現在の船舶には大型船から小型漁船やプレジャーボートに至るまで,GPSプロッタ,魚群探知機,レーダー,サテライトコンパス,ソナー,気象観測機器など様々な航海計器や操業計器が搭載され,航行の安全と作業の高効率化が進んでいる。
しかし,現状は航海計器などにより収集した情報は一部のみ蓄積され個々に利用されるに留まり,収集したすべての情報を蓄積して広く二次利用されるまでには至っていない。
海洋ITコースのカリキュラムでは,それらの現状を踏まえ航海計器により収集した海洋情報(ビッグデータ)をデータマイニングすることで漁業などの海洋産業の高効率化を実現するソフトウェア開発などに精通した技術者の育成を目的としている。
この目的を達成するための本学の海洋実習船「青雲丸」に搭載する航海計器は,収集する海洋情報を次の4点として選定を行うこととした。また,実習船「青雲丸」に搭載する航海計器からのデータをリアルタイムで収集するインターフェイスは,米国海洋電子機器協会で規格化された「NMEA 0183」規格を利用し以下の情報をパソコンで収集することにした。
航海計器の選定については,上記の選定条件をもとに,本学と産学連携協定を締結している古野電気株式会社に機器選定の協力を依頼した。古野電気株式会社は,世界で初めて魚群探知機を実用化した船舶機器のトップメーカーで,世界に展開している東証一部上場企業である。
古野電気株式会社との協議の結果,海洋ITコースの海洋実習において効率よく活用できる航海計器として,次の機器が選定された。これら,最新の航海計器から収集した海洋情報の分析を進め,海洋産業の効率化に貢献することが期待される。以下,導入した航海計器について解説する。
古野電気株式会社製 NAVnet TZT14(http://www.navnet.com/tzt/jp/)
NavNet TZtouch「TZT14」は自船位置と航跡を海図に示すGPSチャートプロッタをコアシステムとするマルチファンクションディスプレイを介し,船舶用レーダー,魚群探知センサー,AISセンサー,GPSアンテナ,サテライトコンパスなど各種機器をLANとCAN bus の2種類のインターフェイスによって一元管理ができるなど拡張性の高い最新のネットワークシステムである。
操作はマルチタッチスクリーン機能により指先でスマートフォンを操作するように直感的で,GPSチャートプロッタ,レーダーで表示される航路や海底形状のリアルな2次元/3次元画面は,古野電気が誇るTimeZeroテクノロジーにより操作に応じてスムーズに描画される。
また,NavNet TZtouch から送信される魚探画面をはじめ,水深,水温,船速,風向,風速,緯度経度などの航海情報を手持ちのスマートフォンでリアルタイムに確認することができる。
主な機器の特長を記す。
レドームアンテナとUHD(Ultra High Definition)デジタルレーダーを搭載しており,デュアルレンジモードで1つのレーダーアンテナで遠距離と近距離を同時に探知し,海面反射,雨雪反射,降雨時などのいかなる状況下でもデジタル信号処理技術でクリアな映像を表示する。また,ターゲットトラッキング機能によりレーダーで捉えた他船の映像を自動的に捕捉・追尾して自船との衝突の危険性を判断して,アラームを鳴らすことができる。
さらにGPSチャートプロッタ画面(2次元/3次元画面)へレーダー映像の重畳や,サテライトコンパス,AISからの情報も取り入れることによりさらなる安全航行をサポートする。
船底には2周波(50/200kHz)の送受波器が設置されており,やまびこの原理で船の真下に音波を飛ばして魚や海底までの距離を浅場から深場まで気泡やプランクトン等に埋もれることなくノイズのないクリアな映像で表現できる。また,魚の居場所を突き止めるだけでなく,魚のサイズやフィッシュマークで表示する「ACCU-FISH 機能」や,海底質を岩・小石・砂・泥の4種類の底質タイプに分類して魚探画面上に見やすく表示する「底質判別機能」も搭載している。
船名,現在位置,移動速度方位等のデジタル情報をVHF電波で受け取り,レーダーでは探知できない島影に隠れた船舶も含め,周辺の船舶の動静を把握できるので危険予測・危険回避をして航海の安全性を高める。また,搭載したAISは国産唯一の簡易型で,クラスA・B双方のAIS情報を受信できる。
GPS衛星からの電波を利用して2つのアンテナで方位を測定し,海況や自船の動揺によって発生する精度誤差を加速度センサーで補正することで,自船の船首方位,ロール・ピッチやヒーブ等を高精度に検出してレーダー,プロッタ,ソナー,魚群探知機,オートパイロット等の機器に高精度な測位データを提供する。