私は2017年7月,KCGの教職員である竹内聡氏と小林由依氏とともに第18回ジャパンエキスポ(Japan Expo)で京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)およびKCGグループをプロモーションするブースの出展をしてきました。今年のジャパンエキスポの様子とジャパンエキスポにまつわる話を書きたいと思います。
ジャパンエキスポは毎年7月にフランスで行われる日本に関する総合見本市です。マンガ,アニメ,ビデオゲームの他,武道,民芸,J-POPから伝統音楽までをカバーします。ジャパンエキスポは世界最大級の日本関連のイベントとしても有名です。第1回は2000年に2500m平方メートルの会場に3200人の来場者を集めた小さな集まりでしたが,年々来場者を増やし,最近は20万人を超えるようになりました。第18回ジャパンエキスポは2017年7月6日〜9日に開催され,出展ブース数675,来場者総数23万8241人でした。
ジャパンエキスポのきっかけは1970年代の終わりの日本のアニメのヒットであるといいます。1978年に日本のアニメーション『UFOロボ グレンダイザー』が,『Goldorak(ゴルドラック)』として放映されました。フランスでは子供用のアニメーションで,悲しみや憎しみの負の感情を表現するものはそれまではなかったので大変な衝撃を受け,すぐに夢中になったといいます。グレンダイザーはマジンガーシリーズの第三作で,74話も作られたのでもちろんヒット作といえますが,超合金などの玩具が大ヒットしたマジンガーZに比べるとマイナーです。しかしながら当時のフランスでは主題歌が大ヒットをして社会現象になりました。フランスでは1970〜80年代の古いアニメは未だ根強い人気があります。会場で,グレンダイザー,そしてなぜかモンチッチとのコラボを見かけました(図1)。また,私たちのブースの隣のガイナックスGBのブースでは2020年から公開予定のクィーン・エメラルダスの新作をプロモーションしていたのですが,多くの人が懐かしそうにスタッフに話しかける光景を目にしました。ハーロックとエメラルダスのコスプレイヤーも訪れていました(図2)。2013年にフランスで『キャプテンハーロック-SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』が大ヒットしたと聞いていましたが,フランスでは1970年代のアニメに愛着を持つ層が多いことを実感しました。
『グレンダイザー』以降,放映料が安いわりに人気があるということで日本のアニメーションがたくさん輸入されました。そのころ輸入された『宇宙海賊キャプテンハーロック』などのアニメは今なお人気があります。1980年代は『ドラゴンボール』,『北斗の拳』などたくさん輸入されましたが,残酷だったり,下品だったりということで日本アニメの反対運動が盛んになり,1990年代には,フランスで日本のアニメがほとんどテレビ放映されなくなりました。しかし,多くのアニメはマンガが原作であり,また,アニメでテレビ放映していない話もマンガで読めることがわかると,熱心に日本語を勉強してマンガを読む人が増えました。フランス語訳でもあえて右開きのままにしたマンガを右から左に読むことことから始まり,日本語を理解するだけでなく,擬音を理解し,マンガ特有の記号のお約束に慣れるのは大変かと思うのですが,フランスでは日本のテレビアニメの輸入制限が日本語の勉強を促したのです。マンガ読みたさに日本語を学習するとは恐るべしです。日本のマンガはたくさん翻訳出版され多くの書店に並んでいます。ジャパンエキスポでも大手のGle'nat,Delcourt/Tonkam,KANAがたくさんのマンガを並べていました(図3)。
第18回ジャパンエキスポの目玉企画は日本のアニメ100周年を祝した「アニメ100プロジェクト」でした。企画展示「アニメ100」では日本のアニメ史に残る名作をたくさんのパネルで紹介して多くの人が興味深そうに眺めていました。神山健治氏など日本から招いたアニメ関係者の講演会,トークショーやライブドローイングなども行われていました。NHKテレビで「ニッポンアニメ100」という企画があり,「ベスト・アニメ100」「ベスト・アニソン100」を選出して関連する番組を放送していたのですが,ジャパンエキスポも独自に日本のアニメ名作100を選び,会場の床のあちこちに選ばれたアニメの名作のタイトル名が書かれた「アニメ100」の案内が貼られていました(図4)。
日本が誇るコンテンツとしてアニメ・マンガ・ゲームをまとめて取り上げがちですが,市場規模が大きいのはゲームです。ジャパンエキスポでも日本の企業あるいは現地法人が派手なプロモーションをしているのはゲームのブースです。スクウェア・エニックスは,ファイナルファンタジーXⅣが階段状のステージで参加者が試遊する様子が見える巨大なブースで目立っていました(図5)。また,今年はファイナルファンタジー30周年の年であり,初代から最新のXVまでの歩みをゆったりとしたスペースで展示していました。任天堂も発売されて間もないNintendo Switchをはじめとする巨大なブースで人だかりができていました。なお,ゲームについては,ジャパンエキスポ以外にもParis Games Weekという来場者数30万人を超える大規模なイベントが秋(今年は11月1日〜5日)に開催されており,日本の企業が大きな存在感を誇っています。
日本でマスコミ報道で有名になりましたが,ジャパンエキスポはコスプレももちろんたくさん見られました。European Cosplay Gathering(ECG)というヨーロッパ全土のコスプレコンテストのファイナルがジャパンエキスポ内で行われることもあり,凝ったコスチュームと小物に身を包んだコスプレイヤーがたくさん歩いています。ヨーロッパにはMasquerade(仮面舞踏会)の伝統があるからか,日本発のアニメ・マンガ・ゲームのキャラクターにこだわらず好きなキャラクターを好きなように装うことがとても楽しそうです。(図6)
私たちのブースの近くではおにぎりやたこ焼きを売っていました。クールジャパン戦略で食もテーマに挙げられているのですが,日本の様々な食文化を伝えることもジャパンエキスポは大事と考えているようです。現地の,日本人ではないアジア系の経営する「日本料理店」はたくさんあるようですが,案外,アニメで見たあの食べ物はなんだろう? という興味から,おにぎりやたこ焼きを食べて,日本の食べ物に興味を持ってくれるならそれもよいのではないかと思いました。(図7)
日本の伝統・地域文化に関しては,様々なものがありますが,一般社団法人ジャパンプロモーションがプロデュースしたWabiSabiというパビリオンがあって伝統芸術品の展示販売をしたり,サクラステージで三味線を使ったロックや各地のゆるキャラをつかったイベントなどで盛り上がっていました。(図8)
ジャパンエキスポではマンガ・アニメ・ゲームや音楽に限らず,様々な文化が紹介されています。例えば,プロレス(PURORESU)のリングが設営されていました。私が見たときは現地の同好会っぽい人たちがいたのですが,女子プロレスのスターダムの方が参加して試合をしていたようです。(図9)また,麻雀のブースもあり,私が行ったときはあまり人はいませんでしたが,ルールの解説をしている本が置かれていました。他にも現地の同人的なスタンドは日本を感じさせるものがたくさんありました。
私はジャパンエキスポの会場をあちこちまわると日本の文化として紹介されているのがちょっと気恥しいとかちょっと日本で見るのとちょっと違うとか感じることも多々ありました(例えば指圧 図10)。しかし,落ち着いて考えると,日本のデパートの催事のフランス展なども地元の人から見ればきっとおかしいところはあるでしょうし,もっと素直に大らかに日本が大好きな人たちのお祭りを楽しめばよいのだろうと感じました。そしてそれが様々な日本文化を紹介するというジャパンエキスポのスタンスを表しているのだと思うようになりました。
最後に,暑い中ブース作業をがんばってくれた竹内氏,小林氏と,通訳・作業補助をしてくれたナオ・ベジユー氏に深く感謝いたします(図11)。