本日は,お忙しい中,京都コンピュータ学院創立45周年,京都情報大学院大学創立5周年の記念式典に御列席くださいましてありがとうございました。
この記念すべき年にあたり,創立以来の45年の歴史を振り返りますと,万感の思いがこみ上げてまいります。
45年前といえば昭和38年です。戦後の復興が進み社会に明るい兆しが現れて来た頃とはいえ,まだまだ研究設備面で日米間の開きは大きく,コンピュータ分野においてもコンパイラ言語の通る国産大型機は一台もありませんでした。
昭和40年12月,ようやくコンパイラ言語の通る国産大型コンピュータ第1号機が東大で完成し,翌年4月,大型計算機共同利用センターの開幕を前にテスト段階に入りました。
私(当時京都大学)を含む10名足らずのテストラン参加者を前に森口繁一教授は,「これからはコンピュータを利用する学者が激増するだろう。みなさんは,自分の研究のためにコンピュータを利用するだけでなく,西部開拓者の精神でコンピュータ利用の普及に尽力してほしい」と話されました。
すでに「FORTRAN研究会」(後に内容を拡大・充実させ,「京都ソフトウェア研究会」と改称)を立ちあげ研究者たちを対象にプログラミング手法を指導していた私にとって,その言葉は胸に響きました。多分その時に情報教育に対する私のパイオニア精神に火がつけられたのでしょう。
60年代前半から後半にかけて学術研究,ビジネス最前線の領域に加速度的にコンピュータが取り入れられていきましたが,行政においても大学・企業においてもコンピュータを学術部門,ビジネスの特殊部門の道具として考え,コンピュータはひと握りの専門家の範疇に属するものと認識しており,またそれが社会全体の常識でもありました。
しかし,私たちはコンピュータの特性から来るべき情報化社会を予見し大量のソフトウェア技術者養成の必要性を痛感し,高等学校卒業者を対象に「コンピュータ技術者養成」という新しいカテゴリーの教育機関を誕生させたのです。自ら進んで時代を拓いて行こうという情報技術教育開拓への情熱,パイオニア精神は,その後も学院のアイデンティティとして引き継がれ,生命に満ちた学院ダイナミズムの源泉となって,45年の歴史の中で発揚されていきました。情報教育における学院のパイオニア精神を具現していくため,本物主義と先駆性・革新性を教育構築の核心におき,業界のニーズに応える実践的技術者養成を目指しました。
他校が小手先の技術教育指導に終始している間,本学院は当初から「理論と技術の一体化教育」を実施いたしました。本物主義に基づく教育の実践は,その後に到来した急速なコンピュータの進化に適応できる本物の技術力の養成となりました。
これら教育上の理想実現に大きく関与したのが京都大学大学院生,ポスドク等,若手研究者の講師陣です。彼らは,新しいコンピュータ領域最前線の学問研究に極めて柔軟な頭で取り組んでいたのです。
45年の歴史の中で,延べにして6000人近くの新進気鋭の研究者たちに非常勤講師として協力していただきました。京都大学を中心とした講師陣の毎年の人材供給があればこそ私たちの情報教育の理想が実現していったのです。
本日,京都大学松本総長様もいらっしゃってくださいました。ここに改めて,かつて協力してくださった先生方,現在,協力してくださっている先生方と,講師派遣に協力してくださった京都大学に御礼申しあげます。
私たちは,コンピュータの持つ特性からコンピュータを研究用・ビジネス用のスペシャルな道具としてではなく「文化」として早くから捉えていましたが,パソコン時代に入り,それは確信となり,コンピュータ・リテラシーの普及活動を通して,コンピュータ文化創造に貢献することをパイオニアとしての使命といたしました。
本学院で不使用になったパソコン,当初2000台,その後追加し3000台を利用した海外コンピュータ教育支援活動は,現地政府との合弁事業として企画され,1989年,タイ王国を皮切りに,その後,ガーナ,ポーランド,ケニア,ジンバブエ,ペルーへ続き,現在22ヵ国に及んでいます。支援期間19年間の中,当初から7~8年の間は,現地教員養成も担当し当該国において,初めてのコンピュータ・リテラシー教育実現という大きな教育上の成果をあげることができました。各国現地での教員養成にMITの若い研究者たちが加わりました。また,ハーバード大学からは不使用になったパソコンが寄贈されました。
コンピュータの海外支援活動は,対象国にベネフィットを与えるだけでなく,私たちの学校教職員・学生に対する人間教育において,多大な効果をもたらしました。また一般社会から学校に対する高い評価をいただきました。私たちを信頼し協力を惜しまなかった現地政府に,各大使館を通して心から感謝申しあげる次第です。
創立以来今日まで,本学院は郊外へキャンパスを移すことなく,京都という「都市」との共生に意義を見出し,発展してまいりました。「都市」と「大学」との共生による相互発展は,ドイツのハイデルベルク大学,フランスのパリ大学にその先例を見ることができます。京都は,日本伝統文化育成の地であり,京都にはその過程で培われた本物志向精神が根付いています。
また,明治維新を通して日本近代化を実現した革新の地であり,数々のノーベル賞受賞者,世界的ベンチャー諸企業を生んだ創造の土壌でもあります。本学院の教育構築のモットーである本物主義,先駆性・革新性,そして創造性は京都の特性と符合します。
私たちが学校を郊外に移し大学をつくるとか,京都以外の土地に多くの分校をつくるという選択肢を棄てて「京都市との共生」にこだわったのはその故です。
京都のもつ歴史的・風土的特性は,ユニークな学院発展の礎となりました。その意味で創立45周年を記念して京都の町に〝ありがとう〟の言葉を捧げたく存じます。
本日,京都市からご列席くださいました坪内様(京都市総合企画局長),私たちのこの感謝の言葉を京都のまちを代表してお受け止めください。
ありがとうございます。
さて,45年の間に3万8千人以上の卒業生が巣立っていきました。卒業生の大半は自らの仕事を通し,日本情報化社会の推進役となり,また,日本の情報化社会繁栄を支えました。今日の日本コンピュータ業界の繁栄に,情報処理技術者育成という基本的な最も重要な部分で貢献した学院の業績と伝統において,私たちは最高の誇りを持っております。
企業のみなさん,みなさんが45年の永きにわたり本学院卒業生たちを採用し,卒業生たちに活躍の場を与えてくださったからこそ卒業生たちは,力を発揮することができたのです。毎年,求人数は求職数を上回りました。他大学が就職難の氷河期といわれた時期においてさえ,就職難の悩みは本学院にはありませんでした。学院生採用にご協力くださり,入社後,より一層の能力を育ててくださった企業のみなさんに,心からお礼申しあげます。
ありがとうございました。
卒業生のみなさん,みなさんの活躍に私たちは何物にもかえがたい喜びと励ましを与えられました。みなさんの活躍により,母校の社会的評価は上がりました。みなさんの活躍はみなさんに生き甲斐と喜びを与えただけでなく,所属する企業を発展させ,母校を発展させたのです。みなさん,ありがとう。今後の一層の奮闘を祈ります。
本日,数多くの祝電が寄せられました。海外からは,現理事長・長谷川亘の母校・コロンビア大学,長谷川由の母校・MIT,ハーバード大学,長谷川晶の母校・ロチェスター工科大学,長谷川由とその夫が働くイリノイ大学の学長,学部長,多くの教授から祝電をいただきました。すべて学院の発展のためにご協力,ご支援ご指導を仰いできた方々です。アメリカのトップクラスの諸大学との人脈交流により学院の先駆的・革新的な教育構築が実現してきたのです。改めて感謝申しあげる次第です。
さて,以上のように学院創立から今日までの長い道程の中で,学院はすべてのみなさまから,心温まるご協力,ご支援をいただきました。今一度,京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学教職員を代表して,心からお礼申しあげます。
今後とも,より一層のご協力・ご支援の程,よろしくお願い申しあげます。