新しい京都駅前校舎が竣工した。学院教職員の印象としては,正直なところ,「作られて,できあがった」という感じよりも,「気がつくと,そこに在った」という感じの方が強い。しかし,この校舎は,でき合いのものをどこかから持ってきて備えつけたものでもなければ,プラスチックモデルのように,大量生産されたいくつかのパーツを,決められた手順に従って貼り合わせて作られたものでもない。全くの「無」から,この世の形として造形されたものなのである。
学院の教育哲学を,この世の形としてとらえ,そして資材を吟味し,それらを丹念に加工し,一つ一つ組み上げる技術者達の技を活かし,造形する作業を総監督したのは,株式会社錢高組大阪支社建築支店建築部次長中井俊明さんである。
中井さんは,この建物のどこもかしこも,ミリの単位で把握しているという。いわば,学院の教育哲学をミリ単位で見極めているのだ。
「建物は寸法の寄せ集めですからね」
さりげなくこう言ってのける中井さんには,プロにしか持ち得ない次元の力が,備わっているように感じられた。
「手間暇かかったものほどかわいい」と言う中井さんにとって,建築の過程は,子育てに通じるものがあったのだろう。そして,引き渡しというセレモニーは,まさに娘の嫁入りを感じさせるものだったのだろう。
「やっと娘を嫁に出した感じです」
中井さんは建物引き渡しの後,感慨深げにそう言った。
「学生さん達には,ふれあいの場,自分が馴染んでいける場を,自分で発見していってほしいですね。そしてそこに自分の思い出を刻み込んでいってほしい。建物は,機能だけで成り立っているものではないんです。そこにいる人達一人一人に,必ず何らかのメッセージを送っているものなんです。そんなメッセージをつかみとってほしいと思います」
中井さんは,学生達に向けて,学院の教育哲学の他に,中井さん自身のメッセージもこの建物に刻み込んだのかもしれない。
「学舎は,学生達の感性を刺激し,思索に色彩を加え,友情を暖かく見守る,恵み多い包容力を持たなければならない」
このような学院の思想を設計図に表し,建築現場に伝えるため奮闘してくれたのは株式会社錢高組大阪支社建築支店設計部設計課の本屋敷英夫さんである。
「学院の教育理念をうかがって,学生達が授業や実習を効率よく受けられることだけを考えた建物にするのではなく,交流の場,思索の場,安らぎの場が学生達によって,どんどん作り出されていくような建物にしなければならないと考えました。私なりの設計テーマは,『ふれあい』です」と言う本屋敷さんは,設計作業中,常に空間に「余裕」を作り出そうと意識していたそうである。
ともすれば,「実用性」や「効率」が優先される今日であるが,豊かな文化の形成には,「余裕」の中で育まれる「何か」が必ず必要である。今後を担う若者達には,その「何か」をつかみ取ってもらわなければならない。
「廊下をあんなに広くとったのは,そんな場所での学生さん達のふれあいも大切に考えたからです」
本屋敷さんは,学院の教育哲学を具現したのである。
「学生さん達には,空間を見つける挑戦をしてほしいですね。いろんな所でたくさんのふれあいを持って,刺激しあってほしい。そしていい友達をいっぱい作って卒業していってほしいですね」
最後に本屋敷さんはそう語った。