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Accumu Vol.20

卒業生登場 (株)イビソク 木村寛之さん

(株)イビソク勤務
(文化財コンサルタント事業部 文化財技術開発室室長)

1985年 KCG情報工学科卒
岐阜県立西工業(現:岐阜総合学園)高等学校出身

(株)イビソク 木村寛之さん開発した「関ヶ原合戦3D絵巻」が
地元資料館に常設
夢は「ユニバーサル・ミュージアム」の実現

スタートボタンを押すと,薄暗い霧の関ヶ原が現れる。慶長5年(1600年)9月15日早朝,天下の覇権を狙おうと,石田三成率いる西軍8万4千は大垣城から,対する徳川家康率いる東軍7万4千は赤坂の地から,それぞれの陣地を目指し,この決戦の舞台へと歩を進めた。約16万人に及ぶ武者が二手に分かれ,無言の睨み合いを続ける。「天下分け目の合戦」の火ぶたが切られようとしている。なお沈黙が続く中,「絵巻」右下にある「進む」ボタンを押すと…。

KCG情報工学科を1985年3月に卒業した木村寛之さん(株式会社イビソク=岐阜県大垣市=勤務)がプロトタイプの企画・開発をしたCG「関ヶ原合戦3D絵巻」が2011年6月,合戦の舞台となった岐阜県関ヶ原町の歴史民俗資料館に常設された。「天下分け目の合戦」で東軍が勝利するまでの模様を3DCGでリアルに再現,戦いに挑む各武将の目線からも戦地を見られるよう工夫が凝らされることなどが注目を集め,同資料館の人気コーナーとなっている。


関ヶ原町歴史民俗資料館

「ユニバーサル・ミュージアム」の実現を夢見ているという木村さん

東軍(徳川家康側)を青,西軍(石田三成側)を赤と色分けし,各武将が陣営を敷いて戦いに挑み,東軍が勝利するまでの模様を3Dで表現

合戦の地に何度も足を運び,企画・開発に生かした

岐阜県立西工業高等学校(現在の岐阜総合学園高等学校)設備工学科出身の木村さんはKCGでコンピュータ技術を学んだ後,実家に近い測量会社のイビソクに入社。当初は測量関連のソフト開発などに携わっていたが,同社が発掘調査事業に乗り出してから発掘現場の図面作成やCG作成を担当するようになり,現在は同社で文化財コンサルタント事業部 文化財技術開発室室長(技術担当:GIS・3Dレーザー計測・CG・IT関連)を務めている。

木村さんはもともと歴史に興味があったこともあり,岐阜経済大学の杉原健一 経営学部教授と共同で2007年度から「3次元モデルを用いた考古学研究,遺跡復元,まちづくり支援システム」の研究に着手。2009年5月には情報考古学の分野で優れた研究成果を収め発展に寄与したとして,日本情報考古学会(事務局・京都府京田辺市)より「堅田賞」を受賞している。

3DCG「関ヶ原合戦絵巻」もこの研究の一環で企画。木村さんが名古屋市のソフト会社とともに開発したものを地元の歴史関連イベントで紹介したところ,関ヶ原町から「ぜひ地元資料館に設置してほしい」と要請された。

開発にあたり木村さんは,合戦の舞台となった地形を何度も訪れ調査しながら忠実に再現。東軍(徳川家康側)を青,西軍(石田三成側)を赤と色分けし,各武将が陣営を敷いて戦いに挑み東軍が勝利するまでの模様を3Dで表した。多くの文献を参考にしたという木村さんは「実際に武将の移動などを再現してみると,移動時間など文献に書かれている内容に無理があることも多々あった。歴史的な事実解明に少しでも役立てれば」と話す。

高校卒業を控えたころ,回路や制御などに興味も知識もあった木村さんは,進路指導の教諭から愛知県にある大学の工業系学部に推薦で進学するよう勧められた。「コンピュータは,これからあらゆるものに活用されていくだろう」と考えていた木村さんは迷ったが,学習環境などを調べていくうちに「大学では実践的なことを学べない」と判断。2歳上の先輩が通っていたこと,それに無類の歴史,寺社,庭園好きも手伝い,京都にあるKCGを進路に選んだ。パンフレットで見た設備を見て,気持ちは揺るぎないものになったという。

実家を離れ,当時の西野寮(山科区)での生活が始まった。名古屋や中四国,九州などからやってきた学生たちとすぐ友達になり,語り合うとともに夜遅くまで勉強したという。休日は決まって趣味の寺社・庭園巡り。南禅寺や金地院(こんちいん)がお気に入りだったそうだ。

「コンピュータの技術は刻々と進化していましたが,KCGの授業では基礎をきっちり教えてくれたし,新しい技術にも早く反応してくれました」と振り返り,それが今の仕事にも大いに役立っているという。

関ヶ原町歴史民俗資料館の「関ヶ原合戦3D絵巻」画面右下にある「進む」のボタンを押すと,「天下分け目の合戦」が始まった。ナレーション付きだ。各陣営の波が揺れ始め,赤色の武将と青色の武将が相見える。敗れ去った陣営は逃走あるいは壊滅,勝ち誇る陣営は次の敵陣へと駒を進める。最初は赤(西軍)がやや押し気味だったが,背反・裏切りもあり,戦況は次第に青(東軍)有利に。多くの赤が戦線を離脱する中,必死の抗戦を続けていた赤の大将もついに敗走。青の勝利が決まった。1600年10月21日の出来事だ。

徳川家康の覇権を決定づけるまでの様子がリアルに再現され,各武将の戦い方,個性まで感じ取られるようだ。自動の場合,再生は13分間。手動なら,東西両軍各武将の視点で見られるなど楽しみ方が増える。

「地元の資料館に展示できて,なによりうれしい」と木村さん。これからも開発を続け,コンピュータ技術を駆使した歴史版「ユニバーサル・ミュージアム」の実現を夢見ているという。従来の歩きながら展示物をガラス越しに見て回る「オープンミュージアム」とは違い,居ながらにしてリアル体験ができるよう設計されたミュージアムで,障害のある方でも観賞しやすくなる。「技術を磨いて研究を重ね,情報を生かした考古学の発展に寄与していきたい」。木村さんは熱く語る。


今回の開発で「歴史的な事実解明に少しでも役立てれば」と語る
株式会社 イビソク
資本金:4500万円
所在地:岐阜県大垣市築捨町3-102
(全国各地に支店・営業所)
TEL:0584(89)5507
設立:1973年5月
URL:http://www.ibisoku.co.jp/