例えば職員の一人が休日に自分の車に乗っていて,交通事故に遭い,その職員が交通事故に対処すべき知識があまりなくて不利な状況に陥った時に先生から厳しい叱責(先生には怒っているという意識はなかったでしょうが)を受けているのを見たことがありました。怒られていると思いこんでいる職員の立場に立てば,自分は災難に遭って途方に暮れているのに,その上なんで怒られるのか理解に苦しむところでした。最初は厳しい言い方をされていた先生も相手が涙を流したり,悲しそうな顔をすると,もうそのまま言い続けられなくなって「怒っているのではなく,君のことを心配して言っているのだからよく聞きなさい。」というふうなおっしゃり方で,一生懸命慰められるということも度々でした。そして相手の言い分も聞いた上で,自分の立場を守るのがいかに大切で大変なことかを丁寧に説明されるのでした。そんなときの先生の言葉はとても暖かく,身にしみる言い方でしたから注意を受けた職員も真意を理解し,納得できるのです。

先生はまた「天は自ら助くるものを助く」という諺を引用され,何事にもベストを尽くすことを要求されました。その要求はとても厳しく,容赦のないものでした。しかし一生懸命やったことに対しては,結果が必ずしもご自分の望んだことと一致しない場合であっても,その努力を讃え,ヒントを与え,完成させるように仕向けられました。その言葉のおかげで最後まで自分の力でやり遂げた誇りと満足感が得られたことも少なくありません。

初代学院長

先生は「男女平等」ということはその言葉通り実行されました。私が京都コンピュータ学院で働くようになって一番驚いたことは,あらゆる面で男女の差別がないことでした。待遇面はもちろんのことで,女性の能力も高く評価して期待されていました。先生に女性に対する偏見がなかったのは,現学院長の長谷川靖子先生というすばらしいパートナーを抜きにしては考えられないことですが,当時そのような先進的な考えを実行している職場は珍しく,私はこの方針が新鮮で誇らしく思っていました。もちろんその気持ちは今も変わりません。当然のことながら,女性職員も先生の期待に十分応え,男性職員に負けない仕事をしていました。次々に発生するいろいろな問題を,皆が自分のこととして考え,試行錯誤しながらも自分の学校を創っているという志を抱いていました。自分達がこの学校の発展に貢献しているのだという誇りと,新しいものを作り出しているのだという充実感が女性職員(もちろん男性も)に満ち溢れていたのは,先生のこのような方針によるものと思われます。

初代学院長先生が亡くなられてから,はや10年が過ぎました。この間のコンピュータの発達は目を見張るばかりです。そして先生から伝えられた言葉が様々な形で本学院の精神として受け継がれ,現在までの発展の基礎となっています。先生はどんな想いで天上からご覧になっているのでしょう。きっとご自分がコンピュータの未来に賭けたことを,知らない人にまで得意そうに話されているような気がします。

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上記の肩書・経歴等はアキューム7・8号発刊当時のものです。