鉄道シミュレーションの草分け的存在で京阪電鉄や阪神電鉄,JR九州などの発車メロディも手掛ける向谷実氏による講演会「鉄道の音から電車運転士教育システム・シミュレータまで」が2013年7月28日,KCG京都駅前校大ホールで開かれた。向谷氏は,自らが開発した世界で初めての鉄道シミュレーションゲーム『Train Simulator』(Mac版)から現在の『Railfan』(DS版)に至るシリーズの変遷について紹介しながら,それぞれの製品の〝こだわり〞を説明した。KCGグループの学生のほか,鉄道ファンら多くの一般の方々も聴講に訪れた。「KCGサマーフェスタ2013」の「鉄道好き集まれ!鉄道ワークショップ」も同時開催され,新幹線,JR,近鉄線を望む,鉄道ファンには絶好のロケーションのKCG京都駅前校から,ドクターイエローなどの撮影を楽しんだ。
コンピュータ・ミュージックの先駆者として知られるバンド「カシオペア」のキーボーディストとして活躍していた向谷氏は,「鉄道が大好き」という理由だけで鉄道シミュレーションゲームの開発に挑戦したという。1993年にカシオペアが初めてCD-ROMのアルバムを出したことも制作のヒントとなった。技術的な面では問題はなかったが「前例がないため,当時は鉄道の写真を撮らせてもらう許諾を得るのに時間がかかりました。シミュレーションゲームを作るためと言ってもなかなか理解してもらえなかったのです。特急電車に乗せてもらって撮影した際も,業務用ビデオの撮影時間(30分が限度)など制約が多かった」と説明。それでも1995年8月19日には初作『Train Simulator』の発売にこぎ着けた。「でも当時はMacユーザが日本でわずか1万人。不安はありましたが,ゲーム販売店をこまめに回って懸命にプレゼンテーションを続けた結果,このソフトとMacのコンピュータを同時に買うという人が続出し,なんと1万本も売れました」と振り返った。
ゲームソフトの人気は,Windows版への拡大につながり,「相模鉄道本線版」では,初めて特別に撮影専用列車を走らせてもらったという。「鉄道会社の会長が,お孫さんにせがまれて制作を要請されたという経緯があり,会社は全面的に協力してくれました。そのおかげでクオリティが一変しました」と打ち明けた。その後,家庭用ゲーム機版を手掛け,夜間走行バージョン,九州新幹線版などバリエーションを拡大。一方,鉄道シミュレーションの技術はゲームから,電車運転士・乗務員の教育や鉄道博物館の展示物などに広がっていった。埼玉県大宮市にある鉄道博物館の「D51型蒸気機関車シミュレータ」は,鉄道会社の人がそのリアルさに驚くほどの出来栄えで,来場者にも大人気だ。
音楽家出身でもあることから,ゲームソフト制作時には音にこだわってきたという向谷氏。最後に「制作者は常にユーザの声に耳を傾けていなければなりません。PC版を発売したころは,場合によってはコンピュータの出張修理に駆けつける準備もしていたほどです。ユーザと向き合い,そしていろいろな方とコミュニケーションをとる。それが制作者にとっては大事なことです」と締めくくった。