Accumu Vol.7-8

RITの日々

Thanks to RIT for the memories you have given to me.

京都コンピュータ学院 新津 貴子

筆者/後列左から2人目
筆者/後列左から2人目

1994年夏,私は日本に帰国した。それから既に2年の月日が経過した。しかし,ロチェスターでの日々は決して薄れる事なく,私の体の細胞のように,一つ一つ,私と一緒に生活している,そんな気がする。

私が初めてロチェスター工科大学の煉瓦キャンパスに出会ったのは,高校生の頃だった。当時ロチェスターの郊外にある,アルビオンという小さな町のjunior(高校2年生)だった私は高校行事の一環として Rochester Institute of Technology(以下RITと略す)に大学訪問した。高校留学生として滞在予定が1年間だったので,「私には関係の無い事」と自分の中で割り切っていたような気がする。スクールバスに乗って1時間程すると大きな看板が見えた。しかし,注意深くその看板を読むこともなくキャンパスの奥へ入ると,そこには芝生が一面,そしてその中央には,煉瓦造りの大きな建物が幾つも幾つも立ち並んでいた。つい私は,バスの座席に座り直して窓に写し出されていく景色を観ていたのを覚えている。キャンパス内を案内されて,設備の一つ一つを見学していくにつれ,バスの中で感じていた割り切った気持ちがどんどんと薄れていくのを感じた。もう一度この場所に戻ってきたいと感じたのは錯覚ではなかった。

インテリアデザイン(space planning)に興味を持っていた私は,高校のカウンセラーから「RITはグラフィックデザイン・写真工学・印刷工学の分野において,全米でもトップをいく程の大学,デザインを勉強するならRIT」と聞かされ,是非その大学に進学したいと,両親に反対される事を覚悟しながら話すと,私の両親は即答で了解してくれた。これほど,理解のある両親を持てた事を心から感謝したい。

大学訪問の半年後には帰国するはずだった私が,2年後に再び同じRITの煉瓦のキャンパスの中に立っていた。今度はRITの一学生として,あのキャンパスとドミトリーの間の“quarter mile”(1マイルの4分の1程の長い距離なので,学生にそう呼ばれていたキャンパス内の歩道)を分厚い教科書を何冊もバックパックに背負って歩いていた。

専攻はもちろんインテリアデザイン。1年次には基礎的なデザイン演習が中心に行われ,2年次から本格的に図面,パース,モデル作成,ビジネスプレゼンテーション,CADなどの授業が行われた。インテリアデザイン必修授業では,実際に存在するビルなどの内装デザイン,住宅内装から病院,コンサートホールなどの公共施設まで広範囲の分野においてデザインを学ぶ事ができた。架空のクライアントだけでなく,実在するクライアントにプレゼンテーションを行うなど,大学生にはなかなかできないチャンスまで与えられた。各授業は少人数制で行われるので教授ともファーストネームで呼び合う事ができた。そうなると,幼い頃感じた「恐怖の先生への質問」という先入観も無くなり,自主的に質問する事を覚えた。教授は理解できない所は一対一でとことん教えてくれた。

充実していたのは,必修授業だけでなく,選択科目も数多く用意されていた。選択の範囲が広いため,さまざまな分野にわたって自分の知識を高める事のできるカリキュラムだった。それに加え,学内のネットワークが充実していて,学生一人一人がユーザーIDを持ち,電子メール,図書館からの資料検索,他の学校へのアクセス,メールによる課題提出など,学生には整い過ぎている程の環境だったと,今頃感心している自分に気が付く。

RITに在籍していて驚いた事の一つが,留学生の数だった。南アメリカ,ヨーロッパ,アジア,もちろん日本からも何人かの学生が留学していた。しかし,RITは他の大学と違い,日本人だけが孤立する事は決してなかった。RITには留学生対象のドミトリー,“International house”があり,さまざまな国の学生達が生活していた。もちろんその中にはアメリカ人学生も生活していて,留学生との交流をはかっていた。交流をはかっていたというと堅いイメージになってしまうが,つまり友情を深めていたとでも言うのだろうか。勉強ばかりでなく,遊びでも随分とお世話になった友人が多くできたと思うと自分でも苦笑してしまう。右を向いて日本語,左でもう一度英語と,忙しくお喋りするのが特技になってしまった程だ。「友情に国境は無い。」とはまさにこの事だと実感したのが,この寮で生活していた頃だった。国は違っていても心は通じ合う事が確かにある。同じ人間に生まれてきた限り,どこかでつながっているのではないかと感じた。お互いに影響し合い,時にはぶつかり合って他を理解する事により,世界がもっと近くなるのではないか,RITはそんな事を感じさせてくれる場所だった気がする。同じ場所で同じ時を過ごした友人達との時間,そして友情は,私にとって何よりもかけがえのない宝物であり,一生大切にしていきたい。今現在でも,当然のように各国の友人から電子メールが私のメールボックス宛に送られて来る。世界のどこに居てもRITの一部分だった私達はつながっている。

京都コンピュータ学院がRITとの提携を結んだ事により,本学院の学生がより世界に近くなった。しかもRITでのサマーコースという学生にとっては素晴らしいチャンスが与えられている。ぜひできるだけ多くの学生がその価値ある経験をして欲しいと思う。2週間という短い時間でも,得るものは多いに違いない。勉強だけでなく,人生の中で必ず忘れられない思い出をRITは必ず作ってくれると思う・・・RITが私にそうしてくれたように。私の授業を聞いている学生だけでなく,全学院の皆さんに訴えたい。

Make your Good memories in RIT !

私は大きな声で,自分が Rochester Institute of Technology の卒業生だと自称できる。そんな自信を与えてくれたRITに感謝したい。ありがとう。

この著者の他の記事を読む
新津 貴子
Takako Niitsu
  • 京都コンピュータ学院

上記の肩書・経歴等はアキューム7・8号発刊当時のものです。