3月10日から5月28日までの約2カ月半,学院はJICAからの要請を受け,サウジアラビアから訪れた研修生2名を迎え,C言語プログラミングの研修を行った。研修を受けたのは,カーリッド・アルモタワ氏とアブドラハーマン・アルシェハリ氏。
JICAはサウジアラビアの情報教育を援助するため,同国より4名の研修生を受け入れており,4名はそれぞれ,自動制御関係,通信関係,ソフト関係の各分野の研修を分担して受けている。学院に来た2名はソフト関係の研修を受けるメンバーだ。
彼らは日本の援助を得て作られたリヤド電子技術学院で実習教員をするかたわら,コンピュータの研究を行っていたが,今回JICAから招聘され,より高度な情報教育を受けるために来日していたのだ。
学院での研修は,学院職員植田,佐藤,中西のつきっきりの指導により行われた。予定では,毎日午前9時より午後4時までとしていたが,2人とも学習意欲が強く熱心であったことから,時間を延長することもしばしばであった。2人の理解度は非常に高く「もともと日本でいう高校及び工業系の短大でBASICやPASCALを学習した経験があり,現在もコンピュータの実習をしていることもあって,コンピュータに関する基本的な概念はほぼマスターしていた。そのため,当初予定していた基礎的内容のカリキュラムをやや実戦的な内容へとアレンジし直した」(植田)ほどであった。
サウジアラビアからやって来た彼らには,敬虔なイスラム教徒としての勤めがあった。イスラム教徒は,唯一神アラーを信じ,1日に5度メッカに向かって礼拝し,ラマダンの月に断食をし,喜捨を行い,一生に一度メッカに巡礼する,という5ヵ条を守らなければならない。食べ物にも制限があり,豚肉やハムは食べてはならない。豚肉を調理した油で調理されたものも同様だ。さらに豚肉以外の肉でも,イスラム教にのっとった方法で処理された「ハラールミート」でないと食べてはならないのだ。だから彼らは,研修中も毎日5回お祈りをし,毎週金曜日(イスラムでは金曜日が休日)には神戸のモスクに通っていた。研修開始の日から2日間などはまだ断食中で,日中は何も食べなかった。このように,彼らはイスラム教徒としてルールに則り,生活していたわけだが,そこは勝手が違う異国の地である。母国では身の回りに当たり前のようにあるものが,そう簡単には手に入らないということが往々にしてある。それゆえに研修中様々なエピソードが生まれた。
たとえば,彼らの昼食についてこんなエピソードがある。京都駅前校で研修していた彼らは,お昼になると研修指導している学院職員と昼食を食べに行くのが常だったが,適当な食べ物屋を見つけるのが難しかった。そこで,研修指導していた植田職員は神戸からハラールミートを取り寄せ,これを近くの食堂「このみ」に,毎日調理して出してくれるよう頼み込んだのだ。幸い,店の主人が,忙しい時間をはずしてなら,という条件付きで頼みを聞き入れてくれ,彼らは毎日安心して食事できるようになったのだという。
彼らが初体験したこともある。それは「雪」と「スキー」だ。3月の終わりのある土曜日,学院職員有志が彼らをスキーツアーに招待したのだ。彼らは,見たことも,触れたこともなかった雪とスキーにとても感動していた,という。
こうしていろいろなエピソードを生みながら,学院での研修は無事終了した。研修の最後は,彼らが教える立場になったつもりで,Cプログラミングの重要な内容をサンプルプログラムを用いて説明するという形式で,研修成果発表会が行われた。発表を終え,修了証書を受け取った彼らは「とてもアットホームで,過ごし易かった。できるなら,ずっとここで研修したい」,こんな感想を残して次の研修先へと向かっていった。
彼らの日本での研修は12月まで続く。次は,金沢工業大学でCAIを使った教育について研修を受ける。その後は,東京で教育システムや情報教育のカリキュラム作りについて研修を受け,最後にJICAで研修発表会を行うというスケジュールになっている。
研修を終えて帰国すると,彼らはリヤド電子技術学院の正教員となる予定だ。京都コンピュータ学院から海外へ,情報教育の輪がまた広がったわけだ。