◇…2006年,何かと新聞,テレビに多く登場した北朝鮮。多くの日本人を誘拐したままの拉致問題では,なんら解決をしようとする姿勢を見せないばかりか,今度は核ミサイルの発射実験ときた。国連や各国による制裁活動により,マカオやスイスといった海外との金融脈もストップされ,金正日政権にとって金融,物資確保の面での「頼みの綱」のひとつともいえる日本からの客船・万景峰号の往来が停止。“国内”で暴動発生が繰り返されているとの報道があるなど,かなり窮地に追い込まれていることが推測される。
◇…「核ミサイル発射実験は,失敗に終わった」などともいわれている。パキスタンやイランなど友好国から技術を学んだとはいえ,確かに北朝鮮の核開発のレベルから考えると,本当に威力があるものなのか,あるいはミサイルがそもそも実在しているのか,といった疑問はぬぐいきれない。ただ,米国から「ならずもの国家」とまで卑下される北朝鮮は,最後とも思われる「カード」を切ったわけだ。“成果”は抜きにして「実験をした」という事実ばかりが強調され,近隣諸国を脅威にさらす。
◇…国連や日本を含めた近隣諸国は,核ミサイル実験による制裁活動解除への条件として,北朝鮮に対し「6カ国協議」への参加を促した。日本のマスコミもこぞって,核ミサイル凍結に向け,北朝鮮がまず交渉のテーブルに付くよう主張。「核保有国の仲間入り」と大見得を切って当初は強気だった北朝鮮も,制裁はさすがにこたえているらしく,年末には協議の場に姿を見せた。2006年末の話し合いは予想通り不調に終わったが,ことし以降も拉致問題を含め何らかの解決策が示されることを期待するしかない。
◇…これらの報道を見ているうち,マスコミに躍る用語に疑問が生じた。「6カ国協議」という言葉だ。一部大手紙を除き,各紙,通信社,テレビの大半は固有名詞のごとく,これを用い,伝える。北朝鮮と日本とは国交がないため,日本は北朝鮮を正式に「国」とは認めていない。だから安倍首相や麻生外相,政府・外務省幹部らは「6カ国」という表現を決して使わず,「6者協議」で統一している。マスコミはそれらを取材して報道しているはずなのに,なぜ,あえて変えるのだろうか。
◇…マスコミ各社も政府と同様,北朝鮮を国とは認識しないという前提があった。たとえば「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)」という表現。「北朝鮮」と言い切るのではなく,新聞では“正式な国名”をカッコ書き,テレビでは後で付け加えるというやり方だ。これは,日本に存在する関係団体からの要請にマスコミが応じたため,と聞いたことがある。また,五輪などスポーツの国際大会では,「参加する『国と地域』」とする。台湾を「地域」と呼ぶことで中国に配慮する意味合いが強いが,北朝鮮も当然,この「地域」の中に含めている。
◇…「6カ国協議」という表現についてマスコミ数社に問い合わせてみたが,自らの報道にさほど責任を感じていないのかと思いたくなるほど,どこもちゃんとは答えられなかった。ある通信社に聞いたところ「どんな体制であれ,どんな憲法であれ,国としての形はなしているので,そのように表記してもおかしくないと思う。日本新聞協会での申し合わせでもある」とのこと。とりわけ議論するでもなく,一般的に使われてきた用語だから何となく使った,理由は後付け―のような流れが透けて見えた。
◇…国連をはじめ世界の流れに背を向け続けるのに加え,核ミサイル発射実験強行により,「対岸に位置する地域」はますます厄介で,不気味な存在になってきた。日本の安倍新政権は,拉致問題解決に力を入れるなど北朝鮮に対して強硬な姿勢を見せてはいる。首相も,他の政策のこととは比べ物にならないほど,対北朝鮮についてはっきりと自らの考えを述べる。しかし言葉とは裏腹に,現実的な対応は消極的にも映る。マスコミも含め,米国や中国などの顔色をうかがいながらの対応では,取り返しがつかないことになる。
(山)