「日本IT団体連盟(IT連盟)」立ち上げを控えた2015年10月9日,千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN2015」のパネルディスカッション「明日のIT政策とソフトウェア産業を考える〜IT関連団体の役割と共通の課題〜」の席上,IT連盟設立に関し長谷川ANIA会長(KCGグループ統括理事長)らIT関連団体のトップ4人が新団体に込める思いを披露した。IT業界ではエンジニア不足が課題となって久しく,新しい組織では5年間で4万人のエンジニア創出に向け教育,経済産業,総務といった関連省庁への働き掛けを強めていくとした。
IT連盟の設立準備に尽力したのはANIAのほか,▽一般社団法人コンピュータソフトウェア協会=CSAJ,会長・荻原紀男 豆蔵ホールディングス代表取締役社長,▽全国ソフトウェア協同組合連合会=JASPA,会長・中島洋MM総研代表取締役所長,▽特定非営利活動法人日本情報技術取引所=JIET,理事長・酒井雅美バリューソフトウエア代表取締役社長。日本経済新聞社の関口和一・編集委員がパネリストを務めた。
この日のパネルディスカッションにおける主な発言内容は次のとおり。
IT分野は50万人の人材が不足しているとされています。国などは過去に何度もIT分野の人材不足を指摘しているのですが,それを解消する政策が実を結んだ試しがありません。また,サイバー攻撃に対する意識が低いのが日本の実状で,サイバーディフェンスに関する技術を持つ人材を育成するのが急務であるにもかかわらず,今の教育体制では対応が全く脆弱としか言いようがありません。それらを解決するには,業界団体による人材育成対策を実行する必要があり,新しい団体では企業の採用尺度でのカリキュラムを設計し,業界主導でeラーニングを通じて人材を育成できる仕組みをつくりたいと考えます。さらに地方都市の企業を含めた情報流通がよくなることも新団体立ち上げの狙いのひとつ。ソフトウェア業界に憧れをもってもらうためにも,アニメや映画などコンテンツ産業を創造して訴求していくべきでしょう。ウェブデザイン企業と受託系企業といった企業の世代を埋めるような交流の場も必要です。
日本には経済産業省,総務省,国交省などの傘下に200近いIT関連団体があり,さらに新たなものが生まれています。たとえば自動車産業をみると,業界団体は日本自動車工業会ひとつだけであり,非常に強い力を持っています。しかし,ソフトウェア産業では,ひとつひとつの団体が小さく力が弱いため,提言しても国にはなかなか声が届きません。これではいけない。本当は,すべての団体を解散して,ひとつの団体にしようと提案したのですが,それには強い反発がありました。そこで,管轄省庁をまたがった形で個人や企業ではなく,団体として参加することにしました。これにより,まとまりができ,政策提言や海外対応ができるようになります。1年前から準備をして,各省庁の理解は得られました。団体がひとつにまとまるためには共通のテーマが必要。そこで注目したのが,2020年に向けたサイバーディフェンスリーグです。五輪に向けて政府や企業,団体などがサイバー攻撃を受ける可能性がありますが,現在のエンジニアは企業などへの対応で忙しい。五輪そのものにたいして対応可能なエンジニアが必要で,今後5年間で4万人のエンジニアを育てなくてはいけないでしょう。新たな団体では共通プラットフォームの上で教育カリキュラムを確立して,中学生,高校生を対象に育成していきたいと考えています。今の日本では,IT教育に対する予算がないに等しい。サイバーディフェンスリーグをテコにして,IT教育予算を確保し,将来のIT立国へとつなげたいと思います。
各団体に対して,総務省や経済産業省から同じようなことをバラバラに言うことが問題であると提言したことがありました。だが,逆に,IT業界にはいくつの団体があるのかと指摘されたのです。一本化とはいわないまでも,一緒になってIT産業の存在を示さなくてはならない時代に入ってきたと思います。すべての組織が解散することに対しては,私は猛反対しました。それぞれの団体には歴史があり,目的が違います。組織を解散して新たな組織にすると,中心となる目的が違うということになり,既存の会員会社が辞めてしまうということが懸念されたのです。既存の団体を存在させたうえで,新たな団体を作った方がいいと考えました。
国には中小企業の声が全く届いていません。ひとつの固まりになることではじめてちゃんとした提言ができるようになると考えています。また,海外にも発信できるようになるでしょう。中小企業には大学を卒業したIT人材が就職してくれないという現状があって,企業が文系の学生を育成するといった事態になっています。IT人材教育を見直し,こうした課題の解決にもつなげたいと考えます。新団体設立の話には,すぐに賛成しました。