天文学は土木工学とならんで最も古い科学の一分野と考えられている。しかし,その観測の手段は地上の望遠鏡によってきたが,今世紀になって,大気圏外からの観測に成功した。
ソ連は1957年10月4日に世界最初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。このお蔭で,宇宙科学は当時の予想より早い速度で進歩したと言える。米国は翌年1月31日にイクスプローラを打ち上げた。
これらはいずれも太陽同期型衛星で,世界一周に約1時間半を要した。他方,高度3万5,700kmを飛ぶ静止衛星は地球同期型であり,その周期は24時間となり,地球からみると天の一角に静止してみえる。なお,有人人工衛星の第1号は,1961年4月に打ち上げられたボストークであった。
次に月ロケットが問題になり,ソ連は1959年1月にルーニク1号を打ち上げ,地球を脱出後約2日半かかって,38万kmのかなたの月の傍らに達した。翌年には同3号は月の裏側の観測に成功した。
米国は1964年7月にレンジャー1号を,また1966年にはサーベイヤー1号を打ち上げ,これは嵐の大洋に軟着陸した。しかし有人宇宙船が月面に軟着陸し無事帰還できたのは,1969年7月20日に打ち上げられたアポロ11号が初めてであるが,これも1972年のアポロ17号でこの計画は中止となった。
上記のロケットや人工衛星に比し,惑星ロケットの打ち上げは容易でなかった。この場合,地球を秒速約8キロで脱出し,さらに加速して最適軌道に転移する必要があり,このためには発射時期が限定されたからである。
金星探査ロケットとして米国はマリナー2号を1962年,ソ連はベネラ2号を1965年に打ち上げた。ベネラ3号によると,地表面で気圧約百気圧,気温は約四百数十度であった。組成は表面輝度の観測からも推定されたように,主成分は炭酸ガスで窒素が少量混在している。金星表面は厚い雲のため見えないが,レーダー観測は可能である。火星大気も同様な組成であるが,構造は異なり,希薄大気でかつ平均気温は,マイナス40度くらいであった。
月および惑星ロケットに遅れて,1972年7月23日に,重量891kgの地球資源技術衛星アーツが高度約950kmに打ち上げられた。極を通る太陽同期の円軌道(軌道半径は約7,300km)を描き,地球を一周するのに約1時間40分を要し,赤道における軌道傾斜角は99度,北から南に赤道通過時間は午前9時30分である。この現地時刻で,軌道上の地点は18日の周期で撮影されてきた。換言すると,地球を1日に14周回って,185km四方の地域の映像を平均1日に188枚の割で撮ったことになる。その分光領域は緑色,赤色及び近赤外であった。
1973年7月までに全陸地の約3/4を撮ったことになる。さらに1975年1月にランドサット2号,1978年3月には同3号が打ち上げられ,9日の位相差で飛んだ。ついで1982年7月及び1984年3月にはランドサット4号及び5号が相次いで打ち上げられた。現在同5号のみが運用中である。
宇宙から地球を探索するとは,人工衛星に搭載した多分光学的走査検知器(MSS)により,地球表面およびその周辺から放射又は反射された電磁波を観測することである。その測定は輻射エネルギーの強度,空間分布,および時間的変化に関するものである。使用する電磁波のスペクトルは紫外線より熱赤外域に及んでいる。
その情報は陸域においては,農業(作物の収穫予想,作附け面積の調査,土壌の成分および含水量推定,土壌の成分および含水量推定,土壌汚染の現況調査,牧野の管理),林業(森林資源調査,植生分布調査,森林火災監視,森林病虫害管理),土地利用(国土利用状況調査,都市圏整備計画,工場立地計画,テクノポリス開発計画等の資料作成,各種地図および生態系分布図の作成),防災(浸食・堆積状態調査,地すべり・崖崩れ等危険区域の調査,地震危険地域および火山活動危険地域の調査),地質・鉱物資源(地表面地質,たとえば岩石区分),地質構造(活断層,リニヤメント,背斜度の推定),各地質の構成成分とその断面,および特性(たとえば透水性,浸食性)の調査,鉱物資源分布調査,地表面構造模様調査(たとえば,地形区分分布,傾斜,標高,洪水氾濫源等),地熱調査,水資源(積雪分布および融雪量推定,表流水分調査(たとえば,河川,湖,沼,湿地等の分布,流域の形状,河川の勾配と密度,用水廃水の流路,洪水浸水地域の推定,地下水分調査(地下水の流動パターン,湧水地分布),環境(環境区分図作成,河川湖沼の汚染状況調査,環境破壊の監視)に渡っている。
また,海域においては,漁業(水質・水温の分布,海流,水界の調査,プランクトン・赤潮の調査,湧昇域の推定),海象(波浪,海水風,水質,水温,水深,潮流,潮汐のパターン,漁場・藻類の分布等の調査),環境(海洋汚染の調査,監視)である。
さらに大気気象に至っては,大気汚染の調査監視,気流,気温,ヒートアイランド,降水量,積雪量等の分布調査である。
上記の各種項目の調査資料は生態系に関する情報と考えれば,産業生態学研究の発展に多くの寄与をなしているといえる。換言すれば,自然作用と産業活動との相互干渉作用とその評価,および土地利用の観点からみた産業活動に基づく人間社会経済的システムの理解に役立つものである。
以上に対する宇宙よりの広域観測は,低高度の太陽同期型衛星,および高々度の静止衛星により行われた。
前者としては,ランドサット,シーサット,スカイラブ,スペースシャトル,ニンバス,スポット,モス1号等があり,後者としては,気象(または測地,通信)衛星がある。測定原理は対象物の表面から放射(または,反射と放射)された電磁波エネルギーの強度分布を画像の濃淡に転換する。
ランドサットでは,地表面の走査方式とブラウン管映像面の走査方式がある。前者として,多分光学的走査検知器(MSS),および後者としてリターン・ビーム・ビジコン(RBV)カメラがある。
MSSは3つの光学機械系よりなり。その第1は地上を一定の視野角(約11.56度)で走査する走査鏡,第2は入射した輻射線を分光光学系により検知素子面に収束する光学系,第3はこれを可視像に変換する機械系である。ランドサット1,2号および3号では,この走査映像は4個の波長域に区分される。すなわち緑色(0.5~0.6マイクロン),赤色(0.6~0.7マイクロン),および近赤外域(0.7~0.8,および0.8~1.1マイクロン)である。同3号ではさらに熱赤外域の測定器が加わっている。検知器は主として光電子倍像管である。
遠赤外域的の測定は,大気中のC02,H2O,N2OおよびO3等の吸収をうけることがないので,環境汚染の監視及び水質源の調査に適している。
他方RBVカメラは3個の波長域,すなわち青緑色(0.48~0.58マイクロン),黄赤色(0.58~0.68マイクロン),および近赤外域(0.69~0.83マイクロン)を有している。その視野はMSSと同様,185km四方であり,ともに昼間のみ作動している。その映像はカメラの光電管上に保存され,シャッターを切った後で電子線により走査され,ビデオの信号出力となる。以上のMSSとRBVは原則として,期間中同じ対象物上で連立使用可能である。
ランドサット4号は今までのものとは異なる外観を有し,その性能も向上している。その1日の地表軌跡は87頁に示されている。更に同4号以降はデータ記録器を搭載せず,直接受信局のない地域の観測データは追跡データ中継衛星システム(TDRSS)を用いて,取得している。同システムは現在赤道上西経41度に静止しているが,更に同システムが打ち上げられれば,観測可能範囲は増大する。検知器として,MSS,RBVのほかに,主題的作図装置(TM)を搭載している。これはMSSに比し,走査線幅は185kmと同じであるが,1走査毎の走査線数が6本から16本に増え,地表面分解能(m)は可視域で79から30に増大し,遠赤外域では120となっている。さらに回帰周期は1号から3号においては18日であったが,4号では16日になった。
これに加えて,地球資源技術衛星としては,熱容量作図探査器(HCMM)およびシーサット,スポット,およびモス1号等がある。
HCMMは地球上の熱容量及び熱慣性の測定により地球資源同定の可能性を研究する。たとえば,(i)各種岩石の判別と鉱物資源の同定,(ii)土壌表面湿度変化の測定と監視,(iii)水の蒸気および植物の活力度の決定のために,各種波長域における植物の天涯温度の測定,(iv)都市の熱,輻射地帯の測定,(v)積雪量の分布測定から水流量予測のための情報収集,に役立つものである。シーサットにおいては,全天候下において,(i)主要な海流の流水,(ii)波のスペクトル,(iii)津波,(iv)海水の状況等を調査するのを目的とする。
以上の目的のために,同調画像レーダー,多周波マイクロ波輻射走査計,可視および近赤外域輻射計を搭載している。その軌道高度は約800km,軌道傾角は,HCMMおよびシーサットともにランドサットに相似である。
なお,日本においてもシーサットに対応するモス1号を打ち上げた。
全ランドサット系は,観測装置として,MSSおよび,RBV,広域ビデオ記録装置,資料収集系,遠隔管理操縦装置,追跡装置,命令伝達装置およびアンテナ等からなる。観測のデータは,資料収集系のデータおよび広域ビデオ・データとともに,特定の地上局に送られる。
初期においては,米国においてもカリフォルニア,メリーランド,およびアラスカの3局だけであったが,今は南アメリカ,欧州,アジアにも地上局が設置され,日本では,宇宙開発事業団鳩山地球観測センターが受信データの処理解析を担当して,研究者にテープその他の資料を提供している。
スポット(SPOT)1号は1986年2月フランスの宇宙研究国立センター(CNES)により打ち上げられた衛星で,上図はその外観を示す。その本来の目的は地球の画像を取得して,その画像を直接モードか記録モードかのいずれかで地上受信局へ送信することである。その重量は約1,750kg,バス本体は2×2×3.5mに長さ16.5mの太陽電池パドルをもっている。搭載機器は本体の側面に,2台の独立した高分解能可視映像システム(HRV)とテープレコーダを納めたパッケージ及び1台のテレメトリ送信器を持っている。この特長は,観測が直下のみならず斜視観測が可能であり,例えば緯度45度において,26日の回帰周期中に,12回も同一地点の観測が可能となった。他方,同一の場所を異なる角度から観測できるため,立体視の画像対を撮像することができる。軌道は高度約832km,軌道傾斜角98.7度,周期101.5分の太陽同期準回帰軌道であり,衛星が赤道を北から南に通過する時刻は地方平均太陽時で午前10時39分である。従ってランドサットの通過後,約1時間後,スポットで撮像できることがある。HRVは1500個の素子をもつ電荷結合デバイス(CCD)を直列に4個並べた6千個の素子からなる計測器である。衛星直下点での画素の大きさは3周波帯の多分光モードでは,20m四方,全整色モードでは10m四方である多分光モードは緑(0.5~0.59マイクロン),赤(0.61~0.68マイクロン),及び近赤外域(0.79~0.89マイクロン)よりなる。全整色モードは(0.51~0.73マイクロン)である。
モス(MOS)1号は宇宙開発事業団により種子島宇宙センターから昭和61年2月に打ち上げられた海洋観測衛星第1号であり,「もも1号」と称されている。その目的は,海面の色,水温を中心とした海洋現象の観測である。同期の軌道周期約103分,高度約909km,軌道傾斜角約99度,降交点平均地方太陽時は10時~11時,回帰日数17日,周回数1日14回の太陽同期準回帰軌道である。モス1号の観測機器としては,海面色及び土地利用等のため可視熱赤外放射計(VTIR)及び水蒸気,氷及び,雪等のためマイクロ波放射計(MSR)を搭載している。その特性としての観測波長(マイクロン)はMESSRにおいて,0.51~0.59,0.61~0.69,0.72~0.80,及び0.80~1.1;VTIRにおいては,0.5~0.7,6.0~7.0,10.5~11.5及び11.5~12.5である。瞬時視野は(km)MESSRにおいて0.05,VTIRにおいて0.9及び2.7,MSRにおいて32及び23である。
上記の各種地球観測衛星は,現在日本においては宇宙開発事業団鳩山地球観測センターで受信データの処理解析をして,研究者にテープその他の資料を提供している。
なお,本文における各国地球衛星画像データおよび挿入図は財団法人リモート・センシング技術センターより入手のものである。
更に本文における北海道および北陸地域の衛星画像の解析は財団法人産業研究所および文部省特別(及び特定)等,科学研究費補助金によるものであることを附記する。