「小学校で円周率3になる」(結果的には多くの教科書では3になっていません)などのゆとり教育批判が強まっていたころに,小学校で2001年から,中学校では2002年から,高等学校では2003年から第3回目のゆとり教育の学習指導要領が実施された。今回の学習指導要領では,「情報機器の利活用」が明確になり,中学校では「技術・家庭」で,高等学校では新教科「情報」が設置された。教科というのは「教員免許が出る単位」であり,教科の下には科目がある。たとえば数学という教科では数学Ⅰ,数学Ⅱ,数学Ⅲ,数学A,数学B,数学Cという科目が存在する。教科の免許をもつ教師はその教科内の科目は何を教えてもいいのである。典型的には,理科という教科の教員免許で,物理学専門の教員でも化学Ⅰも生物Ⅰも教えてもいいのである。物理学専攻の教員でも理科の教員免許をとるために化学,生物学,地学のすべての実験・実習を大学で履修しているのである。
さて,「情報」という教員免許の場合は,現行の学習指導要領では情報A(情報リテラシー),情報B(情報科学),情報C(社会と情報の関連,マルチメディア)という普通教科(普通教育に関する各教科)以外に,専門教科(専門教育に関する各教科)も指導することができる。この専門教科とは,「工業」,「商業」,「農業」などに相当するものである(表1参照)。現行の教科「情報」の教員免許は,「数学」,「理科」,「家庭」,「商業」の教員が2週間の教員研修を受けて発行されたもので,「情報」を専門にしている方は皆無である。したがって,自分の高等学校で充実した情報教育を実施する,特に専門教科「情報」を開講することはかなりの困難を伴うことになる。そこで,本学の提携が成立するのである。
2003年度からの 学習指導要領(現行) |
2013年度からの 新学習指導要領 |
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普通教育に関する各教科 | 普通教育に関する各教科 |
・情報A ・情報B ・情報C |
・情報の科学 ・社会と情報 |
専門教育に関する各教科 | 専門教育に関する各教科 |
・情報産業と社会 ・課題研究 ・情報実習 ・情報と表現 ・アルゴリズム ・情報システムの開発 ・ネットワークシステム ・モデル化とシミュレーション ・コンピュータデザイン ・図形と画像の処理 ・マルチメディア表現 |
・情報産業と社会 ・課題研究 ・情報実習 ・情報の表現と管理 ・アルゴリズムとプログラム ・情報システム実習 ・ネットワークシステム ・情報と問題解決 ・情報デザイン ・表現メディアの編集と表現 ・情報テクノロジー |
[表1]普通教科「情報」と専門教科「情報」
本学の提携校というのは,主として専門教科「情報」を支援するために教員を派遣している。
本学ではこれまでに高等学校を中心とした教員研修も10回以上行ってきた。実教出版主催や他の研究会主催のもの,科学技術振興機構JSTの支援のもの(SPP事務局管轄)まである。これ以外に京都府立の高校教員対象の研修も京都府教育委員会から受託されて実施しており,コンピュータ教育・情報教育の老舗であることをいかんなく発揮している。
新しい学習指導要領はゆとり教育をやめることを前提に,2013年から実施される。表1のように普通教科「情報」は情報リテラシーを扱ってきた「情報A」は役目を終えてなくなり,「社会と情報」と「情報の科学」の2科目になり,今まで以上に高度な内容になっていくであろう。本学の役割がま すます重要になっていくことを祈りつつ,本特集の挨拶に代えたい。
上記の肩書・経歴等はアキューム25号発刊当時のものです。