読者諸氏もご周知の通り,インターネットとはもともとアメリカの研究者間で情報交換のため使用されていたものである。それが,今や世界中でインターネットの利用経験者は約五千万人以上とも言われるほどになり,アクセスポイントであるプロバイダーは日本だけでも約400拠点に設立されるほどまでに拡大されてきた。居ながらにして世界中の好きな情報が画像・音声付きで手に入る巨大な電子百科辞典として,何かを調べたいとき専門家に聞いて回るより図書館に出かけるよりてっとり早いし,最新情報が手に入る。書店でもインターネット関連の本が山積みされ,「インターネット知らざれば現代人にあらず」という勢いである。また,本学院の学生間でも,会話の中にインターネット用語が飛び交っている。WWWを覗いたことのない学生はいないだろうし,新入生を含め大多数の学生が自分のホームページを作りつつある。教育機関に於いても,非常に有効に利用できる教材として今年から利用する学校が急増し,今世紀中にはすべての小中高校でアクセスが可能になるそうだ。これらのワールドワイドネットワークの発展の源を探ると,約15年前のブームである第1回目のデジタル化の波に遡る。
1980年代に起きた社会現象のキーワードであった「マルチメディア」という言葉は,大方の人には通信販売かケーブルテレビの一環であるとしか捉えられていなかったようである。最終的に「マルチメディア」で何ができるのかという問いには誰も明確な回答ができなかったのが結論であろう。また,この言葉が一時期の流行語で終わりつつあったのも,その一因として,当時の通信事業法改善案の意味する新ネットワークが見当違いとなっていたことも見逃せない事実だと思われる。その後,1995年のキーワードは,高価な汎用機に見切りをつけ,ライトサイジング,マルチベンダー,C/Sシステムからインターネットへと変わった。また,パソコンの普及率も特に先進諸国内では驚異的な伸び率を達成した。
これらの波を受けて具体的に何か社会的変化が起こったのかと振り返ると,次のようなことが言えるのではないだろうか? まず,世界の各地にはインターネットプロバイダーが乱立し,各企業・個人がこぞってホームページを作成してネットワークに公開した。また,その初期のホームページには必ずといってよいほど社長の挨拶と写真や会社案内などが掲載されていた。システム構築の側から観てみると,パソコンと通信回線,ブラウザを導入してインターネットにアクセスできる環境を整えたことと,電子メールで情報交換ができるようにシステムを再構築したものが増大した。当然ながら,これらのことにより最も利益を享受したのは,ソフトウェア,ハードウェアメーカーであった。それでは市場の一般消費者及びパソコンユーザーにどのような影響があったかを考えると,その影響は大きく二通りに分かれたのではないかと考えられる。きっかけは情報のデジタル化とネットワーク改善による意識革命が全世界的な規模で巻き起こり始めたことであるが,それにより複雑かつ膨大な量のデータが様々な形でネットワークからユーザへ浴びせかけらるようになった。そしてこの改革はコンピュータに精通したユーザ,または少しでも興味を持っていたユーザにとっては,一大事件として捉えられ,自らが所属している業界にさえ危機感を感じて更なるコンピュータ導入を行い,必要に駆られてそのマスターに専心し始めた。この方向へ走った者が一つ。もう一つのユーザ動向は,いささか心許ないが,最初からコンピュータを理解しようとする姿勢を放棄した者である。大きくこの二系統に分けられるのではなかろうか? そして,後者を選択した人達の中には,コンピュータの操作自体がややこしくてコンピュータの世界に入ることを辞退した人や,特にその通信速度に於いて,ネットワークの環境がとても快適とは言いがたく,苛立ちを感じたために,その真の価値を見出せなかった人も多いに違いない。
ただ,このカオスの原点を創った当事者のひとりであるバークスデール氏(注1)は冷静であった。彼は自らパソコン分野の覇者たらんとしてはいないようであり,巻き起こしたブームの社会的な影響の大きさにも動揺せず,以外と静かであった。それは今後の情報産業界の先駆者の姿勢として然るべきものでもあり,現在ネットワークをリードしている先駆者達は,お互い強烈かつ排他的な対抗意識ではなく共存共栄であるべきたという信念の現れでもあった。なぜなら,過去の歴史における例として,テレビがラジオを駆逐できなかったこともその理由の一つであろうし,この点で,バークスデール氏はネチズンの一員として,ネットワークモラルの厳守を強調しているのだと思われる。
インターネットが流行であるとすれば,流行は日常的な常識になった時点で流行ではなくなる。街頭テレビが各家庭に一瞬にして普及したように,またビデオの各家庭への普及が約2年間で終わったように,パソコンも家電化された時点で,ある意味でブームは廃れる可能性がある。しかし,キーワードであるインターネットは今後の日本経済復興の起爆剤とならなければならない。戦後の高度経済成長期に,日本人はとにかく没個性で,人の真似が得意であると風刺されたのも,その内側で培われていた高度な技術力に,世界中がある意味での驚異を覚えたからであろう。今の日本での景気低迷回復のトリガーになり得そうなインターネットの環境下では,それを一つのステップとしてお互いの尊重と個性を伸ばしながら協調して技術力にも磨きをかけて行き,歴史に残る新しい何かを創造してゆかなければならない。知的所有権が問題になり,情報の受け売りとコピーの反乱は世界規模で行われようとしている。十数年後にネットワーク社会が当たり前となった時,世界国日本府京都市のAさんはある種の技術については世界一であるという情報が瞬時に得られることになるかもしれない。世界がもっと狭く感じられる時代になった時,世界社会の一員として,その存在の意義を確立するためには自己の先天的な,また後天的な能力を伸ばし,自己実現としての個性の確立と感性の研磨も徹底してゆかなければならないと思う。このことは企業内でも国のレベルでも同様のことが言える。つまり,その磨かれた個性の集合体である組織であることが重要であり,今後は組織体制も以前から言われているように,上下関係の強いピラミッド型ではなく,相互の尊重が成り立った横の繋がりの強いネットワーク型になって行くであろう。
現在,私は本学院情報システム室の一員として,他のメンバーと一緒にCGI,ホームページの作成等を担当している。機会があれば,読者諸氏にもぜひ本学院のホームページ (http://www.kcg.ac.jp/) をご覧になっていただきたい。京都コンピュータ学院を理解していただけるよう,学校案内,海外情報教育事業,学生・卒業生のページ,さらにアキュームの記事まで盛りだくさんの内容が掲載されている。このWWWから問い合わせの電子メールを送ることもできる。最近Javaによる文字列表示も追加され,電子掲示板であるMarqueeも作成しつつある。当初はShockwaveもVRMLもなく,動画よりも画像の軽量化のためにいろいろと工夫した。しかし,時折,このようなコンテンツの作成に必要な労力の多い割には,でき上がったシステムの効果はさほど期待できるものにはならなかったように感じる。その理由を自問自答してみた。結果は,実際にインターネットを使いこなしている人たちが,まだまだ一部のコンピュータ技術者たちに限られているからであり,本当の意味でのインタラクティブの実現にはまだ多少の時間が必要であるからであろう。つまり,何事でもそのプロセスの段階で,暗中模索している内は矛盾した作業が多く,最終的に評価されるものはごく一部である。本当の意味でのネットワーク化は,限りなくプラットホームで,且つ,できる限りお人好しの,人間に対して簡単で高速なマンマシンインターフェイスを持つことが重要であり,また,それが今後の課題であるとも思う。
人間の夢は何時も想像から始まる。月面に立つ,空を飛ぶ等,実現されればその方法を知ることもさして困難ではない。今,世界は情報革命で試行錯誤中であり,ゴールドラッシュに入ったばかりである。金鉱は全て掘り出されると寂れた廃墟に変わる。しかし,今回の高度情報産業革命は底知れぬ金山かもしれない。何故なら,その金坑は地下にあるものを発掘しようとするものではなく,コンピュータメーカとユーザ,全世界中の一人ひとりがクリエイトしてゆくものであるからであり,その無限の宝にこぞって集まっても,その先にまた何かを作り出せる魅力を持つものでもある。そして,その実現には個人・企業・国家が,情報革命を積極的に取り込むという確固とした姿勢を持ち,グローバルな視野での発想を身につけることが今後ネチズンとして仮想世界に生きる上での課題であると私は思う。
最後に,通信速度や通信価格の改善については,OCN(注2)とCATV(注3)が良い意味で競争しながら共存して,日本の情報流通網の確立を早期に実現してくれることを心から期待している。
ネットワーク金山は採掘し終わらない。何故なら,NEWSなどの情報自体は無尽蔵に湧き出てくるものであるから。
(注1)Netscape社会長
(注2)NTT新通信網
(注3)ケーブルテレビ
1) http://www.jetro.go.jp/index.html (貿易関係のホームページ)
2) http://www.zdnet.com/ (世界最大のパソコン関係出版社)
3) http://www.mediabridge.com.nyo/shopping/ (ニューヨーク情報)
4) http://ec.nri.co.jp/cilclub/giftmart/index.html (ギフト関係のホームページ)
5) http://www.tasc.co.jp/addr/ad-ftp.htm (国内FTPサーバ)
6) http://www.sunplus.com/fuji/livee.htm (24時間富士山ライブ)
8) http://www.kyoto-kcg.ac.jp/~takeda/yoshimi/