史上最大級の彗星と言われる「アイソン彗星」をテーマにした講演会とシンポジウム「歓迎アイソン彗星」(天文教育普及研究会・NPO法人花山星空ネットワーク後援)が2013年11月9日,国立天文台副台長の渡部潤一氏らを迎え,KCG京都駅前校大ホールで開催された。一般の方々が大勢聴講に訪れ,講演やパネルディスカッションを通じ,2013年最大の「天文ショー」に思いを馳せた。イベントの模様は,京都情報大学院大学の札幌サテライトと東京サテライトにも中継された。
第1部の渡部氏による講演では,2012年の金環日食や金星の日面通過,2013年2月のロシア・チェリャビンスクの隕石落下や小惑星(2012DA14)の地球接近といった最近の天文の話題が取り上げられた。続いて彗星について触れ,「彗星の訪れは,その姿が不気味に見えたのか災いを招く〝凶兆〞ととらえられていたケースが多かったのですが,一方で稲穂をイメージさせるため豊作につながるのではないかと〝瑞兆〞とされたこともあるようです」と前置きし,「彗星は1年に数十個から100個ほどやってきますが,肉眼で見られるのはまれ」と解説。池谷・関彗星(1965年),百武彗星(1996年),ヘール・ボップ彗星(1997年),マックノート彗星(2007年=南半球のみ)など,観望できた彗星を紹介した。
アイソン彗星については「太陽をかすめる彗星としては史上最大級」とし,「12月初旬の東の空に,金星並みの明るさで見られるでしょう。天候に恵まれることを祈りながら,長い尾を引く姿を楽しみにしていてください」と呼びかけた。
第2部では渡部氏と,京都市立洛陽工業高校の有本淳一教諭,子ども達に星を観せる会の茶木恵子氏,京都情報大学院大学の向井正教授,作花一志教授の5人のパネリストによるパネルディスカッションを開催。天文教育普及研究会の一員としても活動する有本氏は,「アイソン彗星の観望を学校教育現場で対応していきたい」と話した。茶木氏は「星の間を縫うように現れた百武彗星を見たとき感動して鳥肌が立ち,ハートに火をつけられました」とのエピソードを披露。向井教授は「想い出の彗星」としてハレー彗星を取り上げ,1985年当時,日本が探査計画で大きな貢献をしたことを説明。作花教授は「古文書天文学」の視点から,古い文献に登場する数々の彗星を紹介した。
会場からは,「盆地の多い京都でアイソン彗星を観望する方法」,さらに東京サテライトから「東京で観望する方法」について質問があり,渡部氏は「なるべく東の地平線が見える所を探してください。見られるのは日の出前なので公共交通機関は動いていないし,防寒対策も必要。準備を万全にして世紀の天文ショーを楽しみましょう」と話した。終了後は,パネリストと聴講者が集まって茶話会が開かれ,天文談義に花を咲かせた。