トップ » バックナンバー » Vol.4 » 地球サイズの情報文化創造へ

Accumu Vol.4

地球サイズの情報文化創造へ

京都コンピュータ学院学院長 長谷川 靖子

写真

本学院は,29年前に創立された日本で最初の民間コンピュータ教育機関である。当時はまだコンピュータ幕開け時代であったが,来るべき情報化社会の繁栄を予知し,その繁栄の基盤は大量の技術者の養成にあると考え,全国に先駆けて,情報教育をスタートさせたのであった。爾来29年間,教育を通じてコンピュータ文化の創造にかかわってきたのであるが,一昨年,この創立の主旨を,いまだ近代情報化社会には程遠い国々へ適用し,発展途上国および東欧圏に対し,学院保有の8ピットパソコン2000台を利用したコンピュータ教育支援活動を企画した。

目的は,広い層にわたる一般民衆への情報教育の普及,浸透である。私達は,科学技術教育の普及,振興こそは,他国に依存しない,自立した自国繁栄のキーであると信じているし,途上国にも,その真実性を確信してほしいと願った。私達は自らのアイデンティティを失うことなく,我が国情報教育のパイオニアとして,自己の体験を世界に向かって伝えるべく,海外コンピュータ教育支援活動を行い,こういった形で『世界の中の日本』として,学院の存在証明をすることに現代的な意義を感じたのである。その具体的な展開は次の如くである。

相手国文部省に教育用として数百台のパソコンを寄贈する。文部省は,このパソコンを管理し,パソコン設置校を選定し,学生,一般人を対象にパソコン教育を実行する。この教育を担当する現地教員の養成と指導は,学院が行う。技術指導は現地講習会の開催と,学院への留学招聘によりなされる。

このプロジェクトは,1989年タイ王国への支援を皮切りに始まり,ついでガーナ共和国,ポーランド共和国に対し実施された。

1990年,最初の実施国タイで第一次プロジェクトはすべて終了し,現在,寄贈パソコン350台はタイ全土にわたる教育機関22ヵ所で稼働し,学院が指導した現地教員により,年間3500人の受講者への教育が実施されている。

タイ文部省は,「これまでこういった国際協力は皆無であった」と述べ,タイ全土にわたる情報教育スタートのレールが学院の協力により敷かれたことに対し,多大の謝辞を送ってきている。タイに対して私達は,本年(1992年)16ビットパソコン寄贈による第二次支援プロジェクトの実施を予定している。

1991年,ガーナとポーランドに各200台ずつのパソコンを寄贈し,ともに現地講習会は終了した。わずか2週間の講習会なのに,国ごとに個性があり,ワンパターンの教育は通用せず,さまざまな異文化摩擦に苦しみながら,スタッフー同,講習会の成功に向かって大変な努力をせねばならなかった。それだけに,その過程で生まれた国際親善と友情のすばらしさは筆舌に尽くし難いものであった。スタッフ一同は,見事に国際人に変貌して帰国し,それは学生への教育の現場に直ちに反映されていった。

本年1月末に京都駅前に学院新校舎が落成,その竣工を記念して,タイ,ガーナ,ポーランド三ヵ国より研修生約40名を招き,現地第一次講習会にひきつぐ第二次講習会を2週間にわたり開催した。ガーナ,ポーランドより来日した研修生は,学院より派遣した講師達による現地講習会の受講者の中から選ばれた人ばかりであり,我がスタッフ達と再会の喜びをわかちあった。来日の費用に関しては,日本万国博覧会記念協会よりの資金援助を仰いだ。

また,タイよりの来日研修生達は,現地の,我が寄贈パソコン設置校の卒業生であり,かつその設置校で教師として働いている人達の中から選ばれた。

タイからは文部省社会教育局長,ガーナからは工業科学技術省次官,文部省高等教育局長,ポーランドからは文部省次官,文部省情報教育局長など,各国政府高官9名が研修生一行と共に来日,まず,学院に対する過大な謝辞が述べられ,ついで,彼らは,このプロジェクトを高く評価し,自国の教育政策に取り入れることを前提として来日した旨,伝えられた。

研修オープニングパーティには,次期実施予定国ケニア共和国,ジンバブエ共和国からの駐日大使一行も加わり,六ヵ国民族入り交じっての国際親善大パーティとなった。

タイの成功談は,各国代表に多大の示唆を与えた。タイでの成功は,タイ文部省が教育システムの一環として国の政策に組み入れたことに大きく負うものであり,私達を信頼し,私達のプログラム通りに政策として推進してくれたことを私達は深く感謝している。このような形での各国政府のプロジェクトヘの取り組みを私達は願っていたため,各国政府高官同志の意見交換の場としてこのパーティは,単なる親善以上の有意義なものとなった。

2週間にわたる研修プログラムには,大型機,WS,グラフィックス等の研修のほか,京大計算機センター,メーカーの工場,高等学校,中学校の見学も盛り込まれ,休日にはスクールバスによる奈艮・京都観光も実施された。新校舎竣工記念祭の各種イベント(5大メーカーの展示会,講演会,音楽会,邦楽・狂言等)にも,学院生と共に参加し,研修生一同は,日本ハイテクノロジーの最前線と日本伝統文化に触れ,充実した時を過ごした。

最後のサヨナラパーティは,国境を超えた一つの仲間として十数年来の知己同志の如き親善の盛り上がりとなり,「蛍の光」を各国順番に,自国語で合唱し合って感動的な幕を閉じた。

民間国際交流,国際親善の重要性が力説されて久しい。しかし国際親善を国際友情へと深めていくためには,お互いの中に必然的なつながりを確立させる必要があると思う。東欧・アフリカ・東南アジアの異文化圏三ヵ国より約40名が一堂に会し,学院生と一緒になって学び,コンピュータを媒体に,今後も協力し合っていこうという今回のこの場は,グローバルなボーダーレス国際親善の象徴の場であり,今後の強い国際友情を約束するものとして,その持つ民間交流の意義は大きい。

先進国の,発展途上国に対する技術援助は,その大半は経済援助という形でなされてきたのが現状である。その結果さまざまな弊害を生み,現在,援助システムの見直しが迫られている。ハイテク先進国日本からの『情報教育のプレゼント』こそ相手国を自力で富ませていく源泉となるものであり,まさに彼らが求めていたものであったと,私達は確信している。彼らは決して,先進国に対する物乞いに甘んじているのでなく,彼らの一人一人の中に自力で自国を富ませたい,そのためにこそ学びたいという激しい意欲が煮えたぎっていた。

世界各国から同様の支援を望む声が学院に次々と届いている。すでに,本年から来年にかけてケニア,ジンバブエに対しプロジェクト実施が決定している。

本学院による国際情報教育振興事業が,京都を日本情報文化発信の地として,文化の伝播という大きな役割を担いつつ,地球サイズの情報文化創造へと発展していくことに,私達は大いなる意義と喜びを見いだしている次第である。

この著者の他の記事を読む
長谷川 靖子
Yasuko Hasegawa
  • 京都大学理学部宇宙物理学科卒業(女性第1号)
  • 京都大学大学院理学研究科博士課程所定単位修得
  • 宇宙物理学研究におけるコンピュータ利用の第一人者
  • 東京大学大型計算機センター設立時に,テストランに参加
  • 東京大学大型計算機センタープログラム指導員
  • 京都大学工学部計算機センタープログラム指導員
  • 京都ソフトウェア研究会会長
  • 京都学園大学助教授
  • 米国ペンシルバニア州立大学客員科学者
  • タイ・ガーナ・スリランカ・ペルー各国教育省より表彰
  • 2006年,財団法人日本ITU協会より国際協力特別賞受賞
  • 2011年 一般社団法人情報処理学会より感謝状受領。
  • 京都コンピュータ学院学院長

上記の肩書・経歴等はアキューム22-23号発刊当時のものです。