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Accumu Vol.19

上野季夫先生が百歳

輻射輸達論の世界的権威で元KCG情報科学研究所 所長

記念シンポを開催

教え子たちを囲んで
教え子たちを囲んで(前列左から2番目が上野季夫先生,後列左端が向井苑生さん)

輻射輸達論の世界的権威で,KCG情報科学研究所所長も務められた天体物理学者,上野季夫先生が2011年2月26日,満百歳を迎えられた。輻射輸達論は「放射伝達論」ともいわれ,地球環境問題を科学的に実証する重要な研究分野として注目されている。上野先生はこの問題が起こることをいち早く察知し,人工衛星データを用いて地球環境問題に精力的に取り組まれたことでも知られる。また,KCGの長谷川靖子学院長をはじめ教え子も多く,彼らは上野先生の百歳を記念して2011年3月に,KCG京都駅前校でシンポジウムを開催。そのシンポジウムの旗振り役を務めた近畿大学理工学部の向井苑生教授の話をもとに,上野先生のご功績とお人柄を紹介する。

上野先生は第二次世界大戦が終わった翌年の1946年,7年余りの軍務を終えて,京都大学宇宙物理学教室へ戻られた。「1年生のつもりで天体物理学の勉強に取り組みたい」という強い思いを抱き,研究活動の再開に正面から臨まれていたという。当時,星の大気モデルの研究において懸案となっていた「opacity table」を早速作成,再びその研究成果が国際的に脚光を浴びることになる。

向井 私は高校時代に教えを受けた長谷川繁雄先生と靖子先生の薦めもあり,早い時期から「京都大学で上野先生から宇宙物理学を学びたい」と志を抱いていました。その願いがかない,上野先生と初めてお会いしたのは,京都大学理学部宇宙物理学教室に配属された3回生の春。そのころ上野先生はすでに,輻射輸達論の世界的権威として華々しい経歴と業績をお持ちでした。雲の上の存在だった上野先生にご指導いただき,感激したあのころのことは今も忘れません。あれから長い月日が流れたのですね。感無量です。

1950年代半ば,ライフワークとなる輻射輸達論の基礎となる確率論的手法に関する研究を開始。1957年にはフランスに留学,2年の間に10編もの論文を発表し「輻射輸達問題の確率論的解析」の第一人者として〝世界のウエノ〟となった。この間,シャッツマン(Schatzman)やペッケアー(Pecker)といったフランスを代表する天体物理学者との交友を深められた。

向井 先生のご専門の輻射輸達論とは,星の大気の中で光(輻射)の強さや方向がどのように変えられるかを調べることだといえます。輻射場は光が大気粒子にぶつかってパッと散らばる「散乱輻射」と,じっとエネルギーを蓄えて熱として出す「熱輻射」から構成されます。上野先生は「散乱輻射」の権威です。

1960年には,アメリカの応用数学者ベルマン(Richard Bellman)に招かれ,ランド・コーポレーションで共同研究を始められた。主に「不変埋蔵法等の数値解析アルゴリズムの開発と応用」に関する〝Bellman, Kalaba and S.Ueno〟の共著論文が多数誕生。他分野の研究者との交流を通じてフィルタリングや系同定等,対象分野を大きく広げられた時期でもある。

1971年に京都大学を退官,アメリカ・南カリフォルニア大学教授を3年間務められた後,金沢工業大学に移られた。金沢工業大学在任中の13年間は,ちょうど地球環境問題が世界の注目を集め出した時期。情報科学研究所所長として,精力的に人工衛星データを用いた地球環境問題に取り組み,グループづくりにも尽力された。上野先生が創設されたこのグループから,現在宇宙開発事業団で活躍する「衛星データの大気補正」サイエンスチームが生まれた。時代の先を読む眼の確かさに,周囲の研究者たちは敬服した。

金沢工業大学を退官後,京都コンピュータ学院に情報科学研究所所長として着任。地球大気における輻射輸達問題の集大成として「Terrestrial Radiative Transfer」を長年の共同研究者であるA.P.Wangさんやハリエット夏山さんと共著出版するなど,活躍された。

上野季夫先生

向井 上野先生のご立派さは,研究者としての優秀さはいうまでもありませんが,何よりも,その誠実で高潔なお人柄にあると思います。ご友人・知人方の上野先生に対する信頼は絶大です。私の人生で,最も大きな幸運は上野先生に出会えたことだと思っております。振り返りますと,この長期間いつも遥か前を行く先生の後ろ姿を追いかけながら歩いてきたような気がします。先生にはこれからも変わらず,後に続く者たちの羅針盤として,颯爽と前を歩いて行っていただきたいと願っております。

このように上野先生は,50年以上の長きにわたって第一線で研究活動を続けられ,その間,国際的な共同研究や学会活動に大きな足跡を残された。上野先生が百歳を迎えられたことを祝い,向井教授らが中心となって,京都コンピュータ学院を舞台に記念シンポジウムの開催を企画した。

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上野 季夫
Sueo Ueno
  • 京都大学理学部卒
  • 理学博士
  • 宇宙物理学専攻
  • 元京都大学理学部教授
  • 元金沢工業大学教授
  • パリ天体物理学研究所及び米国航空宇宙局客員研究員
  • カリフォルニア大学ロサンジェルス校客員教授
  • 南カリフォルニア大学客員教授
  • マサチューセッツ州立大学客員教授
  • 現在京都大学名誉教授
  • 金沢工業大学名誉教授
  • 京都コンピュータ学院情報科学研究所所長

上記の肩書・経歴等はアキューム2号発刊当時のものです。