本学院の卒業生には社長が多い。今回はそうした卒業生の一人,藤井康彦さん(京都市立洛陽工業高校卒業 一九九一年京都コンピュータ学院高野校 情報工学科卒業)を訪ねた。
藤井さんは一九九九年四月に合資会社フューチャークリエイツ(枚方市,従業員約10名,2002年株式会社に変更)を設立。同社は,主にゲーム開発を行うベンチャー企業として,現在注目されている。
しかし,藤井さんは学生の頃,企業を立ち上げることは特に考えていなかったそうだ。
学生時代は「いつか自分でもゲームを作りたい」と思っていましたが,ゲームで遊ぶ時間の方が長いくらいでした。ただ,その頃ゲームから受けた感動は,今の仕事にとても役に立っています。
学院で知り合った友達は有難いですね。この仕事をしていると,データベースのことなど,自分の専門外の分野でちょっと調べたいことがよくあります。そんな時,友達の中にその分野を専門にする人がいて,助けられることが多いんです。
卒業後はゲーム開発がしたい一心で,ゲーム開発会社に就職しました。6年間在職し,現場で有名ゲームソフトの開発をすることができました。しかし,会社の方向性と自分のベクトルの違いを感じ,何度となく会社側と話し合ったのですが解決策が見つからず,煮詰まりだしました。
そんな時,ある有名ベンチャー企業の社長にネットワークテレビ電話を作りたいという夢を一緒に叶えてくれないか? と一年越しに誘われ,これが転機になりました。社長直下プロジェクトの開発長として,スタッフの雇い入れ・外注先の管理・ハード・ソフト両面から,会社の未来を握る重要なポジションを与えられ,将来役員になるため月一度の役員会に出席する内に,「自分でもベンチャーを立ち上げたい」と考えるようになったのです。
そこで社長や役員に相談したところ,やりたいことがあるなら若い間にやってみろ,と助言していただきました。この会社にいた2年間に,経営に関することを色々学んだ後,フューチャークリエイツを立ち上げたのです。
フューチャークリエイツは,(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)発売の,フライトアドベンチャーゲーム『SKY ODYSSEY』に使われている「天候循環システム」を開発した。同社はこれによって,国際特許も取得することができた。現在のゲーム業界では,ゲームの中にどれほどのリアリティを実現するか,が最大の課題となっている。上記のシステムにより,時々刻々変化する気象現象を,よりリアルに再現することが可能になったのだ。
SCEはこの技術を求め,開発会社をさんざん捜しまわった。最後に,フューチャークリエイツに,白羽の矢がたったのである。
実は,最初に就職した会社で任天堂のゲーム開発に携わっていた頃,藤井さんの担当したゲームがSCEの『SKY ODYSSEY』担当者の目に止っていたのだ。偶然,営業で出会ったこの担当者は,「天候循環システム」開発の引き受け手を探しあぐねて,藤井さんに依頼してきたのだった。
この「天候循環システム」は単に,ゲームに利用されるだけでなく,経済予測をはじめ多方面にわたる応用の可能性を秘めている。例えば,南米で起こったエルニーニョ現象が日本の気象に与える影響などについても,シミュレーションが可能となる。
このような世界最先端の技術を,気象の専門家でもない,わずか数名のスタッフが開発したことには驚かされる。「数値化できるものであれば,実現できる」との信念から,インターネットを通じてあらゆる情報を収集し,気象に関する内外の論文を片っ端から検討したという。外国語や気象関係の専門用語と悪戦苦闘しながらの作業だったそうだ。また,これを開発した時期には,まだプレイステーション2用のゲーム開発環境も整っていなかった。こうした状況を考え合わせると,その開発力の凄さがよくわかる。
最後に,ゲーム開発において大切な点を尋ねた。
本当に面白いものは,人に感動を与えます。それを作るには,まず感動できる心が必要です。だからまず,よく遊び,多くの体験を重ねることでしょうね。その中で味わう感動が大切だと思います。私の場合,その意味では京都コンピュータ学院で学んだ天文学が役に立っていますね。仕事,仕事に明け暮れている時,フッと宇宙の広大さに思いを寄せると,新たな感動が呼び起こされます。未来のゲームクリエイターには若い時に抱いた夢を忘れず,自分を信じてがんばって欲しいですね。
日本から,世界に向って文化を発信する組織を目指したいという藤井さん。最先端を切り開くフューチャークリエイツに,今後も注目したい。