Accumu Vol.5

Accumu Vol.5

KCG創立30周年記念号。脳とコンピュータに関する論文や人工知能の権威,京大長尾真教授へのインタビューなど,「情報の哲学」と「認知の科学」の二大特集でコンピュータ技術の未来を考える。人間国宝茂山千五郎師の「狂言を語る」や早大岩本憲児教授の「モンタージュの魔術」などアキュームならではの記事を満載。

  巻頭言 学院創立30周年を迎えて 長谷川 靖子 1993年,創立30周年を迎えた京都コンピュータ学院。創造性育成のためクラシック音楽鑑賞などの感性教育を行なうほか,情報教育支援活動による国際貢献など,他の教育機関に見られないユニーク性は学界,業界の認めるところである。
  学院創立30周年記念特集 情報の哲学 21世紀のノヴム・オルガヌムを求めて 次世紀に向けて地球規模のパラダイムに影響と与えそうなキーワード的学術要因は「情報」である。コンピュータは革命的影響を現社会の基盤構造に与え続けている。情報科学を要としたノヴム・オルガヌムの誕生に向け,情報の本質とその科学的思考の論理は何かについて論じる。
  「人工知能と人間」(岩波新書)の著者,京都大学工学部教授長尾真氏に聞く。情報科学的視点は,世界をどう変えるか? 長尾 真 コンピュータを道具として利用することは視点の変化を強烈に促す。これが世界にどのようなインパクトを与えているのか?「人工知能と人間」の著者,長尾真先生が,「日本語の現象全部を説明した辞書」や「森羅万象の知識の検索」などの夢を語り,情報生態学など新しい知の必要性について語る。
  人間知性理解の二つの議論 -合理論と経験論 神野 慧一郎 近世哲学の知識論における二大潮流,合理論と経験論。合理論の創始者,デカルトの心身二元論,経験論の代表的論者,ヒュームの思想を対比的にとりあげながら,人間が如何に知識を獲得し,それを成長させているのかを考える。
  心の哲学について 中才 敏郎 現代の心の哲学について,デカルトの心身二元論を「機械の中の幽霊」と批判した,ギルバート・ライルに始まり,行動主義,心脳同一説,D.デイヴィッドソンの「無法則同一論」,志向性の問題を考察したジョン・サールまで,その系譜を辿る。
  孔子とのQAシステム 高橋 英之 精神の秘密は<思想>の中に隠されていると考え「思想の数学化,思想の情報科学的研究」によって精神に迫ってきた筆者が,儒教思想にアプローチし,「論語」の公理化を通して,孔子との質問応答システムを作ることに挑む。
  梅棹忠夫『情報の文明学』(中公叢書)を読んで 牧野 澄夫 栄養分のないコンニャクが食品としては無意味ではないように,一見すると無意味に思える情報にも意味がある。それを梅棹氏はコンニャク情報と呼び,積極的にその意味を探ろうとする。情報の全体像を捉える試みをしてきた梅棹氏の「情報の文明学」を読んで。
  寧夏・内蒙の旅 留学生Y君に寄せる 米田 貞一郎 「何か永遠なるもの,人間の業といったものに出会いたい」との期待を抱きながら,京都コンピュータ学院教員の筆者が,寧夏・内蒙古を旅する。銀川の西夏王陵,包頭のラマ寺五当召,フフホトの草原祭ナダムなど,筆者が触れた風物の記録。
  研究への発想・発見・発明,意図した成果・意図せぬ発見,早過ぎる独創は権威ある大家も否定する 福井 崇時 スパーク・チェンバーの発明など創造的な業績をあげてきた筆者が,自らの経験をもとに創造的な発見や発明の端緒や,彦坂忠義氏の早すぎる独創の悲劇などを縦横無尽に語る。
  地上の実験室でクォーク・グルオンプラズマを造る-我々はビッグバン直後に到達できるか 八木 浩輔 ビッグバン宇宙論は,幾つかの実験的根拠によって,その正しさが証明されつつある。ビッグバン直後に起きるとされるハドロン相への相転移という現象は実際に起きるのか,その理論的推定値を実験で確証する試み。
  狂言を語る 茂山千五郎 茂山 千五郎,植原 啓之 大蔵流狂言方,誰からも親しまれる「お豆腐狂言」の茂山家。その当主にして人間国宝の十二世茂山千五郎師が狂言の歴史や魅力について語る。
  在京懐京(きょうにありてきょうをおもう) 京に老いてはシルバーシート?の巻 小亀 淳 バスや電車のシルバーシート。東京では,若者も傍若無人にシルバーシートに腰掛けるが,京都はどうもそうではないらしい。東大名誉教授にしてKCG教員の筆者が,シルバーシートという切り口で,東京と京都を比較する。ユーモア溢れるエッセイ。
  研究所だより 上野 季夫 リモートセンシング分野の第一人者,上野季夫博士(京都大学名誉教授)を中心に独自の研究活動を進める京都コンピュータ学院情報科学研究所。その研究業績について上野所長が報告。
  モンタージュの魔術 岩本 憲児 「様々な要素,部分,断片を集めて,あるいはそれらを合成して一つの組織だった形」を構成する技法としてのモンタージュ。エイゼンシュテインやジガ・ヴェルトフなどの理論からCG等の技術を使用したモンタージュの最前線までを語る。
  「ナチ宣伝」という神話 佐藤 卓己 ヒトラー率いるドイツ・ナチスは,その卓越した大衆宣伝によって,勢力を拡大したと言われているが,それは歴史の神話に過ぎないと,筆者は喝破する。ナチ宣伝という神話がどのようにして生まれたのか,その要因について分析した刺激的論考。
  認知の科学 上野 季夫 認知科学は,数理科学,情報科学,神経科学等との連携において人間等の生体の認知情報処理機構の解明を目指す。認知心理学に端を発するこの学問分野は,さらに哲学,言語学,人類学等とも関わり,新たな人間科学として発展を続けている。その研究の最前線を紹介する。
  認知革命? ジョン・L・キャスティ 急成長する認知科学の分野。人工知能に関するプロAI派とアンチAI派の主張の違いや研究成果の概観を通じて,いわゆる認知科学革命が本当に革命的なものなのかについて検証。認知科学の最前線を知ることのできる論文。
  脳とコンピュータ ―意識を持つ機械を目指して― 甘利 俊一 一千億個のニューロンを結合してできている複雑なシステムである人間の脳。それは未開拓の小宇宙である。認知科学分野からも,脳の謎に対する学問的アプローチが為され,ニューロコンピュータの開発などに活かされている。その成果に基づき,脳の思考と意識を巡る考察を紹介。
  認知科学と人間の心理 ―機械の知が超えることのできない人間の知とは何か? 子安 増生 認知科学の発展の時代にあって,コンピュータに代表される機械の知と人間の知の関係にについて考える。「視点」の明確な見方や,ある音楽から映像を思い浮かべるマルチメディア的思考など,人間の知の特性について論じる。
  人工の目 移動物体識別追尾装置 杉坂 政典 人間の眼に似た働きをする人工の目の研究開発を行っている筆者が,試作した人工の目が低高速で移動する物体をどのように認識し,ニューロコンピュータをいかに使っているかなどについて紹介する。
  スキゾフレニアと世界のまなざし 金 吉晴 視神経などの異常は見当たらないのに,特徴ある空間の認知の障害を起こすことのあるスキゾフレニア。その患者の描いた描画の特徴を分析しながら,私たち人間の世界へのまなざしがどのようなものであるかを浮き彫りにする。
  茶碗の音 武貞 良人 音を観ずる。古代インドでは人々は「音を聴いて鐘を想い,鐘を視ては,それから出る音を知るようになった」。あるいは「墨絵にかきし松風の音」という句にあるように,音を観ずるとは現象を心で受けとめること。心理と物理の双方を同時に包含している空間の中で,音の現象を考察する思索的エッセイ。
  音声コミュニケーションの脳内メカニズム 人工知能が言葉を理解するためには 松村 道一 話し言葉の音声によるコミュニケーションが,どのようにして可能となるのか。ウェルニッケの言語野など言語を司る脳内メカニズムや,未だ解明されていないメタ認知の仕組みなど言語情報処理研究の最先端をわかりやすく解説。
  権力・文学・国家保安局 クラウス・シュレージンガー,斎藤 太郎 ドイツ統一が実現し,旧東ドイツの国家保安局の資料閲覧が自由となった。筆者は,自分に関する記録文書を閲覧する。そこには非公式協力者による密告的な報告が含まれていた。それは自分に近しく,尊敬もしていた文学者たちによって書かれたものであった。
  宮本正太郎先生をお偲びして 長谷川 靖子 「先生が亡くなられたあとの数週間は,瞑想と思索に意識が占有された。それは,先生が私に与えた最後の無言の授業であった。」京都コンピュータ学院名誉学院長にして,現代天文学の第一人者として真に独創的な研究で多大な業績を残された宮本正太郎先生の想い出。
  岩崎直子先生逝去 京都コンピュータ学院の支柱となった先生の功績と,その生命の永遠さを讃えて 長谷川 靖子 1992年11月27日,京都コンピュータ学院の発展に尽くしてこられた岩崎直子理事が逝去された。一銭の資本金も持たずに,教育の独立性を尊び,高い情報教育の理念を掲げ,本物の情報教育を誕生させるという「不可能」を実現に導いた先生の功績を讃える。
  初代学院長の思い出 とこしえの夢 ―前学院長,父との別れ― 長谷川 由  
  星野恒彦句集「連凧」を読んで 湯下 秀樹 俳句の世界では,なんと言葉が言葉らしいことか。己れを捨て去って,言葉の海に泳ぎ入り,詩人が釣り上げてきた言葉たち。そして不思議なのは,その言葉たちが今度は,詩人の人格を雄弁に語り始めるということだ。
  漢詩 萩原 宏 「春暁」,「白藤」
  京都コンピュータ学院による海外コンピュータ教育支援活動 関連記事  
  対ケニア共和国コンピュータ教育支援活動 悠久なる大地ケニア 長谷川 由 果てしなく広がるサバンナ。永遠の草原。ここでは,あの象の群れのざわめきさえ大地に吸収され,かえってそれが一層の静けさをもたらす。どこまでも透明な空。寛容の大地。ここでは,どんな悲しみも解放され,どんなつらい出来事も,静穏な過去となる。
  対ケニア共和国コンピュータ教育支援活動 花を咲かせる旅 山崎 信夫 KCGは1992年度海外コンピュータ教育支援活動をケニア共和国に対して実施した。学院所蔵のパソコン200台をケニア政府に寄贈。1993年1月には寄贈パソコンの利用技術講習会を開催するため,学院教職員4名がナイロビに渡った。
  対ケニア共和国コンピュータ教育支援活動 ナイロビ講習会 KCGの海外コンピュータ教育支援活動の一環としてケニア共和国の首都ナイロビで開催された寄贈パソコンによる講習会の模様。会場となったKIRDI(ケニア工業研究発展協会)では,KCG教職員とMITボランティアによるプログラミング技法の講義が行われた。
  学院のみなさんJAMBO!! 京都短期留学 ケニヤ人研究者・教授16名 KCGの海外コンピュータ教育支援活動の一環として,ケニア共和国より,大学教授や政府関連の研究所所員ら16名が,京都コンピュータ学院に短期留学。
  ソフトウェア教育の改善を目指して 長谷川 靖子 学問と技術を対立概念とする既成概念と大学といえばアカデミズム一辺倒で考える固定観念が,情報処理教育の発展にとり足かせとなっている。そうした既成概念や固定観念を疑い,学問と応用技術の統一の場としての実学を発展させることが,ソフトウェア教育の改善には必要である。
  ソフトウェア教育の発展を阻害するもの 長谷川 靖子 学問と技術を対立概念とする既成概念と大学といえばアカデミズム一辺倒で考える固定観念が,情報処理教育の発展にとり足かせとなっている。そうした既成概念や固定観念を疑い,学問と応用技術の統一の場としての実学を発展させることが,ソフトウェア教育の改善には必要である。
  ガーナ共和国訪問記 行く河の流れは 長谷川 亘 KCG現学院長のガーナ全土でのあだ名は,ママ・コンピュータという。幾百人もの学生達が,そう呼ぶのである。そして学院長の名を冠したコンピュータセンターも設立された。
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  地球に近づく小天体 向井 正 地球には,様々な固体物質が宇宙から降ってくる。危険な巨大小惑星から,ダストに至るまで。時々,小惑星が地球に衝突する危険がマスコミでとりあげられることもあるが,実際のところ,その確率はどの程度なのだろう。好奇心をかきたてる科学エッセイ。
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  宇宙背景放射とダークマター 渡辺 卓也 1922年のハッブルの法則の発見,1964年の宇宙背景放射の発見,そして1992年,米の宇宙背景放射観測衛星が宇宙誕生のゆらぎを発見。20世紀の宇宙論の三大発見について。
  はくちょう座の星々-臨終の星が蘇る 作花 一志 白色矮星,中性子星,ブラックホール,これらはすべて星の終末の姿。臨終を迎えようとしている星が突然,甦り,若い星に負けず暴れまわることがある。
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  卒業生紹介 学院スピリッツ 日本システム技術株式会社大阪本部営業部営業部長を務める堀正憲氏が,京都コンピュータ学院での学生時代を振り返る。学校に泊り込み,最新大型コンピュータに触れて技術を学んだ青春の日々。
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