日本最古のマンガと称される鳥獣人物戯画は平安時代の京都で生まれました。江戸時代の浮世絵などの伝統文化を受け継ぎ,明治以降,今に至るまで少なからず海外からの影響をも享受してきたものの,日本のマンガは欧米のcomicsやcartoonとは一線を画するMangaとして独特の進化を遂げてきています。現代では,日本のマンガは老若男女,国内外を問わず人気が高く,あらゆる種類の物語を網羅するようになりました。まさに,世界に認められる日本文化のひとつとなっています。
テレビマンガから始まった日本のテレビアニメは,徹底して合理的な作成方法が樹立され,そのもとで,欧米とはベクトルが全く異なるアニメ作品が,途切れることなく生まれてきました。日本国内の社会現象を引き起こすような人気作品や,海外でも高い評価を受けるような作品も次々と世に送り出され,日本のアニメは,国を代表する文化のひとつとして,世界的に認知されるまでに至っています。
日本のマンガやアニメを海外のものと比較してみると,明らかであるのは,それらの根底に我が国独特の文化的影響が強くうかがえる点です。マンガとアニメは従来別分野のものとして区分けが成されてきましたが,比較文化の視座でこれらを概観したときに共通して言えること,また,海外との差異を強調することができる点はいくつか散見されます。例えば,日本的な「間(ま)」の有無もそのひとつといえるでしょう。
一方,コンピュータ技術の進化発展は,マンガ・アニメに革命的な質的変化をもたらしています。CGの技術により,日本のマンガ・アニメ作品特有の人物の動きや距離感等に「間」を持たせる表現を,より繊細に実現することが可能になりました。また,情報通信技術の量的拡大によって,世界中の人々が日本のマンガ・アニメ作品に触れる機会が爆発的に増加しました。それらにより,日本マンガ・アニメの独自の感性,芸術性,技術力の評価が海外でさらに高まり,日本の文化と日本語への関心が向上するなど,マンガ・アニメを起点として海外の人々から日本が注目されるという現象を生み出しています。
他方,コンテンツ輸出によるカルチャーおよびライフスタイルの伝達・浸透は文化創造産業のみならず,あらゆる産業に新たな可能性をもたらすことは疑いありません。米国ハリウッド映画や韓国のドラマ・ポップミュージックなどのコンテンツ輸出が大きな成果を上げていることも周知の事実です。日本政府が推進するクール・ジャパン政策では,ポップカルチャーや伝統文化の輸出は産業を牽引するエンジンに留まらず,観光立国の原動力としても期待されています。言うまでもなく,マンガ・アニメは日本文化の国外伝達の媒介として,大きな役割を果たしてきています。
しかし近年では,非正規なコンテンツ流通ルートが主にインターネット上に開かれ,コンテンツ制作者は正当な対価を得ることが困難になり,海外向けのビジネスが成り立ちにくくなっています。それに加え,日本国内は少子化および長引く不景気の影響もあり,ヒット作が次から次へと生まれる黄金時代は終わり,マンガ・アニメ産業はターニングポイントを迎えているといえます。新たなステージを創り出すために,オールジャパン体制の官民・産学連携を創出し,新たなシステムを構築したいと考えます。ニーズや価値観の多様化が進む次世代型の消費者に適応できるような,高度にIT化された新たなビジネスモデルも創出していかなければなりません。
マンガ・アニメに関わる制作技術,人材教育,ビジネス戦略,マーケティング,国際化,産業振興,地域振興,歴史,評論を含めたさまざまなテーマを,総合的に研究・実践する場として,そしてより多くの分野の人々の交流の場として,京都マンガ・アニメ学会を設立したいと考えます。観察学や社会科学的分析・研究だけではなく,それら従来の手法を包摂して,さらに,未来を創出するような,知が集結する「新しい学」を創出していきたいと思います。学識者・研究者だけではなく,クリエイター・業界団体・企業も含め,愛好家・消費者も広く参加しやすい仕組みを作り,日本のマンガ・アニメ文化のさらなる発展を牽引する新たな創造を目指します。
日本のマンガとアニメの双方の根底に,古からの日本文化における特性とその応用が見出せるとの仮定をもって,日本文化のさらなる振興を期するため,我々は日本が世界をリードしているこの分野において,日本文化の中心であるこの京都から,マンガとアニメの両方に横断する本学会を立ち上げることは,極めて有意義であると確信する次第であります。
世界をリードする日本のマンガ・アニメのアカデミックな研究およびビジネス的な実践が,京都から新たに展開することを祈念しつつ,多方面からのご参加を期待してやみません。
以 上